第X食目:アラニア簒奪劇と龍族の陰謀
今回は三人称、敵側帝国の話です
その男は全身を鎖で繋がれていた。
指一本動かないように、全てを縛りつけられている。
そこに足音が響いた。
「誰だ。エウロバか?」
真っ暗な部屋。だが灯りはつけない。
灯りがないままに、迷わずそれは男に近付く
「ま、まさか、この匂いは……、母様!!!」
「おはよう、テディネス。良い朝ね」
男はアラニアの狂公と恐れられた王、テディネス。
そして、訪れたのは、その母ソレイユ。
「母様!目覚められたのですか!!!」
「ええ。可愛い後輩がね、起こしに来てくれたのよ。息子が危機だと言ってね」
ソレイユは15年前に眠りについた。
それから一度も目覚めなかったのだ。
「母様。これは親子の問題です。エウロバへの対応は……」
「もちろんよ、可愛いテディネス。私はエウロバにはなにもしないわ」
明らかにホッとした表情を浮かべるテディネス。
母ソレイユの行動は、狂公と呼ばれたテディネスの目から見ても異常だった。
昨日まで可愛がっていた臣下も平然と血祭りにあげる。
敵と見ればなんの容赦もない。
裏切りは許さない。
血を見なければ落ち着かない。
自分を監禁したエウロバにはなんかしらの制裁が必要だが、ソレイユに任せれば殺してしまうと怯えたのだ。
なにしろ後継はもうエウロバしかいないのだ。
「テディネス、あなたの行動は予測しているわ。エウロバを逆監禁して、孕ませるのでしょう?後継を作らないといけないものね」
「…私の子では弱いのです。エウロバの名声は本物。今更弟が出来ようと、エウロバの即位は止められない」
エウロバの人気は本物。
下手に殺せば国がまとまらなくなる。
生かしたまま利用するしかない。
狂公と呼ばれていながらも、テディネスの知能は高かった。
エウロバがなにを行い、なにを目指しているのかは理解していた。
「あの娘は皇帝に駆け上がろうとしている」
「神教が許しません。ひいては龍姫様もお許しにならないでしょう」
テディネスは何度も神教とぶつかった。
そのたびに止められていたのだが。
「テディネス、時代が変わるようよ。龍姫様は決断された」
「……?な、なんですと……?まさか!?」
「あの腐れた汚豚の神皇は切り捨てる。今の皇帝一族も、もう立て直しようがない。陛下に子供は出来ないし、兄弟も腐れたのしかいない。もう終わりよ」
「では!我々は!」
「アラニアが、皇帝を出す」
「素晴らしい!素晴らしいではありませんか!母様!!!我らこそが頂点!全ての公国を従え、公国の頂点に立ち!皇帝となる!」
胸を高鳴らせ、驚喜するテディネス。
「発想が貧弱だわ、テディネス」
それを見てソレイユはつまらなそうに言う。
「公国の頂点?その発想がダメなのよ。もう時代はそんなものではない。エウロバはね、公国を全て潰すつもりよ。帝国は一つになる」
「ば!ばかな!そんな事をすれば、龍姫様と敵対するのですぞ!」
「しないわよ。エウロバはもうプランを立てた。公王という立場は、帝国が便宜上与えただけのもの。龍姫様に、こだわりはないわ。引き続き、領地を任せればいいだけよ。話はついている」
「で、では……」
「新しい時代になるわ。古きものは去る時よ。テディネス。私が来た理由はね。孫に親殺しをさせるのを避ける為よ」
ソレイユは、息子のテディネスの心臓を素手で貫く。
「愛しいテディネス。時代はアラニアに輝くわ。あなたの死を踏み越えて、エウロバは皇帝につく。安心して眠りなさい」
「……は、ははさま」
心臓を貫かれながらも、テディネスは微笑んでいた。
「さ、さいごに、は、はは、さまと、会えて……くいは、あり……」
「ええ。わたしも嬉しいわ。さようなら。テディネス」
グチャ。
心臓をえぐりつぶし、テディネスは息絶えた。
ソレイユは死んだテディネスに口付けをし、来た道を戻る。
そして
「おばあさま」
「エウロバ。お話しするのは初めてね」
ソレイユとエウロバ。
エウロバが生まれた時には、ソレイユは既に眠りについていた。
エウロバは眠りについているソレイユを見たことがあるので、認識していたが
「その血、父上のですか」
「ええ。エウロバ。貴女には殺せなかったテディネスは、私が葬ったわ」
その血塗れの手をエウロバにつける。
「エウロバ、情を棄てなさい。皇帝の道は修羅よ。兄を殺して吐いている暇などないわ。父が殺せず泣き叫ぶ暇などない。皇帝になる為には切り捨てなさい。この血に誓いなさい。必ず帝国を一つにすると」
「……おばあさま」
泣きそうな顔をするエウロバ。
しかし
「このエウロバ・ビルス・アラニア、必ずや皇帝に駆け上がります。父の血と、兄の血にかけて」
決意した表情に変わる。
「もう古い時代の私が出来ることはないわ。後は全て自分でやりなさい。なにも与えてやれなかった孫に贈る、最初で最後のプレゼントよ」
「はい。見守っていてください。私は、必ずや成し遂げます。皇帝となり、帝国を一つにします」
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「ソレイユ様がテディネスを殺しました」
「そう。もう後戻りは出来ないわね」
アルネシア公国。
その主の龍姫と、龍族リーダーフェルライン。
「エウロバは最後まで、父であるテディネスを殺せませんでしたね」
「愛情に飢えていたのでしょう。父の愛を最後まで信じたかった。でもテディネスと会話すれば、そんな愛は欠片もなく、娘を犯して後継を残そうとする鬼畜ぶりだもの。ソレイユが出てこないと、あの娘は皇帝になる前に狂ってしまう」
「どんなに冷徹に振る舞おうが11ですからね。これでアラニア国内最後の障害が無くなりました」
「次はエネビット公国ね。ヘイルカリの孫。ドラゴンクオーター(1/4)同士の争いね」
「エネビット公主、マヤノリザは優秀な人物です。そしてヘイルカリ様に似て規律に厳しい。間違いなくエウロバの即位を認めない」
「両方龍族の血を引いているから、私達は傍観するわ。それよりも神教よ。今の神皇を下ろしたとして、代わりはいるの?」
「龍姫様、わたくしの目から見ても、神教の人材不足は深刻です。教会長レベルまで下っても、ロクな人材がおりません」
龍姫は爪を噛み
「私を教導したハユリさんは、修道女レベルだったのよ!その人が私を導いた!最終的には神女にまでなった、あのクラスとは言わないわ!リグルド様クラスとも言わない!マトモに神教を護れる人間はいないの!?」
「龍姫様、帝国は深刻ですが、それでも各公国には優秀な人材が出てきています。アラニア、エネビット、メタ、グランハザル。ですが、神教は……」
「クソが!!!黄金の魔力に、教義を忘れたか!なぜリグルド様と同じ事が出来ない!!!クソ!クソ!!!」
リグルド。
本来はドラゴンと敵対している神教だが、オリジナル・ドラゴンである龍姫を神教に受け入れて、神教の擁護をさせたのは彼だった。
龍姫のもたらす黄金があれば聖女の力に対抗できると踏んだのだ。
彼は死ぬ直前まで龍姫を守り続けた。
有り余る黄金を龍姫から受け取りながらも、彼自身は潔癖で、余計な金は使わなかったし、神教幹部にも使わせなかった。
教義に反する存在を受け入れながら、教義に忠実。
それを成したのがリグルド。
龍姫は、自らを神教に導いたハユリと、リグルドに今でも感謝をし続け神教を守り続けていたが、それも限界だった。
神教はドラゴンを糾弾する。
それでありながら、龍姫のもたらす黄金の恩恵だけは受ける。
最後まで神教に刃向かうことに抵抗していた龍姫だが、フェルラインなどの古参の龍族の説得を受け入れ、神皇の更迭までは理解したのだ。
ただ、神教の追放は受け入れない。そのため後継探しをしていたのだが、フェルラインの判断は
「龍姫様、聖女の後継に会いました。あの娘は恐ろしく優秀です。しかし、立場としては落ちこぼれ扱い。姫様、神教もそうあるべきです。教会長レベルでいないのであれば、信徒、修道女レベルから探しましょう。もはや、地位などこだわっていられません」
「フェルライン、その通りね。かつてのハユリさんのような方が、修道女にまだいるかもしれない。探しなさい。つかえのとれたエウロバの動きは早いわよ。龍族の全てを使ってでも、後継を探しなさい」
「かしこまりました。それとカリスナダからの報告です。ルピアについて」
「ああ、あの後宮の主になる娘ね」
「やはり、病に犯されています。このままでは発狂して死ぬでしょう」
「そう。豚は対策はしてるの?」
「その対策をカリスナダに命じているようです」
「豚!!!!!なんで豚の後継の右腕のフォローを私達がしなくちゃならんのだ!!!」
聖女を豚と呼び怒り狂う龍姫。
「帝国以上に聖女の大陸は人材不足です。カリスナダがいないと立ちゆかないレベルです」
「……そんなに?」
「引退したジュブグランをミルティアのお付けに。既に60近いヒルハレイズはまだ退官も出来ません。内政の人材不足は深刻。正直な話、わたしの目から見ても、カリスナダ以外にルピアのケアが出来る人間はいません」
「どこもかしこも人材不足か」
「龍族も最近はだらけてきました。少し厳しく教育しようかと」
「あなたがいるから、龍族はまとまっていられるの。手放さないで本当に良かったわ。時代はこれから新しくなる。フェルライン、私たちも駆け抜けましょう」




