再会する日(1)
古本まつり当日。
待ち合わせの駅には、小松原さんと蒼介の姿があった。
「あ、兄ちゃーん! こっちこっち」
僕に気づいた蒼介が、ロータリーの向こうから大きく手を振る。遅れて、小松原さんも片手を上げた。
僕は平静を装い、二人の元に駆け寄った。
「もうすぐ電車来るよ。兄ちゃんタイミング良かったねー」
「おお、そうか」
「会場着いたら、最初にかき氷食べようよ。ブルーハワイね」
早くも蒼介ははしゃいでいる。
一方、小松原さんは不安そうに僕の顔を覗きこんだ。
「……大丈夫? 的場くん、なんか調子悪い?」
「いいや、別に。いつもと変わらないよ」
「でも、顔色悪いみたいだし」
「ああ、平気だよ。来る途中にちょっと、嫌なものを見かけただけだから」
僕は答えた。嫌なものを目撃して、嫌な気分になっただけ。
「嫌なもの?」
小松原さんは詳しく聞きたそうだったけれど、僕は言葉を濁した。
「ううん、たいしたことじゃないよ」
僕が目撃した光景を、小松原さんに伝えるべきだろうか。
駅に向かう途中の道で、信号待ちをしていたときだ。交差点の向こうを、見覚えのある顔が横切った気がした。ちょうど信号が赤から青へ変わったので、僕は急ぎ足でその集団に近づいた。
中学生くらいの女の子のグループだ。それぞれカラフルなビニールバッグを提げ、やかましく喋っている。ひとりの発言に、全員がどっと笑う。夏の太陽が似合う、明るく健康的な笑顔。彼女たちが進む先には、市民プールがあった。
そのグループの中に、美南さんがいた。小松原さんの従妹で、彼女に対し、きつい態度をとる子だ。
「そんなことより、古本まつりだよ」
僕は話題を逸らした。
「絵本、見つかるといいよね」
これから向かう古本まつりには、絵本だけを集めたブースが出る。小松原さんはそこで両親の書いた絵本を探そうと考えているのだ。
小松原さんの両親――小松原だいすけさん、小松原みやこさんによって描かれた絵本『ヒナちゃんのいと』は、主人公のヒナちゃんが、旅の途中で出会った人物たちに、様々なものを分け与えていく物語。人に与えてばかりのヒナちゃんはついに何もかも失い、ぼろぼろになって倒れる。そんなヒナちゃんに、救いの手を差し伸べる人はいない。ヒナちゃんはひとりぼっちだ。
物語はそこで途切れている。小松原さんが所有する絵本は古くて、最後のページが抜けてしまっているのだ。
ヒナちゃんの旅は、どんな結末を迎えるのか。
小松原さんは知りたがっていた。なぜ両親がこんなやるせない物語を残したのか。最後まで読めば、その理由がわかるかもしれない。両親が何を思い、どんな信念を持って生きたのか掴む、手がかりになるかもしれないのだ。
「うん」
小松原さんはうなずくと、早口で付け足した。
「でも、前に探したことあったけど結局見つからなかったし、期待はしないほうがいいかも。ほら、見つからなかったときのショックが大きいから。それにね――」
「大丈夫」
僕は被せるよう言った。
「今日見つからなくても、どんなに時間がかかっても、いつか必ず見つけよう」
小松原さんから絵本の存在を打ち明けられたとき、僕は彼女に、物語の結末を知りたいかと尋ねた。
「知りたい」そう答えた後に「知るのが怖い気もする」と彼女は続けた。絵本を探すのは諦めているとも言っていた。
しかし今再び、小松原さんは絵本を探す決意をした。僕はそれを、頼もしく感じていた。
小松原さんがこの先、前を向いて歩いていくために、物語の結末は必要なのだと思った。
会場には、予想より多くの人が集まっていた。
入り口では、はっぴ姿のスタッフがうちわを配っていた。一つ受け取ってみる。うちわには会場案内が記されていた。それによると、屋外広場がフリーマーケット会場、その先に祭りの出店があり、古本市自体は会館内のホールで行われているらしい。
「かき氷! かき氷!」
蒼介にせっつかれ、まずは出店ゾーンに向かう。
「お昼にはまだ早いけど、ちょっと何か食べておいたほうがいいかもね」
絵本ブースがどのくらいの規模なのかわからないが、たくさんの中から目当ての一冊を探すのは、なかなか根気のいる作業だと思った。空腹で挑んでは集中力が続かない。
「お好み焼きはあるかなあ」
「きっとあるよ」
出店ゾーンまでは、屋外広場を突っ切っていく。僕たちは、古着や雑貨などの品物を並べたシートの間を、ひやかしながら歩いた。
「あ! いた!」
突然、蒼介が声を上げ、駆け出していく。蒼介の向かう先には、アクセサリーやキャンドルを並べた店があった。
蒼介とアクセサリー?
奇妙な組み合わせに首を傾げた直後、
「綾人くん?」
アクセサリーの棚の影から、意外な人物な顔を覗かせた。
「久しぶりだね。元気そう」
祥子さんだ。




