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『東京キッザニア― 日本サイバーサイジング社構造接続プロトコル計画判断接続実験― それは誰のものか』  作者: マック アダソン
第6章 突然封鎖されたパビリオンと再び高額転売問題視された体験用社員証編
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②夫妻の暗殺の一報と転売問題

そのとき。

「……え?」


 誰かがスマートフォンを見つめたまま、動かなくなる。


「ニュース……」

画面が、次々と開かれていく。

 ――創業者夫妻、死亡。

 ――暗殺。

 ――世界的システム停止。

 ――通信障害。


 言葉が、現実に追いつかない。



また、キッザニアの日本サイバーサイジング社パビリオンで配布されていた「体験用社員証カード」が、フリマアプリなどで高額転売されている問題が再び拡大。

部では数十万円規模の取引も確認。

運営側は注意喚起を行うも、対応は難航。


「え……?」

誰かが小さくつぶやく。

そのカードは――昨日、ここで子どもたちに配られていたものだった。



 実は、この問題は今回が初めてではなかった。


日本サイバーサイジング社のパビリオンが開設された当初から、一人一回一枚しかもらえない。

という特別な仕組みがあった。

それは、体験の価値を守るため――そして同時に、 転売を防ぐためでもあった。


だが、それでも完全には防げなかった。

フリマアプリには『未使用』『美品』『限定配布』といった説明とともに、子ども向けに配られた『体験用社員証カード』が並び中には複数枚を出品しているアカウントも存在していた。

運営側は何度も対応に追われ、 ニュースでもたびたび取り上げられていた。



 そして今その状況は、まったく別の意味を持ち始めていた。

会社そのものが、消えようとしている。

それでも、カードは、売られ続けていた。

画面の中で。


『最終入手機会』

『現存数わずか』

『今後価値上昇確実』


 実際の社員たちにとって、そのカードはただの記念品ではなかった。

出入りのための証であり、 働く場所へ入るための鍵であり、生活そのものとつながっていたものだった。


 そして今、 子ども向けに配られた体験用の社員証が、その『本物と同じ形』をしているという理由で、値段をつけられて、「商品」として並んでいる。

中にはそれを見て、言葉を失った社員もいた。


「それ、昨日まで自分たちが使っていたものと同じなんです。」

「それがないと、会社にも、家にも戻れない人もいるのに。」

「それが……売られているんですか?」



そのカードは、職場の入館証であると同時に、 支社ごとに存在する居住施設の鍵でもあった。

社宅や寮を持つ支社もあれば、 宿泊施設として整備されている支社もある。

ドアに触れるだけで、開く。それが、当たり前だった。


日本サイバーサイジング社には、 社宅や寮は存在しない。

だが、その代わりに、 長期滞在も可能な宿泊施設が用意されていた。


夫妻の暗殺以降、 カードは反応しなくなった。

そしてその扉もまた、開かなくなっていた。

職場だけではない。

戻る場所にも、入れない。


外に立ったままの人間が、静かに増えていった。

誰かの生活だったものと、それを模して作られた体験の記号が、同じものとして扱われていた。


 それは、 どこかで線が越えられてしまったような、 静かな違和感だった。


「……これ、昨日のだよね?」

子どもが、母親のスマートフォンをのぞき込む。

そこには、自分たちと同じカードが映っていた。


値段がついていた。

もう使えないカードに。

もう存在しない会社のカードに。

値段がついていた。

それは、 ただの転売問題ではなかった。

現実と記憶のあいだに、価値のズレが生まれている光景だった。


挿絵(By みてみん)

****************


第6章は、こうして終わる。


パビリオンは停止した。

接続は途切れ、応答は失われ、その中心にあったはずの判断は、消えた。

世界中で同時に、同じ現象が起きている。


だがそれは完全な停止ではなかった。

機能は失われている。

だが、痕跡は残っている。


判断の順序。

選択の基準。

優先の感覚。


それらは、消えていない。

むしろ切り離されたことで、はっきりと残っている。

それはもはや、どこかの装置に属するものではなかった。

場所に依存せず、接続にも依存せず、個々の内部に定着している。


だがそれは、共有されない。

誰もそれを説明できない。

誰もそれを確認できない。

ただ、それぞれの中に、同じように残り続けている。


そしてその状態は時間とともに、別の形へと変わっていく。


構造は消えた。


だがその影響は、消えていない。

むしろ、外部が失われたことで、その存在だけが、はっきりと浮かび上がっている。


そして第7章では、その痕跡だけが残された世界の中で、人々が何を見て、何を残し、何を失ったのかが描かれることになる。


****************

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