第三十七話 二日前 (四)
前回は、頑張ってみました
今回は、楽しい会話です
伊波さん、夢乃君、小芽生さん、そして佐藤君と鈴木君と一緒に六人で学食のテラス席で昼食を取っていた。
席順は、丸テーブルを囲んで、オレから時計回りにオレ、伊波さん、佐藤君、鈴木君、夢乃君、小芽生さんだ。
この学校の学食には、テラス席まであっておしゃれなカフェ気分も味わうことができるのだ。
どうせならコーヒーを頼みたいところだが、どうやらオレには食事中のコーヒーは合わないらしい。
そのため、食事のお供はお茶か水がベストで、糖分が欲しいときにはジュースを飲むのが定番だ。
もちろんこの学校の学食には飲み物類もほぼ全て完備されており、なんとそのすべてが無料である。
それでもオレは色をだすことはなく、水を飲むことにする。
そして、今日ももちろん日替わり定食を頼んだ。
今日はチャーハンと中華スープ、杏仁豆腐だ。
中華セットといったところだろうか。
このチャーハンはしっかりとチャーシューが乗っており、味の加減もちょうどいい。
中華スープはネギが散らされていて、チャーハンとの愛称は抜群だ。
そして杏仁豆腐は、立方体にカットされた白い寒天? のようなものの中にフルーツが紛れている。
この白いやつってなんだろう。よく知らないまま食べていたけど、これの正体について、いざ考えてみるとなんなのかはわからない。おいしいなら…まあいっか。
これらの中華セットは、このおしゃれなカフェテラスの雰囲気に明らかに合っていないが、それもまた学食ならではって感じで面白い。
周りを見ると、テラス席は多く設けられており、この自然に囲まれてあり余った敷地を存分に堪能できるようになっている。
今は春ということもあって桜が咲き乱れており、お花見も一緒に楽しむことができる。
今日、初めて利用するが、なかなかに味のある昼食になること間違いなしだ。
そんな幸せな空間で、オレ以外の五人が楽しい会話を繰り広げている。
予想どおり、小芽生さんと夢乃君はうまく機能しているように見える。
なんでオレは会話の輪に入っていないのかって? 別に会話の入りどころを見失って話すことができなくなっているわけではなくて、ただ自然を静かに楽しんでいるだけですが。
「へぇー! サクちゃんって部活とかやってなかったんだ! ウチはてっきり、サクちゃんは運動部かと思ってたよー!」
「俺も思ってた! 身のこなしが明らかに運動ができる人のそれだと思ったよ! サッカーをガチってたこともあるから、そういう人のことは結構見分けられるつもりだったんだけど…」
「あはは…運動が嫌いっていうわけじゃないんだけどね」
「そうなんですね伊波さん! あっ! 俺は卓球やってました!」
「僕はソフトテニスをやってました!」
「あはは…そうなんだ、みんなすごいね……カエデ君は部活とかやってた?」
何度も言っているけど(言っていない)、急にこっちに話を振るな。
伊波さんは返答に困ったら毎回オレにフォーカスをずらしてくるような……。
都合のいい存在として扱われている気がしないでもないが、大した仕事量でもないし、適当に答えておこう。
「帰宅部だよ」
「やっぱり! カエデ君は帰宅部だと思ってたよ!」
伊波さーん? それは一体どういう意味ですかねー?
そこは冗談でもいいから、「運動部だと思ってたー」って言うところですよー。
別に帰宅部が悪いって言いたいわけじゃなくて、普通さ、「何部だと思う?」って聞かれたら、バスケ部とか、バレー部とか、運動部以外でも吹奏楽部とか、パソコン部とか、何かしらの部活の名前を出すと思うんですよ。
そのどれにもあてはまらない帰宅部だと思っていたってことは、オレにあまり興味がないっていうことですかね。
「それ、ギリギリ悪口じゃないか?」
「そんなつもりはないって! カエデ君は、あまり……ね?」
伊波さんは苦笑いでオレを見た。
オレはコミュニケーションが下手だって言いたいのか。間違ってはいないから反論の余地もない。
「まあ、そうだな」
「そうか? カエデは文化部みたいな雰囲気あるけどなー」
「おぉー、佐藤君! それウチも思ってた! なんか頭良さそうだしね! 実際さ、カエデ君って頭いいの?」
「…わからない」
「あははっ! なにそれ! さすがカエデ君! でも少なくとも小芽生さんよりは勉強できるんじゃないの??」
「ちょっとーどういうことー!? じゃあ…サクちゃん今度のテストで勝負ね!!」
「えー、なんで私なの?? そこはカエデ君に挑むところでしょー??」
「確かに…」
「あれれー? 私と戦う前に、もう勝負はついたようなものじゃない??」
「くぅー、勝負の舞台は中間テストね! 五教科の合計点で競うってことで!」
「拒否権は…」
「ない!」
「ですよねー! わかった…その勝負、受けて立った!!」
伊波さんと小芽生さんって仲がいいんだなー。
オレはバトルが好きだから、二人に本気で戦ってもらうために、どうせなら、調味料を加えたい。
「伊波さん、小芽生さん。どうせなら、何かを賭けてみるのはどうだ?」
「いいねーそれ! じゃあ負けた方が勝った方の言うことをなんでも一つ聞くってのはどう?」
「私は賛成」
「じゃあ、それで決まりね!」
どうやら勝負の詳細が決まったようだ。
完全にその場のノリだけで決めた、よくわからないバトルだけど、二人は笑顔で楽しんでいるように見えるし、大丈夫だろう。
内容は、次の中間テストの合計点の勝負。勝った方は負けた方に一つだけ命令できるというものだ。
よくある高校生の悪ふざけっていう感じで、ちょっと面白いかも。オレは今、青春しているのかもしれない。
「すっげぇ! 面白そう! なぁ、俺たちも勝負しようぜ! カエデ!」
「え、なんでオレが佐藤君と勝負するんだ?」
「細かいことは気にすんなって!」
「まぁいいけど」
「っしゃあ! ルールは伊波さんたちのと一緒ってことで!」
「わかった」
なんか、ノリでオレが佐藤君とテストの勝負をすることになってしまった。
戦うための動機は微塵もないけど、今は佐藤君たちの歓迎会的な側面もあるし、彼の誘いを受けるとしよう。
「そっちもやる気満々だねー! 佐藤君は学力に自信あるの?」
「あ、えっと、それは…これから頑張ります! そのときは、よければ伊波さんに教えていただけると幸いです!」
「うん。考えとく」
「おい! ずるいぞ! 僕も一緒に教えてください!!」
「あー。できたらねー」
なんか白熱しているけど、中間テストで勝負って、それはいつなんだろう。
オレは年間の行事予定を全く確認していないし、四ノ宮先生からの言及もないから、そもそもあるのかどうかも知らない。
オレはみんなが熱くなっているところに、控えめに挙手をして聞いた。
「ところで、中間テストっていつなんだ?」
すると、このテーブルで冷静にみんなの会話を俯瞰していた夢乃君が落ち着いた声で言った。
「ちょうど一か月後だよ」
「…えっ」
学校が始まって約二週間。
まだまだ来ないと思っていたあの期間が、一歩ずつ、その足音を潜めながら、すぐそこまで近づいてきていた。
へぇー! サクちゃんって部活とかやってなかったんだ!
サッカーをガチってたこともある
やっぱり! カエデ君は帰宅部だと思ってたよ!
…わからない
オレはバトルが好きだから、二人に本気で戦ってもらうために、どうせなら、調味料を加えたい
やけに自分の食事の分析をしているのは、うまく会話に入れなかったから……かもしれないです
次回は、一日前です