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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
降り積もる雪
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◆5-21 巫女の降臨




 「開門!」

 「応!開門!!」

 エレノアの号令一下、門兵達は一斉に動き出した。

 それまでとは打って変わって魔獣達に対する怯えも震えも無く、力強く開門のハンドルを回す。

 滑車は擦る様な金属音を響かせながら激しく動き出し、重厚な落とし格子が地響きを立てながらゆっくりと上がっていった。


 「騎士隊!確認!」

 「一番隊、遊撃工作隊、装備全て良し!」「二番隊、同じく!」

 「三番隊、重装騎兵隊、装備全て良し!」「四番隊、同じく!」

 エレノアの号令に応え、各隊長達の張り上げた声が響き渡った。


 出立を見送る町民達にも騎士達(かれら)の緊張が波紋のように伝わり、誰かから始まった小さな応援は、興奮と陶酔が入り混じる大声援へと変わっていく。

 魔獣から町の人々が受けた恐怖を怒りに変えて、反撃の狼煙(のろし)たる雄叫びをあげる。それは外壁を乗り越えて、魔獣達の陣取る丘の上にまで届いた。


 硬毛(ヒグマ)、2頭の内の一頭。一際巨大な個体が後ろ脚で立ち上がり、戦闘開始の唸り声を上げた。

 それに応えるかの様に、灰群狼(グレイウルフ)達は一斉に腰を上げ、次々に吠え始める。

 見上げる位に大きな熊2頭、馬並みの体躯を持つ狼7頭。

 人間の軍中隊(100人)に匹敵する戦力の合唱が人々の咆哮に応戦した。


 「落とし格子、施錠確認!」「門!開け!!」

 巨大な門が門兵達の力で一気に開かれる。

 「行くぞぉぉぉ!!!」「ガァァァ!!!」

 人間達の雄叫びと魔獣達の咆哮が一層激しくぶつかる。


 「突撃!!!」

 各隊長の号令と共に、遊撃工作隊は一斉に門を飛び出した。

 一番隊二番隊は己の背丈を隠すくらいの大きな鋼板を背負いながら、隊列を乱す事なく二列縦隊で駆けて行く。

 隊長指揮の下、一糸乱れぬ兵団。

 陽の光を反射する鋼板一枚一枚が大きな鱗。

 彼等の姿は巨大な蛇が門から這い出て来たかの様だった。


 唸り声を上げていた羆が地面を一足踏み込むと、波紋の様な地響きが丘全体に拡がった。

 それを合図に、群狼達は吠えるのを止めて一斉に駆け出す。

 群狼達の食いしばった歯の間から溢れるヨダレが地に落ち、丘上の草花は急速に萎れていく。

 「口を塞げ!高濃度魔素だ!唾液に気をつけろ!」

 フィディス騎士団長が叫ぶと、皆一斉に口元を隠した。


 外広場に出ると、一番隊二番隊は勢いそのままに左右に別れる。

 一匹の巨大な蛇が二匹の細長い蛇となり、大きく左右に迂回し、広場を取り囲む様に素早く進んだ。

 広場を囲む崖や湖岸を背にした位置で順次停止していき、興奮する馬を落ち着かせる。

 その隊列は北門を高台(こうだい)、崖の端を口辺(くちべり)にした巨大な腕状。鶴翼の陣を更に大きく拡げた様。

 騎士達は指定された場所を陣取り、隙間なく並んでいった。


 配置についた騎士から順に、背負っていた巨大な鋼板を背中から降ろす。そして、鋼板の加工した先端部分を勢い良く地面に突き刺して固定した。

 馬ごと自分達の姿を覆い隠し、隣接する鋼板の隙間から、次々と馬上槍を突き出していく。

 等間隔で巨大鋼板(タワーシールド)の壁が立ち並ぶ、長大な『鋼の要塞』が瞬時に完成した。


 鶴翼の陣形を成す騎士達の鋼のお椀。

 椀の底部にあたる北門前にはイリアス枢機卿とバルバトス。その二人を護る様に、重装騎兵の三番隊と四番隊が二列横隊で迎撃隊形を整えた。


 土埃を上げながら丘を下り来る灰群狼。

 体躯の割にはかなり素早い。

 少し遅れ、四つ足で駆け下りてくる巨大なヒグマ。

 戦闘馬車(チャリオット)よりも大きい身体を上下に揺すり、背中からは魔素の湯気が立ち昇る。

 迫り来るその巨体に、鋼板を支える騎士達の手も震えた。


 ドスン…ドスン…ドスン………

 硬毛羆の走る地面から響く重低音。それは地響きとなり門にまで伝わる。

 その光景を街壁上から見ていた枢機卿(イリアス)の側近達は青ざめ、震え上がった。

 「げ、げげ…猊下だけでも!中に入れろぉぉ!!」

 「猊下を囮に使うなぁ!!言語道断!不敬ぞぉ!」

 しかし彼等の悲鳴は、人々の熱狂的な応援と雄叫び、そして魔獣達の足音と咆哮に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。


 ヒグマ達よりも一足早く北門外広場に辿り着いた4頭の灰群狼は、一斉に方々へ散り、手近な遊撃工作隊に襲い掛かった。

 しかし、鋼鉄で築かれた『鋼の要塞』には彼等の鋭い牙も爪も通らず、甲高い音を響かせながら弾き返した。


 鋼板と鋼板の隙間に鼻先を突っ込み、柔らかい部位を探して牙を剥く。だが、隙間を埋める馬上槍が灰群狼(かれら)の目や鼻を穿ち、押し返す。

 それならばと高く跳躍し、壁をよじ登り襲い掛かる群狼。板の上から突き出たその太い首に、斜めに突き上げられた馬上槍の穂先が、鈍く湿った音と共に肉の中にめり込んだ。


 「ガァァァ!!」

 灰群狼(かれら)の絶叫が広場に響き渡る。

 槍が首を貫通し、首の後ろから穂先が頭を覗かせた。それなのに…死なない。

 身体をよじりながら鋼板を乗り越え、騎兵の上に覆い被さる。真上に突き上げた槍に首を吊り上げられたまま、届く後ろ脚で彼の頭と身体を何度も何度も蹴り飛ばす。

 激しく蹴られた鎧兜は少しずつ変型し、騎士の顔からはおびただしい流血が。しかし彼は尚も、更に上へと槍を押し上げた。


 「まだまだぁぁあああ!!」

 「気張れぇぇええ!!」

 「さっさとくたばれぇぇえええ!!」

 他の遊撃工作隊(なかまたち)も、暴れる群狼に向けて次々と槍を突き刺す。

 灰群狼は身体中穴だらけになりながらも暫くの間、暴れ続けた。結局、貫通創が拡がり、その首が落ちるまで動く事を止めなかった。


 死んだ灰群狼の身体からは大量の血液と体液が飛散し、周りの騎士達(なかまたち)の鎧に付着する。そこからは、湯気の様に濃い魔素が立ち昇った。


 「く…!なんて濃さだ…」

 「魔力の少ない者は口を塞げ!吸い込むな!酔うぞ!」

 「くそ!やられた!…重症だ!」

 「こちらは3名!戦闘継続は不可能!」

 「馬は無事か?危なければ放してやれ!脚が無くなると死ぬぞ!!」

 「壁は死守せよ!一部でも崩れたら終わりだ!!」


 各所から悲鳴とも怒号とも判じ得ない戦況報告が多数交錯する。隊の一部は混乱し始めていた。

 だがそれでも地面に穿たれ、立ち並んだ『鋼の要塞』は、全く揺るがなかった。



 広場に後から到着した灰群狼の残り3頭と硬毛羆2頭は周り見渡し、仲間達の被害を確認した。


 …俺達を取り囲む様に(そび)え立つ硬そうな壁。

 その周囲には濃い魔素と鉄錆の匂い…。

 既に息絶えた仲間だったモノが、ひとつ…ふたつ……。皆、空の血袋となった。…動かない。

 穿つ事は難しいのだな…。しかし逆に、自ら動く事も出来ない様だ。


 蹂躙は諦めよう。

 殲滅は無駄だし…()()には無い。無意味だ。

 だから……


 残った魔獣達は目標を変えた。

 元々の目的である門前に居る男達。

 指示により、彼等を殺さねばならない。


 …誰の…?

 いや、今は考える必要はない。

 ただ、殺せ…。必要なのは…それだけ…


 魔獣達は、目標に向けて一斉に駆け出した。



 北門に向けて、みるみるうちに距離を縮める魔獣達。

 囮として置いているイリアス枢機卿達の前にだけ鋼板の壁は無い。代わりに、重装騎兵隊が槍衾(やりぶすま)を用意して待ち構えていた。


 「あんな化け物熊、重装騎兵といえど防げるわけがない!!」

 「やめろぉおお!!」「早く!門の中へ!!」

 壁の上から幾つもの悲鳴が上がる。

 絶望してしゃがみ込み、頭を抱える枢機卿(イリアス)の側近達を横目に、突然エレノアが走り出した。


 櫓門の一番天辺から宙に飛び出し、舞い降りる彼女。

 金色の砂子を撒き散らせながら、羽衣の様な純白ドレスがゆっくりと揺れ動いている。

 長い袖を棚引かせながら空中を落下する彼女の様子は、まるで……

 「……巫女様」

 彼女を見ていた門兵達から呟きが漏れた。



 「灰群狼(やつら)の脚なら、そろそろぶつかる頃合いかしらね」

 門の内側、戦場から少し離れた湖の傍らで準備を終えたアビゲイルがポツリと呟いた。


 フレイスティナは立ち上がり、壁をじっと見つめていた。驚いた様な表情を浮かべながら。

 彼女の視線の先は、騎士と魔獣が戦っている広場のある辺り。


 「視えてるのね?…やっぱり血筋かしら。

 イリアス卿も、時折、貴女と同じ様な事をしているわ」

 最後の仕上げをした後、留め金具を外し、アビゲイルは造っていた物から手を離した。


 「貴女の目には、エレノア(彼女)はどの様に映ってる?どう視えているのかしら?」

 「純白の美しいドレスが…空中をフワフワと…

 布に包まれた長い棒?…を片手に。

 まるで、聖典にある戦巫女降臨の図…綺麗…」

 「ふふ……嫌がっていた割には、ちゃんとやってるじゃない」

 アビゲイルは小さく笑った。


 「さて…と、時間ね。…いくわよ!!」

 空中に浮かぶのは、大きな網を被せた大量の革風船。

 それを見上げながら、アビゲイルは風の魔術式を発動させた。




 

おひさし更新。

遅くなりました。ごめんなさいm(_ _)m


ジェシカの方が楽しくて…つぃ…

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