第82話 鎖で縛られた独裁国家だから。
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「お前、女に!? ……あ、あれ???」
がばりと起き上がり見渡すと、そこは見知らぬ部屋の中だった。
質素だが、上品な寝室。
ベッドで仰向けで寝ていたところで、突然にオンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)が終わったらしい。
……悪い夢でも見ていた気分だ。
俺はため息を吐き、訳がわからんと呟く。
白い漆喰の壁に掛けられた大きな風景画、天井に吊るされた小ぶりのシャンデリア、窓には麻風のカーテン、木の床、木の家具……。
家具の隣には、ラックがあり、そこにはあの黒いローブと寝間着らしきものが何着か掛けられている。
ここは寝室、か。
牢屋ではないのは間違いない。
今がいつで、ここが何処なのか。
どれだけの時間が経過したのか。
もう、考えるのが面倒くさい。
“おはようにゃん。やっと目が覚めたにゃん?“
ベッドの脇で、黒い獣が姿を表す。
うお!
猫っ!
いたのか!?
“……やっぱりにゃん。ムイムキムードだったにゃん?“
え?
ムイムキ?
あ、ああ。無意識モードね。
“任命式の途中から、リョウスケの声が聞こえなくなったにゃん。そばにいても完全に無視にゃん“
そ、そうか。
“……なんか、吾輩分かってきたにゃん“
何が?
“リョウスケは、時々人形みたいになるにゃん。笑顔も浮かべるし、普通に動いてるにゃん。でも言葉を出さず、何も考えてないにゃん。それが、ムイシキムードにゃん?“
え?
ああ……。
きっと、そんな状態だろうが……。
“しかも、その間は記憶がないにゃん?“
な!?
な、な、な???
その通りだ!
猫!
よく分かったな!
“当たり前にゃん! ずっと繋がってるにゃん!“
猫が妙にお利口さんで気持ち悪い。
しかし、嬉しくなって頭をナデナデしてやる。
だが、ムイシキムードじゃなくて無意識モード、だぞ。
“にゃ。なんか吾輩が頭悪いみたいにゃ? 吾輩はリョウスケより遥かに歳上にゃん。……にゃんっ! いつまでも頭部を撫でるのはやめるにゃん!“
歳上?
俺は撫でる手は止めずに鼻で笑う。
確かに、猫は遥か過去に生まれた猫族の剣……。
なのにその精神年齢って、残念だな?
“にゃ? 残念にゃ? そうでもないにゃん……。ところでセーシン年齢ってなんにゃん?“
首をかしげる猫。
……本当に残念なやつ。
これでマンチカンなら癒されるのに……。
久しぶりに見る猫は、体格がよりガッシリして、肩の辺りも逞しくなっている。
成長してる、のだ。
やはり、元に戻る事はないのだ。
はぁ……。
あっ!
ハルカはどうしたんだ!
ハルカのそばにいろって言っておいた筈だぞ!
“ハルカは部屋に籠っちゃったにゃ。それに、吾輩はリョウスケからお願いされたにゃ“
お願いされた?
俺から?
“ムイシキモードになったら、全力で守れって言われたにゃ。だからずっとそばにいたにゃ。危ないことはなかったにゃんが……にゃ!???“
俺は思わず猫の首に抱きついていた。
“ど、どうしたにゃ!???“
な、何でもない……。
ただ、うれ……いや、何でもない……。
サンキューだ、猫。
“39ー? 意味がわからないにゃ。と、とにかく抱きつくのをやめるにゃ!“
俺は首をホールドしたままの姿勢で、尋ねる。
なぁ?
ところで、どういう理由で、ハルカは部屋に籠ってるんだ?
仕事が溜まってるのか?
キョッキも部屋の中にいるのか?
“今日は仕事を休んでるにゃ。騎士団の寮の自分の部屋にゃ。キョッキは男だから入れないにゃ“
……分かりにくいが、騎士団には男と女、別々の寮があるってことか。
……仕事を休んで寮の部屋に籠っている?
……何してんだ?
調子が悪いのか?
女子寮というのは非常に安心だが……。
……気になるな。
猫。
透明になって探ってこい。
情報収集だ。
“い、行く必要はないにゃ。ハルカはショックを受けて、落ち込んでいるだけにゃ“
ショック?
“リョウスケが、工場長になった事、みたいにゃ“
は?
なんで俺が工場長になると、ハルカは……。
……。
……。
そうだ。
俺は、ゆっくりと自分の目を見開く。
何を寝ぼけてんだ、俺は。
肝心な事を、無意識で無視しようとしていたのか。
俺は、工場長に、なったのだ。
夢でも、遊びでも、ビックリでもなく。
自分の首に恐る恐る手を伸ばすと、そこには、やはりあった。
『契約の鎖首輪』。
夢ではなかった。
感じる。
重い繋がり。
外そうとしても、微動だしない。
肌に吸い付いつく冷たい感触……一ミリすらも離れない。
工場長の──証。
途端に……心と身体が重くなる。
胸一杯に嫌なものが膨らんでくる。
“大丈夫にゃん?“
……大丈夫じゃない。
信じられない。
なぜ仮社員から正式に社員になったと思ったら、工場長になってしまうのか。
──あの工場長代理の一存としか、思えない。
総理大臣を決めるように、投票も選挙も無さそうだし、この鎖首輪の存在から考えても、民主主義なんてくそ食らえの独裁国家のなんだろう。
であれば、工場長不在の1000年を取り仕切っていたあの桃色工場長代理の独断任命としか……。
『囚われるな』
また、あの男の声が頭に浮かび、俺はそれを振り払うように頭を振る。
オンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)の時もそうだが、何故俺は父を思い出す?
トラウマの根が深すぎる!
俺は大きく息を吸い込み、それをゆっくりと吐き出す。
落ち着いて、ベストな計画を立てなくてはならない。
先ずはどうするか、を決める。
あとは、状況により微調整して、決めたゴールを目指して進めばいい。
俺は高速思考を開始。
……。
……結論。
……『カンパニーから、逃げる!』……しかないな。
“にゃ!? その結論はなんにゃ??? それ、ありなのにゃ!!!“
猫。
無理だ。
俺に工場長は無理。
そしてあの工場長代理に取消させるのも無理だ。
だから……逃げる!
“無理って、無理なのにゃ?”
無理だ。
”……本気にゃ?“
俺は頷き、親指を立てて見せる。
“その親指と、自信満々の表情の意味がわからないにゃ……“
とにかく逃げるために、必要なプランニングと準備をしていくぞ。
俺達なら、出来る!
”お、俺達って、吾輩は……”
俺はまたぎゅっと猫を抱き締める。
猫。
今の俺に必要な事は、とにかく情報だ。
基本は、情報収集&解析!
情報さえそろっていれば、俺は必ず逃げてみせる!
“す、すごい自信にゃ……“
この国から逃げられるのか、それが簡単なのか不可能なのか、難易度は不明。
この首輪も邪魔。
とにかく、俺には見える。
この首輪を頂点とする鎖で縛られた独裁国家の姿が。
悪魔の国は言い過ぎだが、人によってはその表現も有り得るのかもしれない。
こんな国で、最高責任者なんて、絶対に嫌だ!
だから、俺はこの国から逃げる事にする!
“にゃにゃ!???“




