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魂の熟成

 足元から広がった闇に飲み込まれた一行。ふと、明るい場所が視線の彼方に見え、皆でそこを目指す。そこにあったのは……。


「応接間……?」


 そこは闇の中に浮かび上がる少し豪華だが、ありふれた応接間。余りにも本来の迷宮との落差、そして闇から浮き上がるそこに、警戒しか沸かない。


「ここは……」

「芳醇こそ至高」


 問いに対して、脈絡を無視して聞こえた声に顔をやれば、一人の女がいつの間にか座ってグラスを傾けている。


「最下層へと、一攫千金。希望をいだく。何でもいいわ。やって来て熟成したコレは、甘美」


 闇を纏っている、いや闇そのものの気配を醸した女に、徐々に一行は戦闘体制に入ろうとする。しかし、それを見た女はグラスを置くと嫣然と、そして初めて一行に声を掛ける。


「私は礼を言いたいだけよ。四百年もの永きに渡り、私に尽くした彼に限りない感謝を」


 だからお礼として地上に返して見逃してあげましょう。女はそう続ける。


「何せ私に代わって、迷宮の奥底で、ずっと魂を集めてくれたのだから……ね」

「闇なる魔女……。実在していたのか……」


 男――司祭は絶句する。それはまことしやかに囁かれていた噂、伝説の類い。迷宮には主がいる。『其は、闇なる魔女也』と。

 それを聞き、おかしくてたまらないとばかりに、哄笑する女……いや魔女。


「説明ありがとう。神とも呼んでくれてもいいのよ。間も無くそうなるのだから」

「何を言っている。神とは、我が教会の主たるあの方こそが唯一神」


 司祭の反論に、ひたりと視線を合わせると魔女は動く所作も見せずに肉薄する。


「死ぬのは怖い?」

「な、何を……」

「死ぬのは怖い……?」


 気が付くと魔女は、竜の女の背後から肩を抱き、舌なめずりするかの様な口調で続ける。


「何故、死体から蘇生が出来るのか。まだ魂と肉体の繋がりがある内に、身体にそれを思い出させるから」


 思わず悲鳴を上げて手を振るった先に魔女はおらず、自分を抱き締める様に身を固める竜の女。


「繋がりが切れたら、死ぬ。じゃあ魂はどこに行くの? 地上ならば、空へ。じゃあここは?」


 死神の前で小首を傾げる魔女に、彼は震えながら答える。――そう、溜まるのだ、ここに。迷宮の中に。

 何故なら自分はそれを集めて、こやつに渡していたのだ。


「あの都市が潰れただけじゃ足りなかったのよね。魂。だから、ここをその為の狩り場にしたの。エサは沢山ある。馬鹿な人間もたぁくさん」


 口が裂けそうな程に開いて笑う魔女を、機械人形――娘アリシアは、静かに見詰めて呟く。


「あなたが壊した」


 魔女の姿は消え、声だけが四方八方から包む様に聴こえてくる。


『そう、私』


「まさか、あなたがそそのかした……?」


『そう、頭の良いエルフどもに、魔導の仕組みを教え、後はあおっただけ』


「あなたが……滅ぼした」


『そう、神へと至る身には必要な経費』


「あなたが……!」


 叫ぶアリシアの声に、心底おかしくて堪らないとばかりに響き渡る魔女の笑い声が木霊する。


『さ、私は溜め込んだ魂を使って神へと至るの。偽の神として喚ばれた私は、今度こそ神に至るのよ』


 ――まさか偽神を動かすのか! そう叫んだ死神の声に応える事も無く、笑いは遠ざかっていった。




 辺りはまた、迷宮の暗い雰囲気に戻った。この暗さですら、先程の魔女の放つ気配に比べれば清浄さすら感じられる程である。


 アリシアの身体を動かし、どこかへと向かい始めた死神に、司祭は声を掛ける。


「どこへ。そして偽の神とは」


 ――歩きながら話すと皆を促し、彼は語る。かつての栄華を誇った故郷。かのエルフの街は、他種族を相手に不必要なまでの威力の武器を作り続けていた。その中の一つに、敵陣地へと転移し強襲をかける巨大兵器があったという。


 ――あまりの巨駆に、付けられた名前が『偽神』。圧倒的な威力で全てを凪ぎ払うそれは神の御技へと至ると。


 罰当たりな……という司祭の吐き捨てる言葉に、確かになと頷く死神。あの狂乱の兵器開発も、熱に浮かされていたのも、やはり差し金あっての事だったのかと、冷めた頭で考える。


「でも、なんで今さら動かそうなんて言うんだい? 出来上がってんなら、昔動かしていたんじゃ」


 ――燃料の問題だ。燃料は……。


【大量の魂】


 城一つが動く程の動力。転移の為の魔力。その課題は達成出来ずに、完成間近で放棄されていたはず。


 ――だから、私が壊しに行く。あんなものを地上に出せば、都市は灰塵と化す。


 ――だから、私が責任を持って破壊する。それが、死神として永らえてしまった私の償いであり、形見スーヴニールだ。

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