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30.君となら、どこへだって

 文化祭の翌日、俺、坂木(さかき)世菜(せな)は汗を流しながら教室の片付けをしていた。


「坂木くーん、こっちもお願い」

「今行く」


 相変わらずいいように使われている気がするけど、別にいいんだ。

 俺には俺のいいところがあって、それを好きだと言ってくれる子がいるから。


「坂木くん、今日の打ち上げ行く?」

「行くよ」


 俺を呼んだ女子がソワソワした顔で覗き込んできた。

 頷くと、その子は嬉しそうにした。


「そっか、嬉しい。……ほら、前に好きな子いるって言ってたから、その子とどこか行くかと思ったけど」

「彼女も自分のクラスの打ち上げ行くって言ってたから、今日は別行動なんだ」


 そう言うと、その子の笑顔が固まった。

 面倒で適当に躱していたけど、それもおしまい。

 あの子に迷惑も心配もかけたくないから。


「それに次の休みにデートの約束もしてるからね。一日くらい離れてても大丈夫。もちろん俺は寂しいけどさ」

「……デート、なの?」

「うん、こないだやっと付き合えたんだ。文化祭で彼女の親にも挨拶したし。どこかでうちの親にも紹介したいけど、恥ずかしくてまだ言えてない」


 うつむいた女子に背を向けて、手を動かす。

 なんとか迷路の解体が終わったけど、机と椅子はぐちゃぐちゃだしゴミだっていっぱいあった。


「俺、机並べるからさ、そっちはゴミ集めてよ」

「あ、うん」


 なんでもないように言って、女子が動き出すのを見守った。

 俺はきちんと距離を保つから、そっちもそうしてほしい。



 午前中いっぱい片付けをして、今日は学校はおしまい。

 昼飯がてら近くのファミレスで打ち上げをするというので、みんなでぞろぞろ移動する。花菜(かな)ちゃんも近くのカラオケで同じように打ち上げをすると言っていたから、帰りに合流したいな。

 そう送ろうか迷っていたら、隣にサッカー部のやつが座った。体育祭で花菜ちゃんに突っかかっていたやつだ。


「坂木、由紀さんと付き合ってんの?」

「うん」

「あのときの続き、できた?」

「まだ。次邪魔したら怒るよ」

「もう怒ってんじゃん」


 そいつは笑って、変な色のモクテルをかき混ぜた。


「いいなー、俺もかわいい彼女ほしいなー」

「サッカー部に女マネいるじゃん」

「普通に怖いんだよ、あいつら……」

「あ、そうなんだ? 優しいイメージあったわ」

「俺もそう思ってたんだけどさあ」


 あんなにムカついたのに、気づけば普通にどうでもいいことで盛り上がっていた。

 まあ、半年も前のことだし。

 花菜ちゃんはけんかっ早いけど、さっぱりしているから、それに釣られたのかもしれない。

 きっとあの子なら、いつまでもうじうじ怒ったり不満を言ったりしない気がした。


「……やっぱり会いに行こう」

「は?」

「打ち上げ終わったら、彼女に会いに行く」

「そうしろよ。なんつーか、そういうの好きそう」

「花菜ちゃんが?」

「ううん、坂木が」

「なんだそれ」


 笑いながらスマホを取り出し、花菜ちゃんにメッセージを送った。すぐに打ち上げをしているカラオケの住所が送られてきた。

 これをあの子はどんな顔で送ってくれたんだろう。

 そう考えるだけで、いてもたってもいられない。



「世菜!」


 打ち上げのあと、二次会をカラオケでやるというので、入り口までクラスの連中と一緒に行ったら、ちょうど花菜ちゃんのクラスが出てくるところだった。


「花菜ちゃん、会いたかった」

「二時間前に会ったじゃん」

「五分離れたら寂しいんだよ、俺は」

「はいはい。桃ー、また明日ねー」


 花菜ちゃんは苦笑して、友達に手を振っていた。

 俺も花菜ちゃんも今日は歩いて来ていたから、手をつないで一緒に駅に向かう。


「ねえ世菜、どっか行く?」


 見上げた花菜ちゃんに、さっき言われたことを思い出した。


『続き、できた?』


 体育祭の後、あいつが来てなければ、俺はきっとこの子にキスをしていただろう。……もし、そうなっていたら、花菜ちゃんはどんな反応をするだろうか。


「世菜?」


 俺が何も言わないので、花菜ちゃんは立ち止まって、不思議そうな顔をした。

 キスしたいな。

 抱きしめてキスして、俺だけのものにできたらいいのに。


「花菜ちゃん」

「なあに?」

「……ちょっと歩こうか」


 また手をつないでゆっくり歩く。

 いつの間にか学校に戻っていて、校門が閉まっていたから敷地の周りに沿って歩いていく。


「あ、ここねえ、蓮乃がハボタン植えたがってた」

「こっちにパンジー並べるって黄乃(きの)先輩が楽しみにしてたよ」

「校庭の方はねえ、」


 花菜ちゃんが楽しそうに花の話をするのを聞きながら半周して、裏門までやってきた。

 門の脇の花壇で花菜ちゃんが立ち止まる。


「ここにフクジュソウ植えたいんだ」

「うん、植えよう」

「幸せを招くんだって。昔、パパが言ってた」

「もう十分幸せだよ……花菜ちゃんがいるから」


 そう言うと花菜ちゃんは照れたような顔で俺を見た。

 三年前は由紀(ゆき)さんの後を追って畑を走っていた女の子が、今は俺の隣で微笑んでいる。

 俺がそれをどれだけ幸せに思っているか、伝わればいいのに。


「花菜ちゃん、好きだよ」

「ありがと。私も世菜のこと好きだよ」


 我慢できなくて、顔を近づけた。

 触れる直前に焦ったように目を閉じたのが見えて、顔が緩んでしまった。

 外だし学校の前だったからすぐに離れたけど、本音を言えばもっとしていたかった。


「ごめんね、急に。我慢できなかった」

「……いいけどさ」

「もう一回していい?」

「あの、いいけど、ここではちょっと」


 その顔がかわいくて我慢できなくて、でも怒られそうだから額に唇を寄せた。


「花菜ちゃん、俺としたいことある?」

「え? んー、そうだなあ……」


 手をつなぎ直して歩き出した。

 まだ陽は高いし、どこへだっていけそうだ。


「世菜とならなんだっていいけど、せっかくだし植物園に行きたいな」

「行こう」

「今から?」

「行けるよ、たぶん」


 君とならどこへだって行ける。

 君も同じようにそう思ってくれたら、嬉しい。

 

「並んで歩くなら、あなたと」これにて完結です。

最後までお読みいただきありがとうございました!

花菜は瑞希とよく似た気の強い娘ですが、澪に似てしおらしいところもある、かわいい女の子です。

そのかわいさを引き出したのが世菜で、世菜にも藤乃や澪とは違う情けなさや気の弱さがある男の子です。それでもいざというときに勇気を出せるかっこよさもあって、二人のいいところとダメなところをそれぞれ書けていたらいいなと思います。


「君に花を贈る」シリーズは七月にまた藤也とメイサの話を書こうと思っていますので、お付き合いいただけると幸いです。

花菜と世菜の話もまだまだ書きたいので(瑞希と世菜の話とか)、どうぞ、今後ともよろしくお願いします。

***

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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