26.宣戦布告
「誰だよ、あんなイタズラ書きした奴」
「『魔王の使徒』って何だ?」
「おい騎士団!現場の警備なんかしてないで、さっさと犯人探しに行けよ!」
「やかましいっ!それ以上現場に近付いたものは不審人物として拘束するぞっ!」
転移場の入場ゲートに貼り出されたイタズラ書き。
それを一目見ようと群がる野次馬と、それを現場から遠ざけようとする騎士団。
黒いローブが転移場の入り口に張り付けられ、そこに赤文字で犯行声明が書き出された。
『我らは魔王の使徒。この城塞都市セガナドに、混乱と悲劇をもたらさん』
「よぉーし、いい感じに騒動がデカくなったな」
その近くの裏路地で、俺は騒ぎの現場の様子を窺っていた。
勿論、あのイタズラ書きの犯人は俺だ。
襲ってきた男のローブを拝借し、紙代わりに使わせてもらった。
「さて、これで連中を刺激する事は出来るな」
あのイタズラ書きは、挑発用の餌だ。
魔王の使徒を自称する隠者共を、表舞台に引き摺り出す為の。
人目を避けて隠れる連中が居るって話なら、そいつらが出張らなきゃいけないようなイベントを起こしてやれば良い。
例えば、『組織の名を騙って、大々的な犯行声明を出してやる』、とか。
相手が騒ぎを嫌う連中なら、騒動を収めようと、突然現れた模倣犯を抹消しようと動くはずだ。
そう、まさしくさっき、俺が殺されそうになったように。
後は、釣られた相手を尾行するなり、返り討ちにして色々喋ってもらうなりして、奴等についての情報を手に入れれば良い。
「名付けて、『ドッペルフィッシング作戦』!これでリブのヤツより、有益な情報を手に入れてやるぜ!」
少々危険な作戦だが、リブとの勝負に勝つにはこれしか無い。
死霊魔法も封じられ、ロクに聞き込みも出来ない俺の、精一杯の足掻きだ。
現場の見物に集まった人間は、騎士団を含めてもざっと40人ほど。
イタズラ書きの現場に、ずいぶんな人間が集まったものだ。
「ま、魔王の被害が色濃く残った都市でその名前を出しゃ、当然か」
まぁ、それもコッチの狙い通りだが。
「さて、そろそろ次の段階へ移行するか」
より連中を釣り易くする為、さらに食い付きたくなる餌を用意する。
この都市だけでなく、多方面に敵を作る羽目にはなるが……まぁ、元々敵だらけの人生だし、問題ないか。
「《スカイメガホン》」
ルーツ語で呪文を唱え、転移場の上空に大きな魔法式を展開する。
目の前に突然出現した魔法式に、野次馬や騎士団達は動揺を露わにする。
魔法式と連動させた魔石を口に近づけ、言葉を発する。
『えー、転移場に集まった愚民共、よく聞け』
俺の発言は魔石を介して魔力に変換され、展開した魔法式の範囲内に、大きく響き渡った。
ただでさえ騒がしかった転移場の周辺が、一層ざわめき出す。
元々は魔物の注意を集める為に習得した拡声魔法だが、まさかこんな使い方をする事になるとはな。
俺は路地裏から出て、大衆の前に姿を現す。
ざわめきが止み、周囲の目が俺一点に集められた。
『我は魔王の使徒、ネクロ。転移場に貼り付けた文書は、我々の犯行声明である』
混乱をもたらす悪党のムーブって、大体こんな感じか?
今まで関わったことのない人種だからよく分からん。
『手始めに我々は、そこの転移場で使用している魔水晶を、一つ残らず盗み取ってやった。この都市が受けた経済的打撃は、深刻であろう』
ま、魔王の使徒が盗んだって確証は、まだ無いんだけどな。
それでも問題ない。
今はとにかく、奴等の事を刺激する為、ひたすら悪党ムーブに徹すりゃいい。
魔水晶の件が冤罪だったとしても、奴等がきな臭い集団である事に変わりはないんだ。
『これより、我等魔王の使徒は、盗んだ魔水晶を用いて、この都市で大規模な破壊活動を行う。魔王復活の礎となる事を、光栄に思うがいい』
さて、もう少し芝居のクオリティを上げようか。
収納魔法から剣を取り出し、鞘から引き抜く。
ヘル・ブレイズとの戦闘を経て、魔具へと至った切先に、蒼い炎が灯る。
近くに停めてあった荷車に向かって、振るう。
蒼炎が刃となり飛翔、荷車に命中して爆ぜた。
どよめきと小さな悲鳴が上がる。
『見ての通り、我等は本気だ。愚かなる民共よ。城塞都市などとくだらん都市を築き、そこに住まう愚民よ。かつての歴史に倣い、手始めにこの都市と、貴様らを滅ぼしてくれよう。新たな魔王の降臨に、震えるがいい』
拡声魔法式を消し、俺は路地裏に姿を隠す。
これで良し。
あらゆる方面を敵に回す事にはなったが、これで間違いなく、これが単なるイタズラ書きではなく、魔王の使徒という危険集団の宣告である事を認知させることが出来た。
後は——
「逃すなっ!追えっ!追えぇぇぇっ!あのふざけた不届者を、何としてでも捕まえろぉぉぉぉっ!」
敵に回った連中の一角、騎士団の追っ手を振り切らないと。
奴等だって、目の前でセガナドに宣戦布告をした狂人を野放しにするほど無能じゃない。
「けど、俺も捕まる訳にはいかねえんだよなっ!」
何せ、捕まったらこれまでの苦労が水の泡だし、リブっていう特大地雷をこんな都市に野放しにしちまう。
迫り来る騎士団達を背に、入り組んだ路地を駆け回る。
「これで本物の魔王の使徒が釣れてくんなきゃ、マジにくたびれ儲けだぞっ!」
あそこまで名前を出して大々的に騒動を起こしたんだ。
流石に釣れてくれる筈。
つーか、釣れてくれなきゃ困る。




