第18話 「海に浮かぶ古代石造都市」――ナン・マドール(Nan Madol)
太平洋の西、ミクロネシア連邦ポンペイ島の南東沖合約1km。透明度の高いラグーンに、まるで海の上に浮かぶように広がる不思議な石造遺跡群――それがナン・マドールです。現地語で「間にある空間」という意味を持つこの遺跡は、約90以上の人工島が珊瑚礁の上に築かれた、総面積約1.5平方キロメートルの海上都市です。「太平洋のヴェネツィア」と称され、1980年代にUNESCO世界遺産暫定リストに登録されました。
最大の驚異は、その建設技術にあります。島々は巨大な玄武岩の柱(プリズム状の柱石)を積み上げて作られており、一本あたりの重さは平均5〜10トン、最大で50トンを超えるものもあります。高さ10m以上に達する壁も存在し、島と島の間には運河が張り巡らされ、かつては舟で行き来していました。これらの石はポンペイ島本島の採石場から切り出され、海を越えて運ばれたと考えられていますが、当時の人々が鉄器や大型船舶を持たなかった時代に、どうやってこの大規模な海上都市を築いたのかは、現代でも完全には解明されていません。
(ナン・マドールの全体風景。海の上に広がる石造の人工島群と運河の実写 以下画像は全てinstagramに置きました。https://www.instagram.com/p/DZjH2ryn6Ni/?igsh=MTZvbHQ1em52ZGY5Nw==)
建設時期は約2000年前〜800年前頃(西暦1100〜1500年頃が最盛期)と推定され、サウデレウル王朝が統治したと伝えられています。現地ポンペイ人の口承によると、この都市は**神々や半神の王「サウデレウル」**が作ったもので、「普通の人間には到底作れない」と語り継がれています。実際に、数百トン規模の石材を正確に積み上げ、海面上に安定した島を多数作る技術力は、当時の技術水準をはるかに超えていると多くの考古学者が指摘しています。
主な仮説としては、
•人力とロープ、丸太を使った陸揚げ・運搬説
•古代の高度な失われた技術(例:浮力利用や未知の工法)
•オカルト寄りでは「巨人の力」や「古代の未知文明」が関わったという伝説
などが挙げられます。
ナン・マドールは宗教・政治・儀式の中心地だったとされ、王族の住居、墓所、神殿などが集中していました。しかし17世紀頃に王朝が衰退するとともに放棄され、現在は一部が水没・崩壊し、熱帯のジャングルと海に飲み込まれつつあります。それでも残る石壁の荘厳さと、静かに波打つ運河の風景は、訪れる者を圧倒します。
2016年にUNESCO世界遺産に正式登録されましたが、気候変動による海面上昇やサンゴの白化、観光客増加による劣化が深刻な課題となっています。現在は保護活動が進められていますが、完全な保存は困難を極めています。
ナン・マドールは、「人類は、海の上にまで都市を築くという、途方もない挑戦をしたことがあった」という事実を、静かに、しかし力強く物語り続けています。太平洋の小さな島に残されたこの巨大遺跡は、私たちに「古代の人々の想像力と意志の強さ」を思い出させてくれるのです。




