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各自応戦中③

 ハヅキノ之月の三節目の終わり頃。

『ガッコウ』という物が再び始まり、ゼンタロウが『それ以上にリアルが忙しくなってしまった』とぼやいていた。それからというもの、私はゼンタロウが居ない時間の方が増えてしまい、退屈に悩まされていた。


 だが実際のところ、ゼンタロウが居ても居なくても別段、退屈なのは変わりない。シターニアでは戦争が起きる兆しもなく、穏やかな毎日が続いていた。


 ちなみに、対ドワーフ抵抗軍のエルフ・獣人達は、エルタニア王都からやってきた精霊付き達との交流と訓練を兼ねて、シターニア大森林を案内して周っている。


 私はそんな事をする必要がないので、やっぱり時間を持て余していた。だから気まぐれでカリオットに乗って山脈の丘まで上り、今は丁度腰を下ろすのに適した岩に座り込んで、ゆっくりと空を眺め始めた。



 空は晴天、何処までも清々しい青が澄み渡り、煌々と輝く太陽と、薄らと青空に隠れて白む月がいる。


 今度は視線を山の下へと向けると、シターニアの森から点々と太陽の光を反射させて、森は絶景とも言えるような風景になっていた。



 強い風が自分の周りから吹きぬけて、過ぎ去っていく。


 ゴウ――と長い音と共に、合間を通り抜けてゆくヒュウ――という音が混じりあい「風の妖精が踊るように唄っている」なんて暢気に思いながら、小鳥の羽ばたきに耳が傾く。すぐ傍にいたカリオットに小鳥の番が降りてきて、カリオットの背中をつついていた。

 カリオットは小鳥たちを特に気にする風でもなく、ただ穏やかに草を食んでいた。


 座った岩は滑らかで、仰向けになるには丁度良かった。


 目を瞑り、周囲の演奏に心を委ねていると、自然と思っていた言葉が口から漏れた。



「……ずっとこのままでもいいんですけどね」



 日向が体を温めてゆく。

 こんな風に、暖かい日が続けばいいだなんて考えている。


 そんな時だった。



 小さいが確かに感じる……今までとは何かが違った音が混じりこんできた。


 聞いた事もないような音だった。虫の羽音をもっと重低音にすればそんな風に聞こえるだろうか。あるいはドラゴンの翼が絶えず羽ばたき続けたらこんな音になるのかもしれない。


 今はまだ見えていないが、高山の向こう側から聞こえてくる大きな羽音だけが耳に届いており、何が近づいてくるような予感だけはしていた。



「知らせないと」



 懐から小さい笛を取り出し、それを軽く吹いた。すると笛から妖精達だけが発するような、自力では出せない音が遠くの空まで鳴りわたらせた。


 竜の牙から作られたこの小さな笛は、元々はエルドラ子から抜けた牙を利用したものらしい。この笛を使うとエルドラ子はすぐに音を察知し、笛を鳴らした者の元へとやってくる事ができるらしい。そして実際に、アゲイルを乗せた赤き竜が文字通り、飛んでやってきた。



「どうされた、スノー殿!」

「わからない。北の空から風に乗って妙な音が聞こえた」

「妙な音? 自分には何もわからないが……今もまだ聞こえるか?」

「うん。それに徐々に増して、近づいてくる」



 まだ危機感を刺激するようなものでもなかったが、何か不可解なものが迫ってくる不安のようなモノが確かにあった。



『もすもーす?』

「精霊マダオ? いらしたのですか」

『うん、バッチリ居たよ』

「近くにゼタは居ますか?」

『あー、さっき見たときはゼタっちは作業中で手が放せない……て、うわぁ、ゼタっち何作ってんのソレ……』


 どうやらゼタと精霊マダオは例の如く、傍にいるらしい。しばらくすると、ゼンタロウが何か騒ぎ始めた。



『芸術だ、ゲージュツ』


『いや、うん。それはわかるんだけどさ、これ見てたら、なんか不安になってくるんじゃが?』


『皮肉で風刺が効いてる作品はパンチがあるし、デフォルメ化しててもウケがいいんだよ。ピカソがそれを証明した』


『ゼタっち、自分がピカソと同じレベルとか流石に思ってないよね……?』


『芸術のレベルなんて知るか、七面倒くせぇ。大体コレだって入学試験の提出作品だから仕方なくやってるだけだし、そもそも俺は美術やら図工なんて好きじゃねぇの。デフォなのは楽に作れるからそうしてるだけ』


『うへぇ。それ真面目に作ってる人が聞いたらブチギレそう』



 なんだか知らないが、相変わらずゼンタロウはゼンタロウだった。


「あの……そろそろ話をしてもよろしいでしょうか?」

『ああ、うん。ごめんねスノーちゃん。ほらゼタっち、スノーちゃんが呼んでるけどどうすんの?』

『もう大体終わってるからしばらく暇だろ。……自分の部屋に戻るか。スノー今からそっち行くわ』

「わかりました」



 何とか運よくゼンタロウと会話する事に成功し、ゼンタロウがいつものように私の傍にいるような感覚で言葉を交わしてきた。



『それで、やっと何かあったのか?』


「はい。北の方角から聞きなれない、風を切る音がしています。それも、徐々に近づいてきているみたいなのです」


『……ああ、ついに来たのか。オダ、なんか連絡あったか?』


『いんや、グループに報告とかは特に着てないけど……。いや、ちょっとまって。丁度いま来た。ダンケルクに潜伏中のティンが今朝早くに、空飛ぶ鉄の乗り物と、ドワーフが乗る大型ロボットを吊り下げて一斉に飛び立ったんだってっさ』


『うへえ、やっぱヘリあるのかよ』


『しかも輸送機っぽい』



 どうやらこの奇妙な音の正体は、やはりダンケルクに関係していたようだ。“空を飛ぶ鉄の乗り物”というのがピンと来ないのだけれど、ゼンタロウと精霊マダオにはそれが何かはわかっているらしい。


 そして精霊マダオが何か物思うように唸り声を出すと、今度はアゲイルに話しかけた。



『なあ、アゲイル。今のドラ子ちゃんってスノーちゃんも一緒に乗って飛べそう?』


「スノー殿くらいならば可能です。何せ軽そうですからな」


『そっか。よし、ゼタっちとスノーちゃん。アゲイルの後ろに乗って一緒にドラゴンライダーでもする?』


『なにそれ、楽しそう。あ、でもそこに居る奈良のマスコットどうしよう?』


「マスコット……ええと、もしかしてカリオットの事を言っているのでしょうか? 大丈夫です。カリオットは賢いので、自力で私達の拠点まで戻ってこれます」



 なら決まり、と精霊マダオが言うと、火竜のエルドラ子がさっそく伏せて騎乗可能な体位になり、アゲイルが背中に飛び乗った。私もその後ろに隠れるように跨った。カリオットは首を2度振ると、わかったと言うように一人でトボトボと山を降り始めた。

 それを他所目にしてエルドラ子は力強く二本の足で状態を反らせると、翼を大きく開いて飛び立った。


 飛竜に乗るのはこれで二度目だろうか。


 一度目は半年以上も前になる。エルタニアに来た頃だったか。


 少し懐かしいな。



 ただ、エルドラ子だとまだ少し背が小さいので、最初に乗っていたワイバーンとは比べるとちょっとばかり乗りにくい気もした。



 そんな昔話を一人で思い出していると、一山などすぐに超えてしまい、目前に広がる新たな光景を目にした。


 先程までと大きく変わった様子のない森と山と空の風景なのだが、そんな光景の中に、無数の点々が空に浮いて横並びしていた。


 目を凝らしてよく観察すると、それらは黒い鉄の塊であった。空を飛ぶ鉄塊は全部で八つ、その下には以前から何度も鹵獲・破壊してきた大型ロボットが二機ずつ吊り下げられている。


 それから、どうやら音の正体は空飛ぶ鉄の塊の上にある、円盤のように見える二つの物体だった。棒のような物が回転している風にも見えるのだが、早すぎてよくわからなかった。




『シターニア防衛線のグループチャットにコメント送ったよ。今、コメ受け取ったメンバーに限って侵略してくるヘリに対処しよう。それでスノーちゃん、あのヘリのプロペラ――……えっと、鉄の箱の上で二つ回ってる羽があるんだけど、それを片方でもいいから魔弓術で撃ち落としてくれるかい?』


 なるほど、アレはプロペラというのか。覚えておこう。


「その、プロペラとやらの破壊だけでよろしいのですか?」


『うん、それで問題ナーシ』


『墜落させたら、他のメンバーに任せりゃいいんだよ。全部取ったら俺ら独り占めしたって言われそうだし。だろ?』


『ゼタっちの言う通りだ。あとアゲイル、連中よりも高く飛べないかな?』


「より上を取った方が有利なのは竜騎士同士の決闘と変わらないのですな」



 アゲイルが竜語でエルドラ子に語りかけると、更に力強く羽ばたき、より高く私達は上空を飛んだ。



「この位置なら――」


 より高く飛んだお陰で射角の偏差値も少なく、飛距離も稼げた。


 まだ一キロ以上も距離があったが、銀の矢をルナイラの神弓で引き絞り、ゼンタロウが魔弓術の調整をしてくれた。銀の矢に風と氷の魔力が同時に宿る。



 これならば仕留められると信じて矢を放った。

 飛び出した矢は一直線に伸びる流れ星のような軌道で、狙った鉄の塊に命中し、命潰える虫のように地上へと落下した。


 アレでは中に居るであろう者達は大丈夫なのだろうか。


 いや、最終的にはどれも関係なく落とす事になるのだから、関係はないのか。願わくば少しでも死者が少ないことを願うばかりである。



 その後も狙い通りの位置に命中させ、飛んできた8機の内、5機を地面に不時着させた。残りの3機は途中で撤退して逃した。まあ、帰ってくれるのなら楽でいいのだけれど。


 死ぬのは少ない方が良いに決まっている。


 ……墜落した方に乗っていた敵は残念ながら一人も生き残る事はできなかった。中々、エルタニアから連れて来た精霊付き達も、強者揃いのようだ。



 シターニア大森林側の久しぶりの活動は、そんなものだった。



 ただし、同日のエルタニアはもっと盛り上がっていたらしいのだけれど……。

ヘリコプターのイメージはCH47F輸送機です。オスプレイの様なプロペラが横並びのものよりも、縦配置の方が私は好きです。……本当はどっちでもいいんですけどね。

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