18.剣聖についてと、最後の奥義
「剣聖は剣術だけでなく、この世界の文化にも多大な貢献をされました」
「ほお……」
今は魔界史の勉強中だ。
授業内容は、初代魔王の右腕である剣聖について。
「力ばかりで学があまりなかった初代魔王様に学問を教え、政治を学ばせたのも剣聖です」
剣聖凄い。
「素っ裸のまま外で生活をし、魔獣を狩って肉を焼くだけだった私達の祖先に衣食住という概念を教え、一般常識にまで広めてくれたのも剣聖だと言われております」
凄いな……。
てか、魔界の奴らは元々素っ裸で暮らしてたのかよ……。
原始人みたいな奴らだな。
剣聖がいなければ俺も今頃は住む場所もなく素っ裸で生活しているのかと思うとゾッとする。
あっ。でもそれならウェホウドさんやエルフィンの全裸を拝み放題だったのか……。
うーん。それも悪くないな……。
「例えば言語。今私達が当たり前のように使っているこの言語も、剣聖が作り、我々に広めたと言われております」
剣聖は日本語を使っていたのか……
……って、え!?
「この言語も剣聖が発祥何ですか?」
「え、ええ……」
身を乗り出す俺に驚いたのか、ウェホウドさんは小声で小さく頷いた。
まじか。剣聖は日本語を知っていたのか。
魔界で日本語が使われてる理由がようやくわかった。
この世界では、所々地球生まれの文化が存在している。
魔界の食文化だって、地球でいう和食や洋食にそっくりな食べ物ばかりだったし、
時計やベビー用品、そして闘技場や学校、そして家だって地球と同じ造りになっている。
夜中に森で見たあの日本刀だって地球の文化の一つで、本来なら魔界に存在しないはずの武器だ。
「どおりでおかしいと思ったんだよ」
地球とは全く違う世界観の癖に、日本の文化が介在しているのは前から妙だと思っていた。
しかし、これで合点がいった。
剣聖と名乗る日本人が地球で培った知識を活用して魔界の文化を色々と発展させたんだ。
でも、剣聖は200年前の人間だ。
仮に剣聖が日本人だとしても、
そんな昔の人間がどうして現代日本の文化を知っているんだ。
……やべえ、もっと剣聖について知りたくなってきた。
「すみません。剣聖についてもっと教えてくれませんか?」
目を輝かせて訊ねる俺に対し、ウェホウドさんは少し申し訳なさそうに顔をうつ向かせる。
「すみません。剣聖についての事はこれ以上記されていないんですよ」
「え?」
「剣聖は自分の存在を世間に露出されることを酷く嫌っておられました。どうしてかは分かりませんが……」
「そうなんですか……」
クソ、せっかくこの世界の事をもっと知れると思っていたのに!
「すみません。もう私にわかっていることは、剣聖が昔使われていた伝説の剣のありかと、その剣の奥義くらいで……」
「剣のありか?」
「はい。剣聖が使われていた名刀『逢魔の刃』のありかと、彼の技くらいの情報しか知らないのです」
剣聖の使っていた剣は氷山をも真っ二つに切り裂いていたとウェホウドさんから聞いた事がある。
そんな剣を俺が手にしたら、いったいどれだけ強くなれるか。
「その剣はどこにあるんですか?」
「この敷地の森を抜けた草原に封印されています」
「草原??」
あれ、俺そこに行ったような……。
「ゾーマ様がいくら強くなってきているとはいえ、まだあそこに踏み入るのは無理でしょう」
え、ええ。そうですよね……
「あそこには剣を守るために魔王様が育てたS級魔獣がわんさかいますからね。S級魔獣は一流の冒険者や私のような魔界騎士団の隊長格でさえも十人以上のパーティーを率いてやっと一人討ち取れるくらいの強さを持っている最強の魔獣ですからね」
「そ、その魔獣ってもしかして、首が3つあるケロベルみたいな魔獣ですか?」
「はい。そうですよ。よくご存知で」
「あ……」
あかん。
俺、その魔獣を一人で5匹も殺した後、そいつらが守っていた石に突き刺さっていた大きな剣を抜いてしまったわ……。
てか、あいつらS級魔獣だったのかよ。
あんまり強くないからB級、もしくはA級魔獣かと思ってたよ。
「まあ、例えその魔獣達を倒せたとしても、その剣には魔族の天敵である悪魔がつけた固有魔法の呪術があるので、どの道その剣は誰にも引き抜けませんよ。ゾーマ様のスキルも、7属性の魔法は打ち消せても、悪魔しか持たない固有呪術は打消せるかどうかわかりませんからね。」
……す、すみません。その固有呪術っていうのも俺が打消してしまいました。
今ではただ切れ味が凄い日本刀です。
どうしよう、これ言った方が良いのかな……。
「確かに剣王様の伝説の剣は我ら剣士にとってはこれ以上ない憧れのような物ですが、現実的に入手することは不可能です。結局はそんな凄い武器に頼らず、地道に鍛錬するのが一番なんですよ」
「えーっと……ウェホウドさん。俺、その剣。家に持って帰ってしまいました」
「……」
瞬間、沈黙が俺達の間に走る。
「え? あの伝説の剣をですか?」
ウェホウドさんは声を霞めながら俺に訪ねてきた。
俺は静かに頷いてから、自分の部屋に隠しておいた剣を持ってくる。
「これですよね?」
持って帰った日本刀をウェホウドさんに見せる。
ウェホウドさんは理解が追いつかないのか、呆然とした表情を浮かべながら、体を小刻みに震わせていた。
「嘘……ということは、ゾーマ様、S級魔獣の群れを全滅させたってことですか?」
「はい……」
「お一人でですか?」
「そうですね。エルフィンも、ゴブ平も、オークンもその時はいませんでした」
「……ふふふ」
俺の答えを聞くと、ウェホウドさんはにやりと怪しい笑みを浮かべた。
「やっぱり、私の予想通り、この子はとんでもないい資質を持っていた」
ウェホウドさんは何かぶつぶつと言っていたが、俺には聞こえなかった。
「ゾーマ様!」
「ハイ?」
何だその無駄に元気な声。それに何だその胡散臭い笑顔。
この笑顔をするときのウェホウドさんは、大抵ろくな事を考えていない。
「とうとう……貴方に教える最後の技を伝える時が来ましたね」
「最後?」
急な話だな。まだ約束の期間まで1年はあるぞ」
「まだ、私の任期はあと1年ほど残されていますが、もう私がゾーマ様に教えてあげられることは、一つしかありません。私の予想以上に、貴方は凄い成長を遂げられていました」
「そうなんですか?」
ウェホウドさんは嬉しそうにうなずく。
「今から教える技は、残念ながら見本を見せることはできません。何故なら、私はその技を知ってはいますが、最後まで取得することが出来なかったからです」
「ええ! ウェホウドさんもできなかった技をこれから僕が挑戦するんですか?」
無茶言うな。
魔界騎士団の隊長ですら成し遂げられなかった技を会得できるはずがない。
「いいえ。ゾーマ様ならできます。単純な戦闘力だけなら、もう貴方は私を超えています。そして、今後の修業次第では剣聖や魔王様ですら超越できるでしょう」
「剣聖や父上も越せる?」
おれの問いに、ウェホウドさんは頷いた。
マジで? 本当にその技さえ覚えればサタンや剣聖を越せるのか?
なら、覚えるしかないじゃないか・・・。
「はい。何故なら、今から私が教える技は、その剣聖でも一度しか成功する事ができなかった、最大難易度の剣技だからです。その技は空間をも切り裂き、何度も魔界を襲ってきた伝説の魔獣『オーディン・タイガー』をも真っ二つにしたと言われております」
ウェホウドさんは一拍の間をおいてから、真剣な表情でその伝説の技名を言った。
「神の裁き」この技を貴方は会得する覚悟がおありですか?」
「ははは」
ウェホウドさんの問いかけに、俺は不敵に笑って見せた。
その覚悟があるかって?
あるに決まっている。俺は元より、その誰にも負けない力を得るためにこの世界に来たんだから。
「ハイ! よろしくお願いします!」
こうして「神の裁き」の会得を目指した最後の修業が始まった。
そして俺は最後の1年間、血の滲むような鍛錬を経て見事その技を我が物にした……




