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性格がまた変わった

男子、三日会わざれば刮目して見よって言葉があるじゃないですか。

性格なんてコロコロ変わるし、変わっていいと思います。逆にどうやったって変わらない部分もきっとあるだろう。もしかしたらそれがその者の本質……根っこかもしれない。


1/14(月)

改稿しました。内容を三~四割程、主人公の心情を主に変更いたしました。余り変わってないかもしれません。

 虫の知らせって信じるだろうか。


 今日は変な夢を見た。


 初めは暗い中に忽然と存在する、点だった。


 その点が徐々に大きくなってくると、形がはっきりとする。見覚えのあるような、無いような……古代文明にありそうな奇妙な仮面だった。


 やがてそれは大きくなり……なりすぎて、自分の体よりも巨大なサイズになって、近づいてくる。


『早く起きないと、手遅れになっちゃうよ』

「なにが?」




 答えを聞く前に、逆光に晒されたように光景を映し出した。

 そこには想像もしていなかった姿があった。



 誰かがうずくまっている。白髪とは違う、氷のように透き通る美しい銀の髪に、背の小さな……おそらく少女だろうか。耳が長くて、服装もどこかでも見た覚えのある後姿だった。

 でもいつもと違うのは、妙に実体感を伴う光景でリアリティに溢れていて、風の撫で方や空気のニオイまで感じていた。夢だからなのか、脳内シナプスが勝手にそう連想しているのかもしれない。



 俺は、何気なく少女に声を掛けようと思った。思ってしまったんだ。なんでかって、よくわからない。現実では他人と顔を合せて和気あいあいとお喋りできる程のコミュ力は俺にはないし、そもそも現実が嫌いだ。男とか女とか、若かろうが老いていようが関係なく、他人が嫌いだ。苦手だし、鬱陶しいし、近寄らないでほしいといつも願っている。



 だからこそ、この夢の行動は俺でさえ違和感のある妄想だった。



 でもさ、何を言ってるのかわからないけど、言葉が出なかったんだよ。お互いの価値観や言葉の意味が違うからなのか、何を言っても、聞いても、話そうとしても、会話にならないんだよ。


 すると彼女は立ち上がるとコチラを一度たりとも振り返らずに、背を向けてどこかへと歩き出していった。

 まるで「さようなら」なんて言われているみたいで、感じたくもない心の痛みを覚えてしまったんだ――。




 というところで目が覚めた。



 我ながらどういう夢を見ているんだ。最低な現実の方がマシだと思えるくらいに、女々しい夢だった。


 そもそも虫の知らせというか、相手は虫みたいな仮面の奴じゃないか。


 それになんだかデジャヴュみたいに背中の人物が何者だったのかを考えてしまうけれど、とにかく気分が悪くて頭から追い出したかった。

 こういう時は楽しい事を考えて誤魔化そう。嫌なことは忘れてしまえ、だ。


 そう思うとそっこうでパソコンに電源を入れた。最近は『サモンズワールド』にすっかり御熱の状態だ。気になれば携帯のアプリで状態を確認するし、声を掛ければスノーは返事もしてくれる。生活の中心が『サモンズワールド』になりつつあると言っても間違いないだろう。


 そうだ。こんな時間に起きることなんて滅多にないんだし、寝ているはずのスノーをスクショでもして観賞フォルダを増やそう。最近は隠し撮り……思い出のアルバムが増えて偶に見返しては休憩をしていることもある。意外と楽しいもので、もう結構な枚数になっている気がする。


 それでは早速、思い出のページを増やそうではないかとパソコンを起動したのだが。




 一瞬で血の気が引くような光景を目にしてしまった。


 何故か夢の再現のようにスノーが後ろ姿で崖向こうを見ていて、しかも血まみれで落ち込んでいるように丸まっていたのだ。



(いやいや、所詮夢だろ。何をゲームでここまでハートブレイクさせられそうにならねばならんのだ)



 とにかくまずは気軽に挨拶でもして、それからステータスにも目を通した。とりあえず問題はなんとなくわかった。性格が目まぐるしく追加されたり削除されたりされていた。『???』なんて項目も一瞬見えると、プログラムのバグを起こしたみたいな異常性を感じさせた。


 とにかく、俺なりに気を利かせたつもりで話を詳しく聞くと、人を殺した事が原因で激しく動揺をしているらしいというのが理解できた。


 聞いて、聞き終えて、答えを悩んだ。

 どう答えて、どう誘導すべきかが問題だった。


 たとえば……


「人間殺したの? すげーじゃん。よくやった。じゃあ今度からいっぱい殺して英雄になっちまおうぜ」

 と、肯定するとか。


「人殺して後悔してる? 人の殺しを正当化できる世界でそう考えられるって凄い立派な事だよ」

 と、悔やんでいるのを励ますとか。


「そんな終わっちまった事、どうしようもないから忘れた方が良い」

 と、優しく忘れさせてしまうか。



 まあ、色んなパターンを考えた。このゲームだってその内、対人戦とかして人を殺すんだろうなって事は簡単に想像できた。それならいっそ、今のうちに慣れさせればいいとも、候補として考えられる。


 でも、そのどれもが不正解に感じた。どれも俺が決めちゃいけないって気がした。

 思い出すのは、何故か夢の中の去ってしまう誰かの背中。どうしたらそんな結果になってしまったのか、俺には想像ができない。他人に嫌われるなんて別にどうってことないといつも考えているのに、どうしてなのか……。この時ばかりはその背中が遠のくのが、凄く怖くなった。



 そう考えるのは、きっと自分自身で納得してないからなのかもしれない。

 俺がスノーの考え方を決める事、俺が答えで導くのは、ある種の洗脳みたいで、卑劣な気がしているからだ。だから己の本心が拒絶しているのかもしれない、と。



 だから俺は、今後の方針よりも、本人の意思によって任せる事にした。



 ちょっと考えすぎかもな。馬鹿だよな、俺も。たかだかAI相手に気遣いでもしたつもりなのかと。

 でもさ、現実には居ない、ゲームのキャラだからこそ、俺も素直に愛着が湧いてしまう。



 そのあとは自己嫌悪入りそうだったので、ちょっと重たい空気を排除して、それから落ち込んでそうだから慰めて……。そんな風にしていたらスノーは前を見て立ち上がっていた。夢とは違って、コチラ側を振り返った。もうそれだけで、俺は満足だよ。ただ相当疲れたけどな。


 でもその成果もあり、性格欄の変動も既に治まっていて安定していた。ただ、内容はが――



「冷静、冷血、気まぐれ」



 ――内気が消えて、気まぐれが入った。

 ……気まぐれ……気まぐれかぁ。なんで気まぐれになったかなぁ。なんでだ?


 ……ま、いっか。どうせ性格なんてまた変わるだろうし。それに真面目すぎると心を潰すっていうからな。俺は好きだよ、気まぐれ屋さん。



 とりあえず、血で汚れた白い織物のままでは猟奇的なので脱いでもらい、血も拭って人前に出られる姿になってもらう。……また今度、似たモノを買いなおそう。


「よし、スノー。早速で悪いけど気になる事がある。今から殺したヤツ……一人目の死体のところまで案内してくれ」





 俺が思うに、黒装束の男はきっと何かしらのマジックアイテムみたいなのを所持しているかと思う。

 影丸には闇属性の強化能力でも付与されているのか、魔物でも九割方、状態異常の付与を成功してきた。それが効かなかった、或いは効いていたとしても暴走していたというのなら、そういった装備品を持っていてもおかしくはないと思えた。


 しばらくスノーが山林を迷わずに歩いていくと、入って首のなくなった死体を見つけた。

 今更なんだけど、断面が生々しいな。レーティング仕事しろ。あと、死体って勝手に消えないんだな。ゴブリンの時もそうだったけど、あれってどうなったんだろうな。



『ゼンタロウ、どうすれば?』

「服の中に何か、護符とかアミュレットとか、そういうのがないか調べてくれ」

『わかりました』


 そうして死体をまさぐってしばらくすると、柳の葉っぱみたいな細い刃がいっぱい出てきた。

 飛刀と言う奴だろう。中国版投げナイフみたいな奴だ。でも、状況的に使う機会がなかったのかもしれないな。スノーじゃ的が小さいし、視認阻害の魔法も使ってたらしいからな。


 そんなことを考えていたら、スノーがズボンのポケットから懐中時計のような形のアイテムを見つけ出した。


『ゼンタロウ、これですか?』

「他に何もなければそうだろうな。でもこれって……」


 大き目のロケットペンダントか。でも蓋に描かれているのは国旗とかシンボルとかエンブレムみたいだった。剣と竜と妖精が描き彫られている。


 中をあけてもらうと、三角が三重に描かれた九芒星(ノナグラム)。その真ん中には棘のある植物が彫られ、真ん中には開いた眼がある。不気味だけどこれは意味ありげだ。




「……これはアリッサに見てもらおう。たぶん、大体の答えが出るハズだ」



 あんまり意味はないんだろうけど。まあ確認の意味はある。


 なんにしてもこのままで済むとは思えない。

 ユリなんたら王子もより直接的な手を使い始めた。

 きっと次は盛り上がるイベントを用意してくれているに違いない。


 できれば、今度は俺がログインしている間に起こしてほしいものだ。



「よし、一回キャンプに戻ってアリッサ達と合流してくれ。それでマダオとラックさんを待とう」

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