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ハイスピード・アナリシス ~異世界で解析しまくる男。  作者: 愛野万之介
第五部 マジック・カンパニー
83/162

第83話 桃色吐息。






俺はこの国から逃げる事を決意し、早速猫に問う。


猫。

とりあえず、俺が無意識モード中に起きた出来事を話せ。

俺が、無意識モード中に何があった?

ここはどこだ?

周囲の状況は? いや待て、お前は説明下手くそだから先に言っておく。

起きたことを順番に説明していくんだぞ!



“にゃ……。本当に記憶がないにゃん?“



ない!



“にゃ、順番通り……。まず任命式が終わって、リョウスケは塔から降りて、工場長代理と一緒に人波の中を堂々と立ち去ったにゃ“



堂々と?



“両手を高々と上げて、ニコニコと歓声に応えていたにゃ“



思わず絶句する俺。


ま、まじなのか?

スゲーな、無意識モード俺は……。

俺はそんなパフォーマンスは無理だぞ……。



“吾輩はそれから、ふらふら歩くハルカと寮に帰ったにゃ。凄い人混みだったにゃ。ハルカは一人にしてくれって言うから、今度はリョウスケのところに行ったにゃ“



うんうん。

分かりやすいぞ。


だが、ふらふら?

一人にしてくれ?

ハルカは調子が悪いのか?



“だから、リョウスケが工場長になって、ショックを受けてるにゃん……“



俺が、工場長になって?

……分からない。


俺は腕組みし、ハルカの気持ちになって考えてみる。


俺がハルカだったら……。

突然、どこの馬の骨とも分からない男が、工場長になる、か。

うむ。

その気持ち、なんとなく理解出来た。



“にゃ? わかるにゃん?“



俺なんかが工場長になるなんて、許せない、という気持ちだな。


ハルカだけは、俺が大した男ではないと気付いていてもおかしくないのだ。

まだ来たばかりの頃から知り合い、何も知らないと驚かれた事もあった。

何度も傷を負って、気絶しているのも見られている。

少しだけだが、エッチな行為と勘違いされてもおかしくない事をし、人間性を誤解されている可能性もある。



そんな俺が、工場長になるなんて、納得できる筈がない!



“にゃ???“



ハルカからしたら、俺より先輩という自負もあるだろう。

名誉ある騎士団副団長の自分を追い抜いて、最高位の工場長になった事に怒っている……といったところか。



“……にゃ。リョウスケ、吾輩は違うと思うにゃ?“



違う?

どうしてそう思う?

あ、もしかして桃色工場長代理の事を尊敬していたのか?

あ、だから俺が、工場長になる……。

そういう角度の視点で見るべきか!



”にゃ……。もう吾輩はよく分からないにゃ……”



俺は合点する。

まぁ、そうだろう。

ハルカだけではない。

他にも沢山いる筈だ。


俺のような若造が、最高権力者になり、この首輪で束縛されるなんて辛いだろう……。



“リョウスケ、分かってないにゃ! この国の人達は、大歓声上げてたにゃ。リョウスケは何故かこの国で、大人気みたいにゃ“



大人気?

俺が?

馬鹿な!


そもそも、俺の事なんて誰も知らないだろう。

俺を漆黒と呼んでいた人達もいたが、極少数。

この鎖首輪(チェーンチョーカー)の効果で、誰も逆らえないだけかもしれん。

可哀想にな。



“そうなのにゃ?“



ん?

猫?

お前、その尻尾についてるの、なんだ?

白く光ってるのは、虫か?



“にゃ? どこにゃ? 何もないにゃ?“



黒い尻尾がムチのようにしなると、それはふらふらと漂い、スイッと動いたりしてまた猫にまとわりつく。



“にゃんにゃん? 見えないにゃん“



SOMか!?


よく見るとそれはやはり浮遊する泳ぐ文字。


そういえば、シャドウがSOMを拡張するって言っていたな。

俺が工場長になり、秘密漏洩ロックがどうとか、色々と言っていたが、先ずはSOMを改造しようと考えているようだった。



【謎O 魔剣ニャルヴィング】



メダカに見えるのは実は文字。

一体、どんな変化があるのか、試してみようか。


俺は手を伸ばし、そのメダカに触れる。



ポン♪


可愛い効果音と共に、情報がいつものように頭に浮かぶように入ってくる。



『魔剣ニャルヴィング改め猫。謎O。解析率55%。刀身の材質不明、黄金の柄には猫族の獅子紋があり、瞳には魔石がはめられている。遥か過去に獣王黄金獅子により作られ、その国と獣王を滅ぼしたという伝説を持つ呪われた魔剣。他、フィフス戦争にもジェムズに使われる等、数々の不幸な戦いで使用される。刀身に契約の文言『我に命と魔力を与えよ。さすれば我、汝に力を与えん』とあるが、現在は、松田良介と『汝の命も魔力もいらないにゃん、我、力を与えん』と口頭による契約を締結している。魔力を失うと長き眠りにつくらしく(不明)、自給自足の為に柄を残し、猫型の四足歩行魔物の形態へ変化。取り込んだ魔力により、能力変化あり(不明。成長。インビジブルモード)。溜め込んだ魔力を倍増させ、凄まじい火力の……』




俺は瞬きして首を捻る。


付き合いが長いせいで情報が多い。


だが、普通だ。

何が変わったんだ?

拡張したとは思えない。

ポンと効果音がしたが、それ以外は以前の通りみたいだが?

同じ、だよな?


もしや速度アップ? バグの修正?

常時起動している事が拡張?



シャドウのあの様子では、大々的な改造をしたように聞こえたんだが。



俺はベッドから降りて、他のメダカに触ってみようと立ち上がる。



そこで、SOMに違和感。


メダカが、猫のところの一匹しか見あたらないのだ。


いつも、触って触ってと、俺の周囲で沢山泳いでいるはずなのに。

やはり意識してSOM起動させないと駄目なのか?



“話の続きをしてもいいにゃん?“



あ、ああ。



俺はふと腕時計を見る。


朝の八時……か。

昨日の任命式から、今朝まで時間が経過している……のか。


ん?

俺の腕時計に、メダカ?



腕時計にくっつくように、文字がフワフワと浮かんでいる。




『松田大介の腕時計』




そのメダカ文字を読んで俺は絶句する。


……。

松田大介……。


父の名だ。

これは、父の残した遺品だから、間違いではない、が。


俺は流石にそのメダカには触る気がせずにスルーする。


既にシャドウのお陰で時刻補正もされ、魔圧測定、方位等、なくてはならないアイテムではあるが、それ以上の情報は不要だ。

触る必要もない。




“どうしたにゃん? メダカってなんにゃ?“




いや、何でもない。

ちょっとな。

で、昨日の話の続きを頼む。




“にゃ。吾輩はハルカと別れて、リョウスケを探したにゃ。そしたら、リョウスケは工場長代理と、どこかへ挨拶に行っていたにゃん。それには間に合わなかったにゃん“



挨拶?

もしかして、就任挨拶って奴か?

大きな重要な職につけば、ありがちだな。

何処に?



“遅れて合流したにゃんが、一生懸命工場長代理が、リョウスケに話しかけていたにゃん。その話からすると、カンパニーの奥に、管理者がいるみたいにゃん。そこに挨拶してきたみたいにゃん?“



管理者?

カンパニーの奥?



“この街から北に進んだところにゃん。馬車で行ってきたみたいにゃん。吾輩はその管理者には会っていないにゃん“



ふーん。

このナインズワームから北に先に行けば、国の玄関であるターミナルゲートの反対側だから、位置的には奥になる。

だが、管理者って初耳だな?

土地の管理人さんという事か?



“吾輩は知らないにゃん?“



桃色工場長代理に聞くしかないか。

といっても、記憶がなかったとは言えないから、聞きにくい。

機会をまつか。


それから?



“それから、この屋敷に来たにゃ“



屋敷……。

ここは誰かのお屋敷の一室か……。



“これから、リョウスケはここで暮らすみたいにゃ。昨日の夕飯をこっそりいただいたにゃんがなかなかにゃん。初めて食べるものも多かったにゃん“



なに?

ここで暮らす?


食堂があるのか、いやもしかして、お抱えコックつき?

この屋敷は、何処の誰の……。


俺はまた室内を見渡す。

かなりの金持ちの屋敷にしか見えない。

まて?

工場長になったから、それだけの住居が与えられたという事か?



コンコン。



ノックの音に、俺は顔を上げる。


ドアの向こうから、凛とした声がする。



「リョウスケ様、朝ごはんの準備ができました。よろしいでしょうか」



ちっ。

誰か来た……いや、この魔力は、桃色工場長代理!



“にゃ!? 工場長代理にゃ?“



猫が俺を見ながら、おろおろしはじめる。



“リョウスケ、ど、どうするにゃん? 今すぐに、に、逃げるにゃん?“



俺は苦笑して首を振る。


いや、まだ逃げられないだろ。

情報不足だ。

行き先も決めてないし、金もないし、逃げるにしても捕まらないように算段も立てたいし、な。

数日は様子を見ながら、情報を集めて脱出準備、だな。

お給料の前借りが出来ると助かるが。



よし、猫。

取り敢えず、インビジブルモードで、透明になれ。

お前の存在は今のところは隠しておく。



“にゃ、わかったにゃん“



猫が姿を消す。




「失礼します」



扉を開けて入ってきたのは、メイド服にを来た綺麗な女性だった。



ん?

工場長代理じゃないのか。



俺は首を捻る。

だが、深々とお辞儀をしている女性の強い魔力は、間違いなく工場長代理。

そして、髪の毛の色も間違いない。

だが、メイドさん……だよな???


顔を上げるメイドさんを見て、言葉を失う。



やはり、工場長代理!


な、何故だ???

桃色のユルふわヘアを耳にかけながら、微笑む桃色工場長代理!

な、何故、工場長代理がメイド服着ているのだ?



俺は素早く桃色工場長代理の全身を瞬間記憶し、解析(アナリシス)する。


髪に飾られた純白のホワイトブリム。

フリルのついたエプロンスカート。

やはり、どこからどう見ても、これはメイド服だぞ!?



俺は更に驚愕するポイントを発見する。


ススス、スカートが短いっっ!

おまけに、白いニーハイソックスだと!?

ちらりと見える柔らかそうな綺麗な太腿は、やばすぎる!



解析結果(アナリシスリゾルト)

こんな綺麗な顔で、こんな桃色のユルふわヘアで、こんなメイド服着ちゃったら、まるで美人過ぎるコスプレイヤーみたいじゃないか!



「おはようございます。本日の予定ですが、工場幹部会議が朝からありますので、急いで支度してくださいね?」



これは一体、ど、どどどどどど、どういう事だ!???



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