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ありがちな名前で忘れやすいから“抜け策王子”と覚えた

 キャンプのある丘に戻ってくると、スノーを迎えるように急いでやってくる人影があった。雑用係で雇った冒険者たちだ。


『スノーさん! よかった。帰ってきてくれて』

『ホント、助けてくれたと思ったら急にどこかへ行くから心配したんだよ!』


 僧侶と弓士だ。スノーが二人に心配させてしまった事に対して、どう返答したらいいか迷っていた。

 こういう時の上手い解答は当事者ではなく一歩引いた人間の方がよく思いつくものだ。


「敵が隠れていないか索敵してたとでも答えておいたらいい」

『……敵が隠れてないか探してた。心配かけてごめんなさい』


 それで二人は納得してくれたようだ。最後に冒険者の男が現れて、危ないところを助けてくれてありがとうなんて言った。

 なんだかんだ、うまい具合にスノーは馴染んでいたし、自分を受け入れてくれた彼等に安心しているようだった。



「あ、そういえば……」


 ステータスの確認で最も重要なモノを忘れていた。


 友好種族値が変動していないか確認してない。


 今回、人を殺してしまった事によって、人間に対して大きく変わってしまっていないかを失念していた。慌ててステータス画面を開くと、特に変化はなく、△と×だけだった。

 一安心だ。もしかしたら思っていた以上に心配する必要はないかもしれない。でも、こういうカルマシステムは数値が見えないから怖いこともある。

 気にし過ぎてもしょうがないが、今後の選択しだいで変動することもあるはずだ。



 それからしばらくすると、スノーは冒険者たちに囲まれてキャンプに迎え入れられ、食事をしたり身支度をはじめた。アリッサもアゲイルも一緒に休んでいて、食事をしていた。


 すぐに話す必要もないし、俺も引出しから非常食を口にする。

 妹作のカロリーメイツ。実は手作りである。アルミホイルで包んだ完全で完璧で最良の食糧である。正式名称はショートブレッドと言うらしいが、存在が某会社のアレなんだよな。


 席を離れられない時はこれを食べて一日パソコンに張り付く事ができる。さらに二口で完食できる優れもの。


 食事が完了してしまうと、今度は部屋のカーテンを開けて窓を全開、寝間着を脱いで裸でストレッチ。体をほぐすのは血の循環を良くして頭の回転をよくするためだ。イスに座りっぱなしだと体にも良くない。

 しかし、うむ。何かが足りない。もっというと開放感が足りない。



 そうだ、パンツを脱ごう。



 そして俺は全裸となった。

 窓から差し込む朝日の輝きが俺の全身を暖かく照らしてくれる。


「なんて清々しい朝なんだ。まるで天が俺を祝福しているようだ」


 ……どこかが足りない状態ではあるが、気分は満ち足りた。


 さてと、ヘッドホンとマイクを装着し直してイスに座りなおす。一向に寒いと感じないのはきっと脂肪が増えてきたからだろうと思いたいところだ。ありがとう、俺の脂肪。キミはいずれ削りきるけれど、それまでは仲良くしような!



 入力バーでアリッサとアゲイルにもチャットが聞こえるように設定変更をする。

 食事を終えた二人に勝手に話しかけた。別に確認を取るだけだ。ラックさんや小田に許可を得る必要もなかろう。


「すまん、アゲイルとアリッサ。ちょっといいか?」


 俺から話しかけた事もあまりなかったから、二人は少し驚いた表情を見せた。


「スノー。さっきのロケットを二人に見せてくれ」

『わかった』


 スノーが小さいリュックから取り出したアイテム。それを二人が見ていると、やはりアリッサが反応した。


『近衛が持っている護身用のアミュレットだな。剣と竜と妖精の三つは我が国のシンボルとしてよく使われている存在だ。エルタニア王国近衛騎士団の証でもあると同時に、中の護法陣が魔法から身を守ってくれる。これをどこで?』

「スノーがはじめに倒した隠密(スカウト)系の相手が持ってたんだと」


 やっぱりレジストアイテムだったか。でもこのアイテムが近衛兵の身分証だったとはな。


『何故、彼等はこのタイミングで仕掛けてきたのだろうか?』


 アゲイルが腕を組んでふとした疑問を述べた。


『恐らく、私が三つのダンジョンを攻略した後に襲う計画だったんだろう。ダンジョンが長年放棄されていた事もあり、内部の魔物も強くなっていた。それらを片付けてもらってから自分もその後を悠々と続く、といった所だろう。人の背中を追いかける愚弟らしい発想だ。どうせ、全て上手く行くと考えるお目出度い思考の持ち主だからな』


 アリッサも中々鋭い事を言う。

 でもそれが本当なら、なんとかいう王子は一番初めに浮かんだ名案の他の可能性は特に熟考せずに決めちゃうタイプなのかもな。……組織のトップには立ってほしくない人材だ。



『精霊ゼタ、これを使えば、誰が戦士ギルドから依頼をしてアリッサを狙ったのか問い詰める事ができるのでは?』


 まあ、十中八九、“抜け策”王子の事を言いたいんだろう。アリッサを狙って戦士ギルドに狙わせたとか、そういうわかりやすい話を矢面に出して吊り上げろといいたいのだろう。


「たぶん意味ないと思うけどな」

『なぜ?』

「どうせしらばっくれる。俺でも思いつく限りだと、そのアミュレットは盗品。本人のモノじゃないし抜け策王子は何も知らないと突き通す。自分の名を騙った誰かが勝手にやった。お城で謹慎中なのに不可能とか」

『そんな……』

『抜け策王子というのが不出来な弟……ユリアス王子の事だと考えるなら、そんな筋書きでも納得できる。大方、失敗した時の事など考えていないのだろう』


 アリッサから太鼓判を押してもらえた。まあ、強権使って上手く生きてきたつもりの人間ならよくありそうな考え方だな。まあ、本当にそこまで低能なのか、低能だと思われたいのかは知らないけど。


 ともかく、お手手真っ黒とまで評価された王子が未だに処罰らしい事を受けていないのなら、あんまり意味はないんだろうと想像に難くない。



『それなら、どうして尚の事撤退などしたのでしょうか?』

「どうしてそう思う?」

『ユリアス王子の陣営からすれば、絶対に成功しないといけない襲撃です。でも、彼等は私が一人、後ろから挟撃しただけで撤退しました。それに中心で指揮をしていた人物は身なりがそれなりによかったです。きっとその人も近衛騎士の一人だと思います。すると話がかみ合わない気がしませんか?』

『ふむ。つまりスノー殿は、ユリアス王子の部下が直接手を企てていたのに、手を引くのは有り得ない。と思っているのか?』


 アゲイルがスノーの主張したい事をまとめてくれた。

 すると、アリッサから鼻で笑うような声が聞こえてきた。


『確かに、おかしな話だろう。が、しかし、だ。一つ忘れてはいないか?』


 アリッサが目を伏して口角を吊り上げていた。


『突然現れたスノーが、あまりにも強すぎた。たった、それだけの事という考え方もある』


 考えてみれば、突然後ろから襲われて、瞬く間に回復役が潰され、魔法使いも死に、戦士ギルドの人間も一瞬で殺される。


 恐ろしい展開だ。俺が向こう側の人間なら「たった一人の存在に戦略を潰されるなんてそんなバカな!」と三下具合に思うかもしれない。

 そもそも戦争に置いて一番手間のかかる事と言えば死人が出ることよりも、怪我人が増える事だと聞いたことがある。死人は放置できるが、怪我人は連れて帰らねば士気に関わる。しかも無理ができないので戦闘も続行できない。治療行為は時間や手間を要求するのでそちらでも人員を割かれる。完全にお荷物となるのだとか。


 スノーは死人よりも怪我人の方を多く出している。あのまま戦闘を続ければ、スノーが負ける事はあっても、自軍が壊滅状態になると考えたのかもしれない。一番初めに回復役に手を出したのが良かったのだろう。そもそも彼等の目的はアリッサの始末だ。だったら、厄介なスノーを倒しても目的達成にはならない。三つの神殿から魔法を授かって強くなったアリッサは必ず倒さなければいけないのだ。


 その為にダンジョン攻略後の疲労している際に襲ったのだろうが、状況判断で無理だと悟ったのだろう。



「じゃあ、次の展開は、きっとアレだな」

『あれとは?』

「王都帰還中に待ち伏せ」



 その展開がなければ本当に撤退した意味がなくなる。撤退は陣形や状況の立て直しも目的の一つだ。

 それにスノーの予想通り、相手の頭が抜け策王子の部下であるなら、失敗しましたでは済まされない。


 さらに、ココ『太陽の御神殿』へ辿り着くまでに、奇襲を仕掛けられるような場所は一杯あった。なにせ森も谷も洞窟も抜けてきたのだ。相手からしたら選り取り見取りだろう。面倒な展開だ。まるでゲリラ戦のような心理状況にさせられてしまいそうだ。いつ襲ってくるのかこちらはずっと気を張ってなきゃいけないんだからな。


『……あの』


 スノーがふとした思いつきで手を挙げていた。



「なんだ?」

『彼等が待ち伏せしているのがわかっているなら、話し合いはできないのでしょうか?』




 全員が「は?」という表情になった。

スノーの提案、どうするか迷った。

1、待ち伏せしてるなら逆奇襲すればいい。

2、迂回すればいいのでは?

3、平和的(?)に話し合おう。


時間もないのでやっぱりダイスで決めました。

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