式の日(2)
涙を拭って息を整え、植えこみの陰から出ると、クラスメイトの姿はなくなっていた。
「助けてやれたのによお、なんですぐ頼ってくれなかったのか……」
そんな嘆きを耳にし、顔を向ける。車寄せの隅で、男性が耳にスマホをあてていた。式のとき、一番前の席に座っていた人だと、すぐに気づいた。体型などはまったく違うが、横顔のラインや耳の形に、裕司と重なる部分があった。
男性の通話が終わるのを待って、近づいた。
「あの」
僕を見ると、男性ははっとした顔になって、
「君は、もしかして裕司くんの?」
「友達です。中学からの」
「そうか」
「えっと、さっき式にいた……」
「伯父だよ、裕司くんのね。といっても、あの子がまだ赤ん坊だった頃に一度顔を見たきりだが」
それから裕司の伯父さんは話してくれた。彼の弟――裕司の父親は若い頃、決まりかけていた縁談を蹴って、裕司の母親とかけおち同然に家を出ていったのだという。以来、一度たりとも生家に戻ることはなく、十年ほど前からは完全に連絡も途絶えていた。
訃報を受けて初めて、伯父さんは弟一家が困窮していたことを知ったのだった。
「あいつは、裕司の父親は昔から善良すぎるところがあった。勤め人としてならいいが、事業に手を出して成功するタイプじゃない。借金なんかこさえる前に、相談してくれりゃあ良かったものを、女房子ども道ずれに自殺なんて」
伯父さんは頭を抱え、そうこぼした。
「もっと早く事情を知っていたら、いくらでも助けてやったのに。こんな死に方させたりなんかしなかった……」
「裕司は」
弾かれたように、僕は口を開いた。
「僕が落ちこんでいるといち早く気づいて、声をかけてくれました。誰に対しても公平で、親切で、みんなから好かれています」
伯父さんは小さくうなずき、目を細めた。その仕草はまるで、僕を通して、裕司の影を見ようとしているみたいだった。
「クラスのムードメーカーです。裕司が笑えば、みんなが笑う。裕司がいるだけで周りが明るくなるんです」
「そうか」
「ちょっと調子に乗りやすいところがあって、騒ぎすぎて先生に怒られるときもあるんですけど」
「はは、弟もそういうタイプだったよ」
伯父さんが呆れたように笑った。
「やはり父と息子というのは、似るものなのかね」
僕は時間も忘れ、裕司について話をした。裕司がどれほどいい奴で、尊い存在であるかを伯父さんに伝えた。
伯父さんは最後に、「弟たちは故郷に連れて帰るよ。裕司くんにとっては馴染みのない土地だが、いいところなんだ」と言って、連絡先を記した紙をくれた。
「いつでもいい。裕司くんに会いに来てくれるかい?」
「はい」
裕司の伯父さんに礼を言い、式場を後にした。
雨よ降れ。
空を見上げ、僕は念じた。小松原さんを好きになって初めて、雨を恋しいと思った。
こんなにも晴れた日に、裕司と別れなきゃいけないなんて、やっぱり悪い冗談なんだ。




