表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

やって来る死の使い

「汝、死を忘れるなかれ」


 そう呟きながら振るう男の腕が脚が、その聖別されたナイフが彼を捉える度に、彼の身体から何かが抜ける。


「されど、汝、死、恐るるなかれ」


 その言葉と共に壁にナイフで縫いとめられる彼。死神は物体を透過出来るはずだというのに、まるで抜け出せない。


「死神よ。貴様も死を忘れてはいけなかったな」


 男がそう呟きながら、祈りを捧げ、何か聖なる気配が集まり、彼の存在を脅かすのを、彼は見ている事しか出来なかった。




   ***********




 その日は何やら階層が騒がしかった。迷宮の最下層に近いここは、高位の魔物や悪魔がはびこり、冒険者達も易々とは降りてこれない。

 普段は精々、魔物同士が縄張り争いで騒ぐだけだった。


 だが、この日は明らかに違った。高位の司祭が、片っ端から魔物を浄化しながら突き進んで来たのだ。手当たり次第に魔物を蹴散らす様に、手練れの魔物や悪魔達も姿を隠し始め、気付けばさ迷う死神である彼を、その男は見付けてしまった。


 久々の獲物と、常の様に鎌を振るった彼だったが、男が持っていた銀色のナイフに阻まれる。ナイフにしては長めの刀身の光が反射する度に、彼の身体に痛みが走る。


「聖別された光だ。痛かろうよ」


 男は、明らかに死神を狙って降りて来た様だった。




 祈りを込めて、文言を呟く男に、彼は自分の命の危うさを知る。恐らく、死神であったとしても、この状態で浄化の最高位の魔法を注ぎ込まれたら、消滅するだろう。

死神という身で、初めて自分の存在の消滅【死】を意識した彼の脳裏に、走馬灯の様に映像が浮かぶ。病で死の淵にいる娘。自らの手を弱々しく握りながら、最後の言葉を紡ぐその口元。


〈私を……忘れないで……。それが形見。ね……お父さん……〉


 彼は、初めて叫んだ。声無き声で叫んだ。愛しき自分の娘の名前を。


『……アリシア……!』


 その時だった。彼の後ろの壁が突如崩壊すると、後ろから現れた人型の物が彼に刺さったナイフを軽々と抜き放ち、男に斬りかかる。男は驚いたそぶりを見せながらも丁寧にそれを捌く。


「機械人形か。見たことが無いタイプだが」


 それを聞いたのか、機械人形は、カチカチと内部から音を放つとおもむろに呟く。


「……言語……若干の変更を感知。……修正完了」


 おもむろに、動きを止め呟き始めた機械人形に、男も油断無く構える。しかし……。


「あー、すいません。今レゴラス歴何年ですか?」


 唐突に若い娘の声で、そう尋ねられ、彼も男も思わず沈黙したのだった。




   ***********




「大体四百年位経過してるみたいですねー。あ、御茶淹れましょうか?」


 世間話の体で語られるその口調に男も毒気が抜かれたのか、死神と合わせて車座になる。機械人形の娘は死神の意思も理解出来るらしく、会話が成立する。


 男の目的は、この迷宮に住まう最強の死神の討伐。そして機械人形の娘はこの迷宮が出来た時から今までずっと眠りについていたらしい。


「解除コードが発令されましてね。ね、マスター」


 そう言いながら死神を見上げる娘に、死神もうろたえる。それを興味深そうに見詰める男。


「とりあえず一つ言えるのは最強は、最下層のドラゴンですよ。あちらを倒せばよいかと」


 ふむと思案する男に、娘はさらに続ける。


「後は迷宮の謎も解明されちゃいますねー」


 そんな訳で、と呟いた娘を中心に、何故か三人はさらに下の階層へと向かう事になったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ