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望まぬ転生をした俺は、三度目の生を生きる  作者: 放浪猫
緑の怪物

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1話

ガバ設定ですが、よろしくお願いします

名前の話から、始まる。


 いや、名前がまだなかった頃の話だ。順序が逆かもしれない。だが、思い出すというのはいつもこうだ。いちばん大事なものから、逆さまにほどけてくる。


 今の俺には、名がある。だが、これから思い出すのはその名ではない。


 もっと前に、一度だけもらった名だ。長いあいだ、俺はその名の意味も、それをくれた者の想いも、知らずにいた。知ったのはずっと後——何もかもが遠く過ぎ去ってからだ。


 だが、いま蘇ってくるのは、その名すらまだ手の中になかった頃のことだ。


 思い出したくないことと言いたいところだが、そもそも俺はあれをよく覚えていない。

覚えているのは痛みだけだ。目が覚めたら頭の後ろが痛かった。誰かに殴られたあとみたいだったが、そんな覚えはまるでない。手をやろうとして、腕がうまく動かせないのに気づいた。指を見ると緑色で爪が黒くて痩せていた。これが自分の指かと思うのにしばらくかかった。


 あとで知ったことだが、俺のこの身体は、人がゴブリンと呼ぶものだった。この時の俺は、自分が何なのかも知らない。だからしばらくは、ただの緑色の何かとして聞いてほしい。


 土の匂いがした。それから血の匂いも。血のほうはまあ俺のだったんだろう。

 変なことを言うが、立とうとすると怖かった。何がとは言えない。理由なんてない。ただ身体が勝手に竦んだ。立ったら何か良くないことが起きると背中のあたりが言い張っていて、頭ではどうにもならなかった。だから立つのはやめて這った。這うぶんには身体も文句を言わなかった。


 森は静かで誰もいなかった。誰もいないのに怖いってのは、あとにも先にもあのときが最初だった。どれくらい這っていたのか、よくわからない。腹が減っていた。頭の痛みより、そっちのほうがだんだん大きくなってきて、しまいには痛みのことを忘れた。腹が減ると他のことがどうでもよくなる。あのときの俺が保証する。


 手が、勝手に動くようになっていた。さっきまで動かし方がわからなかったのに、這っているうちに身体のほうが思い出したらしい。頭で考えるより先に右手が土を掻いて、左手が続く。膝が遅れて、また右手。そうやって進んでいると、目の端で何かが動いた。小さいものだったけど、俺が顔を向けたときにはもういなかった。手を伸ばしても指が空を掻いただけだ。腹の虫が鳴いた。


 水の音がした。匂いより先に音でわかった。這う速さが少し上がる。身体は正直なもので、水があると知ると頭が命じなくても勝手にそっちを向いた。


 小さな流れだった。岩の間を縫って、光を割りながら落ちていく細い水。俺はその縁まで来て、しばらく動けなかった。飲み方を知らなかったからだ。笑うだろうが、本当に、どうやって水を口に入れるのかがわからなかった。しばらく水を睨んで、それから顔を近づけた。


 舌が先に水に触れた。冷たい。冷たいと思った瞬間、身体がまた勝手に動いて、俺は犬みたいに水を舐めていた。みっともないとは思わなかった。思ったところで、あれはやめられなかった。

 腹に水が落ちていく。落ちた先で腹の虫がいっそう暴れた。水は腹の足しにならないと、身体はもう知っていた。俺の頭より、俺の身体のほうが、この世界に慣れていた。


 水から顔を上げたとき、対岸に、それがいた。



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