第15食目:穀物の油揚げ
朝ご飯。
今日もカリスナダさんの料理。
「穀物だって、調理しだいだよ。すりつぶして使えばね、色んな料理になるの」
ゴリゴリと棒で穀物をすりつぶしている。
「まあ、私は力持ちだからね。人力でやってるけど、帝国では水車を使って穀物をすりつぶしたりするんだ」
「水車ですか?」
「そう。水が回るのに合わせて棒が動く仕掛けを作るの。穀物をその棒に合わせて配置すれば、どんどんこねてくれる」
「楽しそうです」
「言いたくは無いけれど、帝国の穀物の質は悪いの。聖女の大陸と比較できないぐらいよ。生でなんて食べれないし、炒めたって堅くて無理よ。収穫からかなりの年月経ってから民間に放出されるからね。そのために、すり潰して調理する文化が出来た」
「やはり、恵まれないからこその工夫ですね」
「そうね。ちょっと茹でたり、炒めたりで食べられるのは幸せってことよ。食べるまでに相当手間をかけるのが多いんだから」
カリスナダさんは、一通りすり潰すと
「さて、このすり潰した穀物の使い道は色々あるわ。この前みたいに、肉の代わりとしても使えるけれど」
カリスナダさんは、すり潰したものを思いっきり叩く。
「わっ!」
「これは裏技」
バンバンと塊を叩きつける。
すると
「なんか形になってきましたね」
「龍族以外はこんな真似不可能だけれども。普通は水車とか使うからね。強い圧力で、穀物を団子状にする」
そして振り向く。
「聖女の大陸は、にょきにょき木が生えるから火も毎食使うけど、普通そんなもったいないことはしない。1日一食。まあさすがに、こっちも夜に火を使う文化はないかな?料理屋以外はね」
「ですね。夜ご飯は家では食べませんものね」
「なので、いっぱい食べるお昼ご飯は冷めた料理になりがちなの。帝国はね。だから冷めても美味しい料理の模索が続くわけなんだけれども。同時に、熱々の、出来たてだからこそ美味しいご飯の需要も出てきた」
「なるほど」
「普通こんなのは家では危険だから作らないけどね。特別だよ」
鉄鍋にボトボトと液体を入れて火をかけると
「ふぁいあー!」
「うわ!凄い!」
鉄鍋の中が燃えてる!
「ここに!穀物の塊をいれる!」
ジュウッ!!!!
「な!なんか!跳ねてます!!!」
「油だよ!これは油!植物から取った油!」
「油!?知ってますです!炒める時に使いますよね?でも、そんなに入れるなんて!見たこと無いです!」
「そう!これは油の中に食べ物を沈める料理!穀物の油揚げ!」
「凄い!美味しそうな匂いがしてきました!」
「肉も入れると美味しいんだけどね。ルピアが食べれないから止めておこう。さあ、ルピア呼んで」
「はいです!」
「いただきま~す!」
「いただきます」
初めて見る料理を、恐る恐るかじり付くルピア。すると
「あ、熱い。でも、美味しい……」
「スゴいですよ!この穀物!油がぎっしりと染みて、味に重厚感を感じます!普段は軽すぎで食べた気がしない穀物なのに、これだと重厚感が、ガツンと刺激しますね!」
「ルピア、これは油から植物なんだ。節制の制約でもね、こういう料理もある」
「……すごいです。カリスナダさん、本当に色んなことを知っています」
ルピアが尊敬の眼差しで見る。
「私が招かれたの、これが理由だから」
「……え?」
「ミルとルピアに、料理の真髄を教えることが、わたしの派遣の目的」
「カリスナダさん!その目的は私にガッツリ伝わっています!」
「……あなたは、本当に……」
ルピアは頭を抱えているけれど、おばあちゃんとカリスナダさんは全部分かっているのだ。
私に、この世界の現状を伝える為には、料理で伝えるべきだと。
その上で、なにが大切か、なにを切り捨てるべきか決めなさいと。
「ミル、あのね。美味しい料理を作るのがカリスナダさんの目的じゃなくて……」
「この腐りきった大陸は、聖女様の祝福の能力に頼りきってしまい、努力をすることをしなくなりました」
ルピアの目が見開く。
「残念ながら料理だけではありません。バザーでもあきらか。細工品などの嗜好品でも帝国には大きく劣ります。そしてそれは残念ながら全てにおいて」
わたしは穀物の塊を手にすると
「この大陸のポテンシャルは大きい。アドバンテージは沢山ある。なにがいけないのか。それは甘えた心。聖女様がお救いになられるから、私達は努力をしなくていい。与えられたものを、ただ使えばいい。こんな風に、より良くしようとする気持ちが生まれない」
「ミル、あなた」
「むしろ、信仰を理由にすらしている。聖女様の恩恵に文句を言うなとね。努力する気持ちを切り捨てするようになる。だからこれだけ腐りきってしまった」
「怠惰が悪い。不努力が悪い。私は変えますよ。この大陸をね」
お昼ご飯
「まめーまめーまめー」
堅い。嫌がらせか。
「……ミル、あなたいつも朝みたいな感じにならないの……?」
「無理ですし。あんな演説、ずっとしているとか、単なる痛い人ですよ」
「私は感動したわよ。あんな風に物事をとらえているんだって」
「そうです!美味しい料理を妨げる不努力なんてクソクラエです!」
「そっちじゃない」
「エウロバさんも苦労しているみたいですね。あの人から見たら、周りの人間はもどかしくて仕方ないでしょう」
「なんか、仲良くしていたって聞いたけど」
「はい。楽しかったですよ。色々分かり合えました」
「例えば?」
ジト目。多分またご飯の事言い出すのかと思っているな。
「イモの塩かけの素晴らしさを理解してもらいました!あれは下民の食べるものだと。でも、食べれば分かるあの美味しさ!」
「……そう、それは良かったわ」
疲れた顔のルピア。
「あと、もうそろそろ親父さん殺す頃ですね」
「……は?」
「不自然ですよ。ドラゴンハーフで、狂公と呼ばれて戦場で戦い続けた男が、傷口が原因かなんだか知りませんが寝たきり?話を総合すれば、這いつくばっても戦場で指揮とりますよ。本来はね。多分監禁されてるんです。エウロバに」
「な、なんで、そんなこと」
「狂公が寝たきりになったのは1年前。エウロバは5年前から政務を勤めた。4年で完全に国内を抑えたんでしょうね。相継ぐ長男、次男、三男の死もそのあたりです。エウロバが後ろから手を回したんでしょう。理由?邪魔だからですよ。皇帝になるためにはね」
「兄殺し、親殺し」
「そんなに深刻ですかね?私は親殺してもなんとも思いませんよ。顔もろくに思い出せませんし。エウロバもそうなんでしょうね。それよりも、皇帝につく邪魔者の排除の方が優先順位が高い。それだけです。今回のエウロバの派遣は、龍姫が決めたと思います。龍姫は理由は知りませんが、狂公が殺されるのを止めているのでしょう。時間を稼いで、とにかく引き延ばしている」
「エウロバの野望を止めようとしているのでは?」
「おばあちゃんが言っていました。皇帝は諦めたと。エウロバへの継承はもう認めたみたいですし、フェルラインが動いて派遣させている以上、エウロバと龍姫は同盟関係と見るべきです。私の予想ですよ?狂公はドラゴンハーフ。思い入れがあるんじゃないですかね?もしくは、母親」
「母親?」
「母親のソレイユという方が龍族だそうです。眠りについていると言われていました。眠り。死んだわけではない。多分その方に決めさせるんだと思いますよ。今起こしているんじゃ無いでしょうか」




