⑤サイバーサイジング社の社員証
スタッフは拍手をした。
「これでみんなも、日本サイバーサイジング社の一員だよ」
スタッフがそう言うと、小さなトレーが運ばれてくる。
「最後に、これを渡します」
子どもたちに配られたのは、プラスチック製のカードだった。
「わあ、なにこれ!」
「カードだ!」
手に取ると、そこにはサイバーサイジング社のロゴ。
そして、自分の顔写真と名前。
数字で書かれた社員番号と、読み取り用のバーコード。
「ほんものみたい!」
「これ、社員証なの?」
スタッフはうなずいた。
「そう。これは、サイバーサイジング社の社員証でもあり、会社に入るための入館証でもあります」
少しだけ続ける。
「それだけじゃなくてね、世界中の支社にある福利厚生施設を利用するときにも使うカードなんだよ」
「えっ!?」
「ごはん食べたり?」
「遊ぶときも?」
「そう。お店やスポーツ施設、いろんなサービスで使えるよ」
「しかもね、社員だけじゃなくて、その家族も利用できるんだ」
「えっ、家族も!?」
「うん。多くのサービスは半額だったり、無料で使えるものもあるよ」
「ええー!?」
「いいなあ!」
さらにスタッフはカードを指さす。
「このカードには、社内で使うためのお金をチャージする機能もあります」
「チャージ?」
「うん。会社の中では、このカードにお金を入れて、それで支払いをする仕組みなんだよ」
「じゃあ、お金みたいなもの?」
「そうだね。会社の中で使う『お財布』みたいな役割だね」
「すごい……」
子どもたちはカードをじっと見つめる。
カードの端には、小さく英語が書かれていた。
『GLOBAL ACCESS』
子どもたちは、目を輝かせる。
「ほんとに社員みたい!」
「かっこいい!」
スタッフは笑った。
「今日は体験だけだけどね」
でも、みんなはちゃんと仕事をしてくれた『仲間』だよ」
子どもたちは笑った。
しかしその笑顔の中で、何かが、静かに壊れ始めていた。
まだ、この時点で誰も気づいていなかった。
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第5章は、こうして終わる。
体験は、滞りなく終了した。
子どもたちは役割を果たし、判断は統合され、すべての工程は、予定された通りに進行した。
問題は発生していない。
異常も検出されていない。
構造は、正しく機能している。
それは教育として成立し、体験として完結し、参加した者の中に、確かな手応えだけを残している。
だがその完結は、終了を意味していなかった。
その場で行われた判断。
その場で選択された基準。
その場で形成された感覚。
それらは、外に持ち出されている。
意識されることなく、自覚されることもなく、ただ、残り続けている。
そしてその時点ですでに、構造は条件を満たしていた。
中心が存在することで成立していたはずの仕組みは、すでに、その中心を必要としない段階へと移行している。
それはまだ、問題として認識されていない。
異常は報告されていない。
変化は記録されていない。
だが確実に、その内部では、別の状態が成立している。
それは停止ではない。
崩壊でもない。
維持されたまま、意味だけが切り離されていく状態だった。
そしてその状態は、次の瞬間に、外側から現れることになる。
そして第6章では、中心の消失という形で、この構造が外部から断ち切られることになる。
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