最終話 税金の納め時
「聖女様、今度観劇に行きませんか?」
「行きません」
私の営業ながしは混沌とし始めた。
ウェーバー様からお誘いと。
【おら、おら、聖女様のお通りだい!】
ゴロツキ達の先触れだわ。
更に冒険者ギルドのギルマスまで追いかけて来たわ。
「聖女サトコ様、王宮よりクエストでございますよ」
「行きません。クエストには誰を治すのか明記されていません」
ただ、王宮に来いとのクエストが来ている。金貨100枚だ。
これは私の主義ではない。
そんな生活を送っていたら。
「聖女様、王命でございます。王宮に参内して下さい」
騎士団がやってきた。
【なんでえ!聖女様は行かないと言っているぞ!】
「聖女様は父上の庇護を受けております。ザイル家の客人ですよ!まず父上を通して下さい」
ウェーバー様が勝手に私を庇護していることにしている。
騎士は百人以上、こちらはウェーバー様とゴロツキ五人だわ。
だから・・・
「行きますわ。そろそろ税金の納め時ですわね」
「「聖女様」」
ここで騎士を殺して他国に行っても良いが・・・まあ、こんな生活を送っていたらこうなる道理だわ。ここで逃げだしても問題の先送りだわ。
因果応報、善因善果、悪因悪果、これも仕方ない。
「皆様、今まで有難うございましたわ」
丁寧にカーテシーをした。お礼を言ったがまるで心がこもっていない。
「聖女様がお礼を・・・」
「「聖女様」」
馬車に乗せられ王宮に着く。
謁見室の大広間にはこの国の陛下と王妃、王子王女、父もいた。
「サトコ、一体何をしたのだ!」
「あら、殿下、治療をしておりましたわ」
しかし、王座に登る階段の中頃に紳士が1人いた。痩せ質で白髪交じりの礼服の男だ。
明らかに陛下はその男に気を使っている。
「・・・これが聖女サトコです。我が王国とは関係のない者です。どうか、如何様に処分して下さい」
「ええ、そうです。ヘンリーが異世界人に産ませた混じり物ですわ」
「ゴホン」
とその男は咳払いをして私の前に来た。
私の前で膝を付き口上を述べた。
「聖女様、当職はザルツ帝国王宮官吏のワッケインと申します。お見知りおきを」
「サトコ・ヤマノシタですわ」
「『微笑みの聖女』様よりのご推薦です。どうか、皇女殿下を治療して頂きたい」
「あら・・・」
確か大戦中はお母様と一緒に前線で兵の治療を行っていたと云う老齢の聖女だったわね。
処刑されると思ったけど、お仕事ね。
「分かりました。治ったら金貨一枚でお願いします。患者の容態は馬車の中で聞きますわ」
「いえ、飛龍に乗って頂きます」
「あら、やっぱり超大国ね」
ザルツ帝国、人魔大戦では中心的な役割を果たした国の一つだ。
たかが王宮官吏にこの国の陛下が萎縮するくらいには国力差があるらしい。
「あの、ちょっと待って下さい。サトコは我が孫になります」
「サトコ、お婆さまですよ」
「父だ」
「伯父だ。甘えて良いんだぞ!」
王族達が手の平を返したわ。
「サトコ様、難儀ですな」
「全く関わりのない方々でございますわ」
「皇帝陛下にそうお伝えします」
ほぼ三日でザルツ帝都に到着した。
皇帝陛下にこちらは立礼で謁見する。こちらは聖女だ。皇帝の法には服さない意思表示だ。
「聖都の『微笑みの聖女様』がサトコ殿を推薦をした。我が娘フローラを治して欲しい」
「あら、治ったら金貨一枚ですわ。でも、帝国には大勢の聖女と回復術士がおりましょうに」
「噂以上に不遜だな・・・・まあ、良い。心の病気だ」
・・・心の病気、ヒールで気分転換させるしかない。
お母様も大戦で心の病を負った兵士は治せなかったわ。
☆☆☆回想
『心的外傷・・・PTSDはね。昔は怠け病とか言われたの。皮肉ね。精神性が高いと言われた東洋医学ではなく西洋医学で精神病の研究が始まったわ』
『よく分からないわ』
『いいのよ。良く聞きなさい。でも東洋医学で一つだけ王の気鬱の病気を治した伝説があるの。今から話すわ。聡子は聖女のスキルがあるわ。隠しなさい。でなければ奴らに利用されるわ』
『はい、お母様』
お母様からいろいろ教わったわ。まるで私が市井で生きられるように・・・
・・・・・・・・・・・
「分かりましたわ。治しますわ。でも、決して、私を処罰しないで頂きたい」
「これは異な事を申す聖女だ。逆だ治さなければ何らかの罰を与えるぞ」
「結構です」
皇女フローラ様のことをお付きの侍従から聞いたわ。
何でも・・・
「顔が特徴的で・・・その殿方からフラれたそうです」
「あら、特徴とは?」
「はい、皇帝陛下にそっくりです。今は部屋に閉じこもっております」
「そう・・・」
男親似ね。皇帝陛下はゴツかったわね。
皇女の部屋に行く。
ドアは閉っている。
「皇女殿下、マルクスでございます。聖女様をお連れしました」
「・・・・・・・」
無言だわ。
だから、レーザーで部屋のドアを入れるように四角に焼き切り。
中に乱入したわ。
「聖女様、それは無法でございます!」
「いいから、陛下がお許しになったわ」
皇女殿下はベッドで寝ている。布団を被っているわね。
私は迷わず靴のままベッドの上に飛び乗り。
ピョンピョン跳ねたわ。
「聖女様、いくらなんでも不敬でございましょう」
しばらくすると、
熊のような体格の皇女殿下が飛び起きた。
「無礼だわ!絞め殺して差し上げますわ」
私は難なくつかまったわ。抱きつかれた。骨がきしむ。レーザーを放つことはしない。
ただ、治療で下手を打って死ぬだけだわ。
これも本望、十五歳の短い人生だった。
お母様から教わったわ。
チュウゴクという国の伝説では気鬱の王を治せと云われた医者が王の寝台の上に登り王の体を踏みつけた。怒った王は医者を処刑したが、その時になってやっと怒りで気鬱を治したのだと理解した悲しい話だったわ。
「フフフフ、皇女殿下、お元気ではないですか?」
「ブヒー!皆、馬鹿にして!貴方みたいな美人には私の気持はわからないわ」
「ええ、分かりません」
意識がもうろうとしてきたら・・・
バチンと音がした。
侍従のマルクスが皇女殿下にビンタしたらしい。
「皇女殿下、人を殺してはいけません!皇女殿下は美しいです」
「そんなこと、私は誰にも愛されない女よ」
「いいえ。私はお慕いしております。身分の低さから告白をしないまで」
「マルクス・・・」
何か、急に力が抜けたわ。私はベッドに倒れ込んだわ。
2人は手を組んでいる。
「皇女殿下、痛いです」
「マルクス・・・」
「本当に痛いです」
「ご、ごめんなさい」
皇女殿下は丸太のように太い体格だわ。
それは男から見たら安産型で好ましいと思う人もいるらしい・・・そうでなければこの世は美男美女だらけになる道理だわ・・・・また、勉強になった。
私は意識が堕ちた。
気がついたら、老齢の聖女様に看病されていた。
女神圏最高の聖女とうたわれた微笑みの聖女、ナターシャ様だ。
「どうもです・・」
「ゆっくりしていなさい。すっかりサトミとそっくりに育って」
ナターシャ様から事情を聞いた。私の祖国ソグド王国は国力に合わない召喚をしまくって、異世界人の待遇が問題視されていた。
「ソグド王国は異世界人との子を異界混じりと蔑みますが、帝国、聖王国は違いますわ。むしろ畏敬の念をもたれます。多くの異世界人がきちんと報酬をもらい。第二の人生を歩んでおります」
「そうですか・・・」
「私の養子になりなさい。帝国に住むも聖王国に行くも、他の大国で悠々自適に暮らせますわ。皇帝陛下も保証すると言っておりましたわ」
「結構です」
「まだ、決断をするには早いわ」
「いえ、帰りますわ。あそこには・・・」
「お母様のお墓がありますの」
私は慰留させる提案を蹴った。
皇帝陛下に謁見し報酬をもらう。
「本当に金貨一枚で良いのか?フローラは侍従と婚約を結ぶ許可を出したぞ」
「ええ」
「国へ帰るのか?」
「はい、帰りもお願いしますわ」
皇帝陛下はしばらく考えた後、切り出したわ。
「なら、ソグド王国に対する諮問をする。現王族をどうしたらよい。異世界人に対する処遇問題で近々責任を取らせると女神圏会議で採択される」
「なら、慈愛、慈愛と叫ぶアリシアと言う気に食わない女がおります。女王にして下さいませ。彼女も王族ですわ」
「なら、免状を出そう。聖女お構いなしの免状を出そう」
「いりませんわ」
「いや、受け取れ紙切れだが、皇帝直々の署名をいれよう」
変な紙と金貨一枚もらって帰国したわ。
お母様の三回忌だ。墓に行くと・・・献花がされている。掃除もされているわ。
墓の裏に人がいた。見知った顔だわ。
「ウェーバー様」
「申訳ありません。もしかして聖女様間に合わないと思って・・・」
「別にいいわ。あ、り・・」
お礼を言おうと思ったが言葉に詰まった。心が籠もっている有難うは苦手らしい。いや、恥ずかしいのかしら。観劇に一緒に行っても良いかしら。
「ウェーバー様・・」
「はい!」
「あの、あ、・・・」
お礼を言おうとしたら邪魔が入った。あの図太い声はフランキーだ。
「聖女様!フランキー一家も来たぜ!供物に豚の丸焼きを持って来た」
「ワインもあるぜ!」
「あ、貴方たちは一体・・・」
「聖女様、ベッキーです。お掃除をさせてもらいました」
「あら、貴方は・・・」
「申訳ありません。つい、言ってしまいました」
【もう、皆様方!祈るから静かにして下さいませ!】
母の墓前に手を合せる。
あんなに独りが良かったのに、今は少し気持が安らいでいる自分に気がついた。
女王にアリシアが就任し。慈愛慈愛とうるさい王国になったけど。
私はここで生きて行くことにしたわ。
案外、皆といるのも悪くない。
最後までお読み頂き有難うございました。




