緩やかな破綻
最近の日本を見ていると、不思議なことがある。
革命どころか改革すら起こらない。
是正もされない。
ただ制度が維持され続ける。
不満がないわけではない。
むしろ不満だらけだ。
給料は上がらない。
税金は上がる。
社会保険料は上がる。
物価も上がる。
将来への不安もある。
それなのに大きな変化は起こらない。
なぜだろうか。
私は、その理由の一つが「緩やかな破綻」にあると思っている。
例えば生活するのに月16万円必要だとする。
しかし手元に入るのは15万円しかない。
毎月1万円足りない。
普通に考えれば破綻である。
しかし現実はそうならない。
人間は破綻する前に様々な工夫をする。
支払いを遅らせる。
クレジットカードを使う。
分割払いを使う。
欲しいものを我慢する。
病院へ行く回数を減らす。
車の買い替えを諦める。
旅行を諦める。
結婚を諦める。
子供を諦める。
住宅購入を諦める。
老後の準備を諦める。
そうやって今日を生き延びる。
来月も生き延びる。
再来月も生き延びる。
だから本人は思う。
「まだ大丈夫だ」
と。
しかし本当にそうだろうか。
毎月1万円足りない状態は解決していない。
未来を削って埋め合わせているだけである。
若さを削る。
時間を削る。
夢を削る。
希望を削る。
人生設計を削る。
それでも今日の生活は続く。
だから自分が破綻状態にあることに気付かない。
いや、気付きたくないのかもしれない。
認めてしまえば絶望するからだ。
昔の貧困は分かりやすかった。
失業した。
病気になった。
会社が潰れた。
商売に失敗した。
生活が成り立たなくなった。
誰が見ても困窮していた。
しかし現代の破綻は違う。
働いている。
スマホも持っている。
コンビニも利用できる。
住む場所もある。
だから周囲から見れば普通の生活だ。
本人も普通の生活だと思っている。
だが、その実態は未来の切り売りである。
そしてこの層には救いの手が届かない。
組織がない。
力がない。
時間がない。
気力がない。
生活に追われている。
労働組合にも入っていない。
政治活動にも参加しない。
デモにも行かない。
そんな余裕がない。
来月の支払いの方が重要だからだ。
だから声にならない。
怒りにならない。
政治的な力にもならない。
ただ静かに消耗していく。
困った。
お金がない。
将来が不安だ。
そう言いながら日々を過ごす。
しかし問題は解決しない。
そして気付いた時には若さも体力も失われている。
大きな音を立てて壊れるわけではない。
革命も起こらない。
暴動も起こらない。
ただ静かに閉じていく。
私はこれを「緩やかな破綻」と呼んでいる。
現代日本の問題は、貧困ではなく、むしろこちらなのではないだろうか。




