23.どうやったって、敵わない人
あの日、俺、坂木世菜は久しぶりに早い時間に部活に顔を出した。
中庭に行ったら花菜ちゃんがいたけど、声をかけられなかった。
……彼女はベンチで、須藤先輩にぴったりくっついていたから。
花菜ちゃんはずいぶん疲れているみたいで、須藤先輩にもたれかかってあれこれぼやいていた。
正直、すごく羨ましかった。
俺が花菜ちゃんに助けられることはあっても、逆はない。
花菜ちゃんが須藤先輩を頼ることはあっても、俺に頼ったり甘えたりすることはないし、愚痴を言われることすらなかった。
……仕方ないのはわかってる。
二人は従兄妹で幼馴染だし、須藤先輩はかっこよくて頭が良くて、頼れる人だ。
須藤先輩が花菜ちゃんとどうこうなるなんて思ってないし、仕方ないってわかってる。
わかっていたはずなのに。
その後、花菜ちゃんと一緒に裏門に行ったけど、俺は気を遣われてばかりだった。
少しでも頼ってほしいのに、花菜ちゃんだって疲れてるんだから休ませてあげたいのに。
水やりが終わって苗の世話をしようとしたら、俺の同級生が来た。
用意したはずのものが見当たらないという。
それくらいは、自分で探してほしい。
でも、最後に確認したのが俺らしいから、行かないといけなかった。
花菜ちゃんはやっぱり笑顔で送り出してくれて、当たり前のことのはずなのに、寂しくて仕方なかった。
だからってわけじゃないけど、帰りに渡そうと思って買っておいたペットボトルを渡したら、花菜ちゃんは嬉しそうにしてくれた。
それで満足して教室に向かい、探しものはすぐに見つかったけど、何だかんだ用事を押し付けられてなかなか戻れなかった。
なんとか一時間くらいで抜け出して戻ると、須藤先輩が花菜ちゃんと話していた。
俺が渡したペットボトルが置きっぱなしになっていて、それを須藤先輩が拾って花菜ちゃんに渡した。
花菜ちゃんが溶けたような笑顔で受け取っていて、なんかもうダメだった。
俺は君に甘えて、迷惑をかけてばかりで、優しくすることも助けることもうまくできていない。
それを突きつけられたような気がした。
「……ごめん」
君の耳には届かなかったと思うけど、言わずにはいられなかった。
カバンを背負い直して、踵を返す。
俺は、君に合わせる顔がなかった。
数日後、部活に顔を出すと、花菜ちゃんが駆け寄ってきた。
「先輩、お疲れさまです。今日はクラスは大丈夫ですか?」
「……うん、大丈夫」
「じゃあ一緒に水やり行きましょう。他のところも人手不足で、私もあんまり手入れができてないんです」
花菜ちゃんは俺の隣で、最近の部活の様子やクラスのことなんかを話していた。
景品が足りなくて花菜ちゃんも用意を手伝っているらしい。
「世菜先輩?」
「ん?」
裏門に着いて、蛇口にホースを繋いだところで、花菜ちゃんが俺を見上げた。
「なんか、元気ないですか?」
「そんなことないよ」
全然大丈夫。
君に心配をかけるようなことなんて、なんにもない。
俺は須藤先輩みたいに頼れる男じゃないけど、これ以上、大好きな女の子に迷惑をかけたくなかった。
水やりをして雑草を抜く。
その後はそれぞれ違う場所に応援に行った。
今は、一緒にいるのが辛かったから助かった。
全員の作業が終わったあと、花菜ちゃんを探したらスマホをいじっていた。
声をかけようか迷っていたら、彼女は顔を上げて、須藤先輩に声をかけた。
「藤也ー、私も藤也と帰る。パパが藤也の家にいるってさ」
「そうなん?」
「なんかねー、おじいちゃんが松の手入れするの手伝ってたって」
「ああ、ホテルの松を入れ替えるっつってたわ」
花菜ちゃんは須藤先輩と歩き出した。
でもパッと振り返って俺を見つけると駆け寄ってきた。
「先輩、明日は部活に来れますか?」
「たぶん。遅くなるかもだけど」
「そっか。私は明日からあんまり顔を出せないかもなんです。でも寂しかったら連絡くださいね。すぐ来ますから」
今、寂しい。
そう言いたかったけど、堪えた。
だって、須藤先輩が花菜ちゃんのことを待っていたから。
「……ありがと、由紀さん」
「また明日の朝に、世菜先輩」
「うん、またね」
花菜ちゃんは手を振って、夕焼けの中、須藤先輩と帰っていった。
一人残された俺は、何も言えずに立ち尽くした。
須藤先輩と話す花菜ちゃんの横顔は、やっぱりかわいくて、きれいで、なんていうか、それで良かったと思った。
徐々に暮れていく中で立っていたら、ふと去年のことを思い出した。
園芸部で、ちょっといいなって思っていた女の子。
その子も須藤部長に憧れていて、よく友達と一緒に話しかけに行ったり、盛り上がったりしていた。
そうだった。
俺があの人に敵うわけがないんだ。
「坂木?」
翠が、心配そうな顔で俺を覗き込んだ。
「なに?」
「顔が死んでるけど」
「そんなことないよ」
全然ない。
もしかしたら、ちょっとはあるかもしれないけど。
でも、それを翠に言う気にはならなかった。
「だいじょぶ」
それだけ言って、俺は一人で帰った。
俺は、あの子に笑っていてほしい。負担になりたくなかったし、これ以上甘えたくなかった。
本当に、それだけだった。
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