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胎動する闇、立ち向かう光

「ここは……」


 一見すると何も無い壁の前で立ち止まる死神。しばらく壁を触ると、アリシアの指を小さな穴に差し込ませる。甲高い音を立てて、ただの壁に見えた部分が扉の様に左右に開放される。そこにあった物は、大量の装備品、資材や宝石の群れ。


「これってお宝の山じゃないか!」


 竜の女が嬉しそうに尻尾を伸ばしてはしゃぐのを横目に、内部に入るアリシアと死神。


 ――迷宮の中で、四百年は昔の品々が、何故綺麗な状態で見付かるのか。魔物が何故そんな装備を持っているのか。ここで自動化して製作されているからだった。


 部屋の端に完成した武具等が帯状の通路を移動していき、箱に詰められて出荷されていく。本来ならばエルフの都市の軍人用の工房であったものが、冒険者を呼び寄せるエサになっているという不思議な状態だ。


「宝箱もこうして用意されていたのか……」


 罠は何故装着されているのかと尋ねる司祭に、死神は答える。――本来は支給品であり、個別に認証を行っている。階級が高い程に箱も豪華になり、罠も凶悪になると。


 ――アリシアの機械人形の身体に登録されている認証により、この場では開け放題だが。


「これは聖なる刃。こちらは名刀の……。まさしく宝の山ではないか」


 喜ぶ司祭を振り返り、死神は告げる。――それを持って君達は地上に帰ると良いと。


「あたしも!?」

「ここまで付き合わせておいて水臭いではないか。私も王国の長として……いや冒険者として危機は看過できぬ」


 何やら怪しげな事を言い直した司祭を皆が見詰める中、死神はもう一度告げる。――餞別であり、恐らく先の反応を見れば幾つかでも持ち帰れば一生涯暮らしていける程の金額が手に入るだろう。


「私は戦いますけどね。ね、お父様」

「私もだ。先に告げた通り、最後まで付き合おうぞ」


 ――すまないと、父は頭をかきながら謝罪する。


「ともかくあたしも最後まで付き合うかんね。それにしてもさ、この程度の武器じゃ足りないんでしょ? 攻城兵器並みだっつーのに、こんなんじゃ」


 それに頷くと、さらに奥の隔離された区画へと向かう。数字が書かれた板を、淀みなく一定の手順で触り部屋を開け放つ。そこにあるものを見て、死神以外は驚きのあまり声も無く固まるのであった。




 かつて竜が守っていた場所の後ろは長い階段が続いていた。地獄への穴かと思う程に暗く濃い瘴気に、一行は寒気をおぼえる。だが行かねばならぬ。歩みを進めねばならぬ。


「分かる範囲で、その偽神とやらの情報を教えてくれ」


 先程の工房で入手した持てる限界まで装着し、確かめる様にそれを振りながら司祭が尋ねる。


 ――武装は周囲一帯、小さな村を一撃で焼き払える程の光弾の乱射。左右の手から精密に相手を狙う光の槍。さらには再生能力も有し、速度は遅いが、単独で飛行も可能。


「詰んでない……? それ」


 呆れる竜の女に、一つずつ丁寧に答える死神。

 ――飛行速度は巨体だけに、ピーの竜の時の半分以下。また巨体だけに遠くから攻撃しても的として当て易い。再生にも燃料……つまり魂を消費するから、長期戦になればこちらが有利。


「つまり、その長大な火力。馬鹿げた範囲の広大な攻撃を回避し続け、こちらは当てるという事だな。全く忌々しい程に難易度の高い戦場だな。腕が鳴る」


気合いを入れた司祭の後ろで黙々と何かを食べ続けるアリシアに訝しげに声を掛ける竜の女。


「それにしてもさ、延々とアリシア何か食べてるけど美味いのかそれ……」

「出汁の味だけするみたいな……?」


 アリシアに無理に食べさせているのは、先の工房で幾つも発見した魔法の結晶。それを甘味か何かの様に少しずつ口にいれながら歩いているのである。


 ――この先どうあっても、魔力切れは致命的になるのでな。


 お腹が苦しくなってきたと泣き言を言う娘にそれでも無理に勧める悪い父だと自覚しながらも、食べさせるのは止めないのであった。




 階段の終点。禍々しい巨大な扉が道を塞ぐ。それを押し開けば、見えてくるのはどこまでも広い空間。天井も高く、真上を見やれば目が眩むかの様。そんな中、遠くに見えてきたものに、一行は一気に緊張が高まる。


 白い粘土を幾つも合わせ、さらに幼児がこねくり、無理矢理人の形を取らせたらこうなるのだろうか。しかもその大きさは城ほどもあり、立て膝の体勢ですら巨人族や竜族を凌駕している。


「まだ動いてはいない様だな」

「そして、待っている道理はないってね!」


 女は竜の姿に戻ると肉薄しながら、口をすぼめて、火の玉を連続で吐き出す。いつの間にか火竜の背中に乗っていた司祭が、空中から手裏剣をありったけ投げつけ、それは狙い外さず全て吸い込まれる。

 旋回しながら警戒する火竜と司祭が、爆煙の中から伸びる腕をかいくぐり、天井すれすれまで飛上がる。


 ――アリシア行けるか?


「魔力集束率必要量へと完遂。汝、その光たる結界の中にて、安息と安寧にて至れ。招かれざる者よ、永久の眠りの中で永劫安らかたれ」


 限界まで魔力の結晶を食べさせ、さらに記憶素子の中にある古の大魔法を発現、発動。現世界でも恐らくは発動すら出来ずに、大抵の魔術師は詠唱だけで力尽きるであろうそれを、アリシアは見事に発動させた。


 未だ動きの鈍い偽の神を起点に天井まで円柱状の巨大な柱が立ち上ぼり、そしてその光が集束していくと、巨大な氷の柱が完成する。超極大結界術だ。


 ――アリシア次だ!


 上空で回避していた司祭と火竜がそれぞれに呪文の詠唱を始め、アリシアは全身を強ばらせると形を変え始める。


「これ、絶対肩が凝るし、可愛くないですよ父様」


 まだ軽口を叩ける余裕がある娘に笑みを雰囲気だけで届けつつ、自らも呪言を呟き始める。


「神への祈り。生への渇望。我が眼前に立ち塞がる愚かなる生への冒涜者へ、神の威光たるその強き眼差しいざ顕現めされ!」

「ヤンマーニ、アンマーニ。サルバトール、アンマーニ。竜の逆鱗触れたる彼の者に裁きをいざ与えん!」

「死者よあれ、我が盟約により、其の魂、再び我が力となりて、共に打ち砕く力とならん。ルブレード!」


 三つの詠唱が終わり、巨大な力の奔流が凍ったままの偽の神へと突き刺さる。さらにアリシアが攻撃をしかけようとした瞬間だった。


『まぁ、頑張った方かしらね。おはよう。あなたたち』


 全方位へと同時に光が放たれ、地下空間は一気に崩落した。

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