報せの日
退院の日。
父と祥子さんと蒼介が、揃って病室まで迎えに来てくれた。祥子さんはちょっと痩せたみたいだった。今回の件で、僕は家族にたくさん心配をかけてしまった。
「ほんとにもう大丈夫だからね。足だってほら、普通に歩けてるし。検査の結果も問題なしだって」
僕はそう言って、回復をアピールした。
だけど、祥子さんが痩せたのは心労がたたってというわけではなかった。
祥子さんのお腹には、新しい命が宿っていた。
「蒼介がお腹にいたときもそうだったけど、この期間はやたらと眠くて、食欲が落ちたりするのよね」
祥子さんは困ったように、眉を下げた。だけどその顔は、笑っているようにも見えた。
「まだ性別まではわからないんだけどね、来年の春に生まれるよ」
「やった」
僕は喜びの声を上げた。家族が増える。僕に新しく、弟か妹ができるのだ。
なぜだか無性に、小松原さんに会いたくなった。
「ごめん、うちに行く前にちょっと寄るところがあったんだった」
どこかでごはんを食べてから帰ろうという父の誘いを断って、僕はひとり病室を出た。
連絡をすると、小松原さんはすぐに返信してきた。
駅のロータリー広場で、僕たちは待ち合わせた。
学校から真っすぐここまで来たらしく、小松原さんは制服姿だった。
「今日、退院だったんだね」
「ごめん、ずっと連絡しないで」
わたしのほうこそ、ごめん。小松原さんの口がそう動くより先に、僕は続けた。
「花火大会の日は、ごめん。小松原さんの話を聞かないで、勝手に怒って逃げて、本当にごめん。もう大丈夫だから。ちゃんとわかっているから。小松原さんは悪くない」
「許してくれるの? わたし、取り返しのつかないことをしたのに」
「ううん、取り返せるよ。今からちゃんとやり直そう」
どうすれば裕司の尊厳を守れるか。入院中に考えていた。
学校に復帰すると、僕はまず、裕司の使っていた机を丁寧に磨いた。この机を提出物置き場として使わないでほしいと、教室で訴えた。脚立代わりにするのもやめてほしいと。
その日から、裕司の机に花が飾られるようになった。クラスメイトが裕司の名を口にするとき、その声からは寂しさや痛みが感じられるようになった。
小松原さんとは、以前と変わらない日々を過ごした。
昼休みには並んで弁当を食べ、休みの日に予定があえば、図書館で一緒に勉強をした。再び桐丘と対することになった彼女を、僕は陰ながら支え続けた。
祥子さんのお腹はちょっとだけ膨らみ、蒼介は赤ん坊の性別を男だと決めつけて、弟とどんな遊びをしようかと考えては、嬉しそうに笑っていた。
すべてが順調に回っているように感じられた。
ただ一つ不穏な点があるとすれば、あの夜、病室で桐丘とかわした会話が、僕の心を揺さぶり続けていることだった。僕はいつか、桐丘を救う日が来ることを思った。
花火大会の日から、町では通り魔による被害者が増え続けていた。
その日の朝、通常よりもだいぶ遅れて教室にやって来た担任が、訃報を伝えた。
安在さんが通り魔に殺された。




