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第18話 プレゼント

「武上さん!こっちです!」


入ってきた武上に向かって寿々菜は手を振ってくれたが、

そんなことをするまでもなく、寿々菜がどこにいるかは分かる。

なんと言っても狭い店内だ。


「遅くなってすみません!」


武上は急いで席についた。


今日は、目的不明だが、寿々菜が武上と和彦、ついでに山崎に、

「あけておいて」と言っていた火曜日だ。

場所は和彦馴染みの中華料理屋・来来軒。

武上以外のメンバーは既に揃っていた。


「さあ、武上さん!お好きなメニューをお選び下さい!今日は和彦さんの奢りですから!」

「え?和彦の?どういう風の吹き回しだ?」


武上が驚いて和彦を見ると、

和彦は憮然として言った。


「知るか。寿々菜が奢れ!ってうるさいんだよ」

「私と山崎さんは、自分の分はきちんと払いますから。武上さんの分だけお願いします」

「ったく」


そういうことなら遠慮する武上ではない。

ご飯類・麺類・おかず類・汁物・飲み物・デザートからそれぞれ、

一番高いメニューを注文した。


「ちゃっかりしてやがるな、このっ」

「寿々菜さんが、お好きなメニューをって言ってくれたからな」


もちろん、金を出すのが寿々菜なら、武上も最安値コースで行くが、

和彦ならこれでも足りないくらいである。

とはいっても、所詮は大衆料理屋。

大した額にはならない。


全員が一通り注文したところで、寿々菜が鞄から、

綺麗にラッピングされた長方形の箱を取り出した。


「武上さん。これ、どうぞ」

「え?」

「開けてみてください」


武上は寿々菜に手渡されたその箱を不思議そうに眺めてから、

丁寧に包装を剥がしていった。


中から現れたのは真新しいボールペン。


それもそんじょそこらの文房具店には置いていないような超高級品だ。

ボールペンとは切っても切れない仲の武上だが、

とてもボールペン一本に何万もかける余裕はなく、

いつもそこらへんで売っている安物を使っている。


寿々菜は心配そうに武上に訊ねた。


「武上さん、ちょっと書いてみてください。使い心地はどうですか?」

「あ、はい」


武上は手帳を取り出すと、ページの端にクルクルと円を描いてみた。

ほどよい重さで、インクの出る量もちょうどいい。

さすがにいいボールペンだ。


「とても書きやすいです。これ・・・僕にですか?」

「はい」

「寿々菜さんから?」

「はい」

「・・・」


嬉しいには嬉しいが、高校生の寿々菜からこんな高い物、とてももらえない。

しかし武上がそう言うと、寿々菜は、

「たまには私にもお金を使わせてください」とわざと偉ぶって言った。


「・・・すみません。じゃあ、ありがたく頂きます。

でも、どうして僕にプレゼントなんてくれるんですか?」



今日って俺の誕生日だっけ?

違うよな?



「今日は11月23日です」

「そう、ですね?」


武上も和彦も山崎も、寿々菜が何を言いたいのかさっぱり分からない。

だが寿々菜はニッコリと微笑んで言った。


「今日は勤労感謝の日です。

武上さん、いつもお巡りさんっていう大変なお仕事、ご苦労様です」

「・・・・・・」


武上は視線を、寿々菜と手の中のボールペンの間を何往復もさせた。


「え?じゃあ、これは勤労感謝の日のプレゼントなんですか?」

「はい」

「・・・」


無論、武上とて勤労感謝の日くらい知っている。

でも、子供の頃はそれを単に「学校が休みになる日」くらいにしか思っていなかった。

親には父の日や母の日や誕生日に「いつもありがとう」とやっていたから、

勤労感謝の日に改めて何かするということもなかったのだ。

ましてや大人になってからは、勤労感謝の日も含め、祝日らしい祝日を味わったことがない。

殺人犯は「祝日だから今日は人殺しをやめておこう」とは思ってくれないのだ。

現に今日も、朝から聞き込みであちこち歩き回っていた。


まさか自分の勤労を感謝されるとは夢にも思わなかった。


武上は胸が熱くなった。

誰もが、警察は110番したら駆けつけるのが当たり前の公僕、くらいにしか思っていない。

こんな風に面と向かって「お仕事、ご苦労様」なんて言われたのは初めてだ。

言っているのが寿々菜だと言うことを除いても、じゅうぶん感動に値する。


「寿々菜さん・・・ありがとうございます」

「いいえ」

「何だよ寿々菜。それならそうと言えよ。・・・なら、山崎の分も俺が出すよ。

山崎は俺のために働いてるようなもんだもんな」

「か、和彦さん!ありがとうございます!」


山崎は感動したが、和彦は心の中で、

「そういう意味じゃ、俺は寿々菜に奢って欲しいくらいだ」と付け足した。


「でも寿々菜。俺達は税金払ってるんだぞ?武上はそこから給料貰って働いてるんだから、

別に改めて礼なんかしなくていいじゃねーか。第一、俺もお前も働いてるんだし」

「そうですけど!やっぱりお巡りさんって、私達より大変だと思うんですよね。

いつも死と隣り合わせですし」


さすがにそこまで危険ではないが、

まあ、確かに命がけではある。


「寿々菜さん、本当にありがとうございます。でも、和彦の言う通りですよ。

お気持ちだけで、じゅうぶんです・・・だけど、このボールペンは頂いておきますね」

「はい!」



ああ、やばい・・・泣きそうだ。

和彦がいなかったら、本当に泣いてたかも。



寿々菜が少し舌を出して言った。


「でも実は私、何をプレゼントしていいか分からなかったんです」

「え?」

「武上さんは大人だしお巡りさんだし・・・何をあげれば武上さんは喜ぶかなって悩んで・・・

それで、武上さんと同い年の宮下さんに相談したんです」

「じゃあ、この前宮下さんの家に泊まりに行ったのは・・・」

「ずっと前から、宮下さんに『相談したい』とは言ってたんですけど、

宮下さんが忙しくてなかなか都合が合わなかったんです。

でも、どうしても今日までにプレゼントを用意したかったんで、

宮下さんが無理して、イギリスに行く前夜に会って相談に乗ってくれたんです。

で、お巡りさんなら聞き込みがメインのお仕事だろうから、

靴かボールペンがいいんじゃないかって言われて」

「・・・」


それで俺が宮下真を疑った時、寿々菜さんはあんなに怒ったのか・・・

と、武上は納得し、反省した。


「宮下さんは事務所が違うのに、私がデビューした頃から何かと面倒を見てくれてるんです。

私から見たら、いいお姉さんって感じの人です」



お姉さん!!!



武上はこの一言で、一気に宮下真ファンになった。


「そうだったんですね・・・宮下さんにも、お礼を言っといてください」

「はい!」


その時、寿々菜の携帯が鳴り、寿々菜は「お母さんだ」と言って店の外に出て行った。

武上は寿々菜の後姿を見つめながら、

生涯悔やみ続けることになる一言を思わずポロッとこぼした。


「宮下真って女だったんだな・・・」


和彦と山崎はその言葉を聞いていたが、意味が分からず、

ちょうどお店の人が持ってきたラーメンを食べ始めた。


が、3口食べたところで、和彦と山崎はそれぞれ違う方向の宙を見て、何かを考え、

また2口食べたところで、今度は顔を見合わせながら首を傾げ、

もう1口食べようとして・・・同時に仲良くラーメンを噴き出した。


「お、お前・・・!宮下のこと、男だと思ってたのか!?」

「武上さん・・・それはちょっと・・・」

「そんなこと言ったって!ラパンは男だろ!?」


和彦は口を拭きながら言った。


「別に女が男を演じちゃいけねーって法律はないだろ。宝塚なんかどーなるんだ」

「そうだが・・・」

「ラパンは謎めいたキャラクターだから、女が演じる方が雰囲気出ていいだろう、ってことで、

宮下が起用されたんだ。あいつなら背も高いし、髪型を工夫すれば美青年に見えなくもないからな。

しかし、なるほどなー。それで、寿々菜が宮下んち泊まる時、大騒ぎしてたのか」


武上が真っ赤になる。

和彦は(というか、誰もが)、宮下真は女だと知っているので、

寿々菜が宮下のところへ泊まると聞いても「だから?」だったのである。


「そ、そんなことより!舞台はどうなったんだよ!?延期せずにやれるのか!?

俺の先輩が、もうチケット買ったって言ってたぞ」

「おう、任せろ。まあ、中谷と氷室が死んだのは痛かったが、なんとかなる。

中谷の代役の伴野って奴が、なかなかいい演技するんだよ。

巽は最終選考に残った5人の中じゃ自分が一番だっつってたけど、

あれは自惚れだな。実際は伴野が1番で巽が2番だったんだ。

ま、どっちにしろ、中谷が主役をやることは初めから決まってたんだけどな」

「・・・そうだ」


武上は、外にいる寿々菜がまだ戻ってこないのを確認してから、

小声で和彦と山崎に言った。


「和彦。お前、氷室麻綾と付き合ってたんだろ?なんで黙ってた」

「は?」


武上は鞄から写真を取り出した。

和彦と氷室麻綾がキスしている写真だ。

事件が解決したので、鑑識から取り返してきたのだ。

(放置してると、鑑識の人間が言いふらす可能性がある・・・)


「ん?なんだ、この写真」

「なんだ、じゃない!どう見ても、お前だろ!」

「ちょっと見せて下さい」


山崎が写真をジッと見る。


「・・・ああ!これ!和彦さん、これ、カメラマンに撮らせたやつですよ!」

「?あっ。そう言えばそんなこともあったな」


武上1人、訳が分からない。


「なんだ、撮らせたって?」

「舞台共演者同士がプライベートで付き合ってたら話題になるだろ?しかも片方はKAZUだ」


自分で言ってりゃ世話ない。


「そうすれば舞台への注目度も上がる。だから羽賀に頼まれて、

わざとこういう写真をカメラマンに撮らせたんだよ。週刊誌に載せるつもりでな」


どうりで綺麗に撮れている訳だ。


「門野社長はそんなこと言ってなかったぞ」

「まあ、一種の売名行為だからな。

刑事のお前に正直にそう言うのは、さすがにあの狸も気が引けたんだろ」


結局氷室麻綾が死んだので、門野も、

もうこのやらせの写真は世に出ない方がいいと思って回収したのだ。


「どうだ?本物の恋人同士みたいだろ?俺の演技も捨てたもんじゃないよなー」

「・・・。じゃあ、和彦は氷室麻綾とは何でもなかったんだな?」

「当たり前だ。氷室は女にしか興味なかった」

「!そうか!宮下に言い寄ってたんだもんな!」



やれやれ。

真実ってのは、分かってみれば大したことないもんだな・・・

もしかしたら和彦のスキャンダルのほとんどは、そういうのなのかもしれない。



武上はようやくラーメンを食べる気になり、

まだ電話している寿々菜に心の中で「お先にいただきます」と言って、箸を割った。


「・・・でも、和彦。もし宮下真が男だったら、お前も嫌だったか?」

「何が?」

「寿々菜さんが、宮下真のところに泊まるのが」

「・・・」


和彦は少し考えてから「そうだな、嫌だな」と言った。

山崎がジロッと和彦を睨んだが、

武上はなんとなくホッとした。


「寿々菜は俺にとっちゃ、妹みたいなもんだ。

妹が男のところに泊まるって言ったら、そりゃ嫌だろ」

「・・・そうか」

「ですよね」


そう言って再びラーメンを食べ始めた和彦を見て、

武上と山崎も安心して食事を続けた。



和彦が、2人に気付かれないように、一瞬目だけで寿々菜の方を見た。



実は、和彦がいまだ忘れられずにいる初恋の人は、

寿々菜似の和彦の妹だということは、秘密である。








――― 「アイドル探偵5 武上 孤軍奮闘編」 完 ―――








最後まで読んで頂きありがとうございました。

宮下真に関してはベタなオチで申し訳ありません・・・

寿々菜にそう簡単に恋人ができる訳ありませんよね。

途中でお気づきになった方も多いかと思います(笑)


さて、既に第6弾、第7弾の準備もできているのですが、

更新はちょっと先になるかもしれません。

お楽しみに!

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