第40食目:プリムとコウホークのスープ
「はたらけー!って伝えただけなんですけどね」
「特に反乱の様子はないそうよ」
ルピアと蜜をかけた果物食べながらお話。
「まあ要は祝福の有無は自らの努力によるのだ。と思わせないといけないのです」
「前言ってたことね。自分達で選ばせるということ?」
「ええ。口を開けてボーッと待っているだけじゃダメなのです。今までの祝福は行き当たりばったりすぎです。
困り果てたところに、散発的に祝福をしていた。信仰の強弱や、普段の努力関係なく祝福が起こるんだから、みな努力するバカバカしさに気付きますよ」
「それを変えるのは大変よ」
「ええ。すぐには変わりません。それは分かってます。10年は見込んでいます。粘り強くやりますよ。だって100年かけて腐敗したんですからね。それを直すのは容易ではありません」
私はルピアに抱きついて
「わたしは美味しいご飯を食べながら、この大陸が変わるのを辛抱強く待ちますよ。ルピア、私を支えてください」
「ええ。頑張るわ」
「わたし、男の人ダメなんです」
吹き出すルピア
「ルピアと一緒にいるととても心が安らぐんです。ずっと一緒にいて欲しいです。美味しいもの一緒に食べて過ごしましょう」
ルピアにキスをする私。
「さあ、時代を変えますよ!」
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ヒルハレイズからの手紙を読み終わったジュブグランは溜め息をついた。
「ヒルハレイズも、限界だったんだな」
自分に潜む淫らな欲望と戦い続けて、精神面での限界と、老いによる能力面での限界。
度重なり、聖女に宰相交代を願い出たが最後まで許されなかった。
「ミルティアが宰相になっても死ぬつもりだったのか。ヒルハレイズらしいが」
ヒルハレイズは名誉欲があった。
自分が慕われて、尊敬されているうちに引退したいとは常に言っていたのだ。
「もう、私しかいないな」
ダリスグレアは、最後に会ったあと、聖女の交代を聞き亡くなった。
自殺したわけではないと思うが、身体は元々病で限界だったのだ。
「一人酒というのも寂しいものだ。まあ、今度宮殿に行って飲みに行くか」
向かいにもう一つグラスを置き
「ヒルハレイズ、お疲れ様。私はもう少しこの世界を見届けるよ」
酒をつぎ、微笑んでいた。
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オーディルビス王国の南群諸島進出はあっさりと終わった。
南群諸島にはマトモな軍もいない。
抵抗も無かった。
タチアナは南群諸島にいた。
「さあ!民の皆様!オーディルビスは君達を傷つけないが!時代を変える!
この土地を豊かにしよう!発展を約束しよう!我らに従え!栄光は我々にある!」
島の代表者達に呼びかけるタチアナ。
その反応は上々だった。
「あっさりと終わったね。私はしばらくここで政務をとろう」
「畏まりました」
「不努力に祝福なしね。その通りだと思うよ。ミルティアの信念が皆に理解されるといいね」
タチアナは美しい少女達を従えながら
「南群諸島は果実が美味しいんでしょ?いっぱい食べたいなー」
笑いながら歩いていた。
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「あなた方をミルティアの元に送ります」
エールミケアは、双子の前に現れた。
双子は知識の塔から抜け出した後、当てもなくさまよっていたのだ。
双子には知識がない。
どこにミルティアがいるのかも、どうやって大陸をわたるかも分からない。
ミルティアから双子を預かると連絡が来た段階で、龍姫は
「そういえば、あの双子、どこ行ったんだ」
という話になり、エールミケアが探していたのだ。
「それは助かる」
「おなかすいた」
「向こうでは歓迎されるでしょう。お元気で」
「そうする」
「じゃあね」
転移石を渡し、二人を指定場所に送り込んだ。
「しっかし、ミルティアも大丈夫かね。こんな暴れん坊で」
双子がいた場所は山だった。
木をなぎ倒し、獣を狩り、山の異変に気付いた人間を殺す。
その山は元の形が分からないぐらいに荒れていた。
「まあ、私が心配するこっちゃないな。うん。帰ろう」
エールミケアは転移で館に戻った。
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エールミケアが戻った龍姫の館では騒ぎが起こっていた。
「嫌です」
龍姫は腕を組んで頬を膨らましている。
「し、しかしですね。本人の申請ですから」
「嫌です」
苦笑いするフェルラインと、慌てているカレンバレー。
「カレンバレー。私が嫌と言えばダメなの。分かる?」
「フェルラインの気持ちもあります。彼女は今では活動している、もっとも長い龍族です。私はその次です。この二人が眠りにつき、次世代に渡す事も必要ではないかと」
帝国は変わった。聖女も変わった。オーディルビスも変わった。
ならば龍族も変わるべきではないか?
とフェルラインから提案があり、リーダーのフェルラインと、護衛としての筆頭カレンバレーが眠りにつき、世代交代をしようと提案したのだ。
それに対する龍姫の反応がこれ。
「リーダー交代、護衛筆頭の交代は認めます。しかし、眠りにつくことは認めません。
フェルラインもカレンバレーも、私から見てもまだコントロール出来ている。限界を迎えたときは私が判断をする」
「かしこまりました、龍姫様」
フェルラインは頭を下げる。
「私たちをそこまでご評価頂いたこと本当に嬉しく思います。これからも龍姫様のおそばで全力を尽くします」
「ええ。そうして。ちなみに交代したら誰入れるの?」
「私の代わりはマディアクリア。カレンバレーの代わりはユレミツレです」
「ユレミツレはともかく、マディアクリアはあなた達とあんまり世代変わらないじゃない……」
「エールミケアに期待しているのですが、よくサボるもので」
「あいつも変わり者ねぇ」
龍姫は溜め息をつき。
「交代は認めるわ。私達も少しずつ変わっていきましょう」
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「なんでそんなにボロボロの格好なのですか?」
龍姫に連絡を取って、双子を預かると伝えてから、しばらく時間が空いてから届けられたのはいいのだが、2人は野生児みたいな格好をしていた。
「ミルティアに聞きたいことがあったから探してた」
「そうしたらまいごになった」
なるほど
「聞きたい事って、私が姉ってことですか」
「やっぱり、お姉ちゃんなの?」
「おねえちゃん」
「ええ。母親は違いますが、姉です。今日から一緒に住みましょうね」
「うん!お姉ちゃん!」
「おねえちゃん、いっしょにすむ」
わたしは双子を抱きしめた。
寂しかったんだろうな。
私も寂しかった。
誰からも相手にされないから、自分から求めるしかなかった。
この双子は、お互いがお互いを求めた。
「そうだ。名前付けましょう。いつまでも双子じゃ失礼すぎです。もう決めてますよ」
龍姫から
「あの双子に名前は無いからつけてやってくれ」と頼まれていたのだ。
「うん、なにかな?」
「きれいな、なまえがいい」
「綺麗ですよ。2人の名前は、初代聖女の名前クレイ、そして、二代目聖女の名前ハリア」
二人の頭を撫で
「さあ、着替えて美味しいもの食べましょう?プリムとコウホークのスープが出来ています。美味しいですよ」
「楽しみ」
「おいしそう」
聖女の自我と魂は消えた。でも記憶は残っている。
聖女の歴史は残っている。
「難しいですよね。人間は。わたしも偉そうなことなんて言えません。きっと失敗も積み重ねるでしょう」
でも
「まあ、美味しいご飯が食べられれば、それで良いんですよ。きっとね」
私は進む。なにがあっても。
美味しいご飯を食べながら、この世界を変えてみせる。
この話はこれでお終いです。
最後までお付き合い頂き本当にありがとうございました。
また、多くの感想頂いたことに改めて感謝申し上げます。
本当に励みになりました。
物語終了にともない、また感想頂けると本当に嬉しいです。
本当にありがとうございました。




