遠い日
金色の 菜の花畑の 向こうから・・・
・・影のお話です。
私を見て,その男はにっこり笑って言った。
そもそも何で俺がこの仕事に就いたのか少しだけ聞いてくれ。
そう・・・何年,いや。何十年か前のことだったな・・・
あのとき・・・・そう・・・5歳位の頃さ。
俺は逃げていた。走って・・走って・・走って・・・
近所でもどう猛だと有名なでっかい犬。そいつがなぜか鎖から抜け出して徘徊しているところにちょうど出くわしてしまった俺たち・・・。
犬は俺たちを見るなり一声吠え,まっすぐ走ってきたんだ。
「ばらばらに逃げろ!!!」
年長の子どもがそう叫んだので,俺たちはそれぞれ別の方へ走ったんだが・・・。この犬は俺を追うことに決めたらしい。
俺は5歳にしては結構足が速い。だが,子どもの足だ。じきに追いつかれてしまった。
迫ってくる犬のふうふうという息・・がるるる・・・と言うようなうなり声・・・
道は狭く,俺の前には塀だ。
後ろから,息がかかるくらいな気がして・・・犬が飛びかかってきたんだ。
俺は
「・・・・@@@・・・・」
自分でも何を叫んだか今でも分からないんだが・・・犬が飛びかかってくるのと多分同時だったんだろうな・・・何か叫びながら壁に向かって走り込んだんだ。
犬が壁にぶち当たってキャンキャン鳴く声が聞こえたけど・・俺は・・壁と一体になっていたんだ。もちろんその時は壁に溶け込んでいたなんてことは分からなかったがね。
そうだ。知らないうちに,俺の脇の壁に犬が壁に当たって逃げてった。俺は無事だった。そんな風に思っていたんだな。
犬がキャンキャン鳴きながら逃げていったので,俺はほっとしたさ。帰ろうって思ったら壁からでられたんだな,きっと。泣きながら歩いているところを,一緒に遊んでいた仲間から話を聞いて,慌てて探しに来たお袋達に見つけてもらったんだ。
彼の話はまだ続く。
そうだな。家に帰ってから,何で俺だけ狙ったんだろうって話になって・・・驚きべき話を聞いたのもこの日だったな。
それから彼は不意に私を見た。じっと。見透かすように。
・・・・・
そう言えば,俺はいつも犬に吠えられることが多かったんだ。親父はそうでもなかったんだが,お袋も同じだったんだな。
そもそも親父とお袋の出会いってのは,犬に追いかけられていたお袋を親父が助けてやったところからだと言うじゃないか。俺もお袋も犬には嫌われる体質なのか・・・そう思っていたんだが。
その夜,寝かしつけようと,布団に入った俺の側に来てとんとんと布団の上から俺を軽くたたきながらお袋が独り言みたいにつぶやいたんだ。
「私の。私たちのずっと遠いご先祖様は,界渡りをしてきたのよ。」
半分眠っていた俺は遠くから聞こえるその話を子守歌にいつの間にか眠ってしまったんだ。
「・・・遠いご先祖様は,銀色の髪の・・・猫の獣人だったって聞いたわ・・・・その頃は尻尾もあって,銀色の尻尾のその先は黒かったんですって・・」
・・・・・
今となっては,夢だったのか・・単なる昔語りだったのか分からんが。
・・・というのは,お袋はそれからしばらくして,やっぱり俺を襲ったのと同じ犬に殺られてしまったからな。話の真偽は今じゃあ確かめられないのさ。
親父は政府の関係の仕事をしていて,忙しく,俺は神殿の幼稚部に預けられたんだ。
まあ・・・そうだな。俺は神殿で育ったようなもんだな。
その男は私をまたじっと見た。見定めるように・・・
私は見返した。強い意志を持って。
影は好きな登場人物の一人です。
影が幸せになる日まで・・・追っていきたいと思います。
次回から3人称で話は進みます。
ハードボイルド?意識してみたんですが・・・かなあ・・・???・・・ならなそう・・・




