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赤き竜の守りし場所

「シノビにも飽き、司祭紛いの事をやっていれば、今度は死神と行脚とは……。人生分からないものだ」


 男が道すがら、そんな事を呟くのを聞きつけ、娘――機械人形は、相槌を打つ。


「私もまさか、起きたら400年は経過してるなんて思いませんでしたよ」


 和やかとまでは言えないが、それなりの距離で行われる会話を彼――死神は、見るとも無く見ながら思案する。


 機械人形が現れる直前に脳裏に浮かんだ映像。あれは何だったのだろうか。無いはずの胸がかきむしられる様な焦燥と絶望。そして、あの映像の中の自分を【父】と呼んだ娘は、機械人形に瓜二つだった。 ――話し方や性格は大分違う様だと、宙に浮かびながら視線をやると目が合う。


「マスター。私も全ての記憶素子が残っていた訳ではありませんので、食い違い等があると思いますが、恐らくその方をモデルとして作られた様です」


 そう言って、腹に当たる部分を少し開いて見せる。そこには『我が愛する娘――アリシア』と記されていた。

 呆然とそれを見詰めていると、男が覗きこもうと身動きし、それを察知して直ぐ様腹を閉じて睨む娘。


「乙女の秘密を覗こうとは、ハレンチな司祭ですこと」

「ふむ。機械なれども心の内は娘か。失礼した」


 苦笑しながら一礼をする様は道化の様。しかし、彼の命を狙っていたはずなのだが、今はまるで殺気も無く、横を歩いている。こうしてついてきている事自体が道化の様。


――もっとも、死神が生ある物を先導して深層へと誘うのだから、自分もそんな道化芝居の団員の一人かもしれない。


 彼は通りがかりに現れた上位の悪魔を、自身の鎌の一振りで屠りながら、先へと進み続けた。




「生きている人間で、ここまで来たのはあなたが初めてじゃないですかねー」


 能天気な声で発せられる声に、ほうと一息吐くと男は返す。


「しかし、死神に連れられてというのは死出の旅の様だな」


 とりあえずこの先に赤き竜がいると、娘が告げ、三人は臨戦態勢を取った。




「客人かい? 随分とまあ、異様な組合せだこと」


 近付いた一行を、ゆっくりと開いた目蓋の中の紅い瞳で見詰めると、気だるげに身体を起こす赤竜。喋る事に驚いた男二人を置いておいて、娘は話し掛ける。


「解錠code発令により、参りました」


 それを聞いて、赤竜は眼を見開き、娘を見詰めた後に彼にじっと睨みをきかせる。


「そうかい、そうかい。いや、実に永かったよ。人の言葉を手慰みに覚える程度にはね」


 それじゃあ……と、丸めていた身体を動かし、眠れる赤竜は四足で台地を掴むと高らかに吼えた。


「さぁ殺りあおうか」




 灼熱の吐息を彼が鎌の回転で受け流し、合間から男が小さな刃を投げつけ、娘はというと……。


「とんでけぱーんち」

「ロケットきーっく」

「お腹からびぃーむ」


 緊張感の無い抑揚と言葉を発しながら、確実に手傷を負わせていく。彼が鎌を車輪の様に振り回しながら突っ込んだ背後に、男は寄り添う様に追撃。赤竜の首を狙って一閃。凄まじい量の血を吹き出しながら、竜はドウと倒れ付した。




「呆気無かったですねー」

「娘よ、お前が敵でなくよかった」


 半ば本気で怯えながら男が返す。彼は赤竜の足元からしっかりと施錠されていた箱を見付けると二人に知らせる。男が慎重に鍵を開けると、カパリと箱は開いた。


「あら器用」

「昔取ったなんとやらだ」


 そして中を覗き込むと、入っていたのは小指の爪程の小さな板。キラキラと光を反射する様は宝飾品の様だ。


「これだけか……? そもそもこれは何だ。魔法の品にも見えぬが」


 男がつまみ上げて、しげしげと見る中で突然大地が揺れる。男の手から飛ぶ小さな板をあわあわと娘が掴もうとする中、赤竜の死体が振動し光ながら縮んでいく。みるみる人型になったかと思うと、首を押さえながら女が一人座りこんでいた。


「いやーきつかったわ。しかし、あんたら強過ぎ」


 思わず武器を構える男性陣を手で抑え、竜と入れ違いに現れた女は呟く。


「保険にかけておいた人化の術が発動しなかったら本気で死んでたわよ」


 降参とそのまま両手を上げる女。そしてその後ろで、何か悲鳴の様な声の後、ゴクリと何かが飲みこまれる様な音が辺りに響く。


「あ……さっきの飲んじゃいました……」


 一行が振り返ると、娘が腹を押さえて謝る。その瞬間、何やら起動する様な音がその腹から響き、そして辺りを光が覆った。

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