第8話 チリツモ大作戦。
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アリスの蒼い目がすぐそばにあった。
どきり。
俺は、オンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)から戻ると、毎度のように情報収集し、解析をする。
何故なら、オンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)発動中、俺は意識がない。
誰でも、考え事に没頭していたら、時間がものすごく過ぎていたという経験はあるだろう。
俺はその上位変異版。
思考に没頭中、俺は完全に外界の全てをシャットアウトし、その間は無意識で簡単な会話や移動を行う。
目が覚めると、ここはどこ?
何してるの俺は?という状態になる。
おまけに今回から、取り憑いた悪霊とお話が出来るようになった!???
ただ、いまいち、あのシャドウ(謎X)は、現実か、妄想なのか確実ではない。
なにしろ、脳内の話だ。
俺が勝手に作り上げた人格の可能性も否定できない。
解離性同一性障害──いわゆる多重人格なのかもしれない。
それにしては……。
おっと!
今は目の前の情報収集だ!
すぐに、気がつくのは、騒がしい喧騒。
さっきまで俺とアリスだけの食堂は、大勢の客で賑わっていた。
その殆どが甲冑姿のターミナルゲートの門にいた兵士らしき人達だ。
オンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)が発動中の無意識の俺は、あきれるほど、アリスと長話をしていたようだ。
残念ながら、その間の記憶はない。
「美味しいでしょ? そのジュース」
ん?
目の前のアリスに言われて、俺は右手の木のコップを見る。
そして口の中には、ドロリとした何か。
!!!
俺の舌が、得体の知れない味を感知!
思わず反射的に口のものを吹き出そうとするのを、俺は意思の力で止める。
……けれどそれは無駄な努力に終わった。
クソマズー!!!
「私の特別なジュースなんだけど、その、リョウスケにも是非、き、きゃーっ!!!」
アリスの悲鳴。
ジュースと呼ばれていたおぞましい液体は、俺の口から吹き出して、アリスを頭から濡れ濡れにさせた。
固まる俺と、ワナワナと震えるアリス!
「す、すまない!!!」
俺は慌てて立ち上がる。
「な、な、なんで、突然?! ヒドイ!!」
アリスが、青い眼を吊り上げて俺を睨む。
タイミングが悪すぎた。
しかも、ジュースだと???
舌が痺れるほどに不味い!
この世界の味覚は、やはり変なのか!?
「本当にすまん!」
……しかし、ただでさえ面積の小さな衣装が、ピッタリと肌に張り付いていて、目のやり場に困る。
な、何か拭くものがいる、な。
その瞬間、俺は閃いた。
床に置いた鞄に、確か厚手のハンドタオルがあったはずだ。
ワイシャツのポッケにはハンカチもある。
……が、俺は席から離れながら、言った。
「ちょっと、タオルを持って来る!」
アリスの目が驚きで見開かれる。
「カワル? タワリ? 何?! あ、ちょっ、どこにいくの?!」
この世界にはタオルという言葉はないようだ。
だが、俺は振り返らずに、食事を作っている調理場のあるカウンターへと向かう。
マジですまん。
ちょっと待っていてくれ!
かなりの広さの食堂だ。
拭くものを借りてきて、ここに戻るまでモタモタと10分程度は許されるか?
全身を濡らして、涙目になっているアリスを放置するのは、俺って最低野郎的な行為だか、思わぬ時間が確保出来た。
アリスには悪いが、見られるわけにはいかない。
そう、試験突破の準備。
すでに、かなりの時間が過ぎている。
急がなくては。
俺は沢山のテーブルの間を突き進む。
食堂の座席は、ほぼ満席だ。
ざっと500人。
やはり、人間か動物か、見た目も体格もおかしい連中ばかりだ。
警備をしている兵士が多いのか、西洋鎧を身に付けている人が多い。
剣や槍が、壁にかけられていて物騒だ。
この人達は、全員がカンパニーの社員なんだろうが、果たして社員ってなんなのだろう。
これは社員というより、軍隊……。
早歩きしながら、テーブルの上をさっと見る。
様々な食べ物が木製の食器に入れられて並んでいる。
すでに食事を終えて語らう連中もいる。
やはり、ランチタイムがはじまってから、大分経過しているのだ。
残された時間は少ない。
掻き分けるように進む途中、何人かから、魔力風を感じる。
だがそういう連中は、やはり身に付けている衣装や鎧が高級そうだ。
実力主義、というか魔力主義とは本当のようだ。
そちらを見ていると、なぜか向こうも俺を見てくる。
俺をなめ回すような強い視線。
俺のスーツ姿が珍しいのかもしれない。
カウンターは食堂の入口にある。
ここは、食堂と言うだけあって、セルフサービス。
注文したものを、自分でカウンターで受け取り、空になった食器を返す、社員食堂らしいシステムだ。
俺は、その前にオンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)で、シャドウが言っていた事を確認しなくてはと立ち止まる。
鑑定石とそれらに関わる知識を進呈しよう、とか言っていたが?
それに俺の思考は、シャドウ・P・Dを解析していたはずだ。
それらは、多分、俺の頭脳の何処かにあるはずだ。
知識か、記憶か……。
思い出すように、シャドウを思い浮かべながら自分の頭脳をまさぐる。
高速で動き出す思考。
その瞬間、激しい頭痛に俺はよろめく。
くっ!
な、なんだ!
次いで、目の前が、激しく揺れる。
視界の中で火花がまい砂嵐が起きる。
目の奥が、熱い!
頭を抱えて瞼をとじる。
明らかな異常!
あいつか?
シャドウが、頭の中で何かしているのか!?
シャドウは答えない。
いや、分かってはいたが、アイツは俺の思考に捕らわれて、外界から遮断されている。
あいつは霊体なのだ。
俺がもしまたアイツと接触するとしたら、オンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)が発動した時だけだろう。
「大丈夫か?!」
いつの間にか、俺の周囲に2人の鎧をきた男がいて、俺は床に倒れていた。
駆けつけてきたのは、近くのテーブルにいた兵士達。
……だが、俺は、それどころではなかった。
……頭痛は収まった。
……視界もクリアだ。
……だが、目の前に、文字か浮かんでいた。
ふわふわと浮かぶ小さな文字。
いや、意味のある言葉だ。
日本語、だ。
横書きの短冊みたいだが、一文字一文字が独立して動いている。
箇条書きされた何十もの言葉達は、勝手に視界の中を動き回っている。
俺が困惑しながらも目を凝らすと、ふいにそれらが、一斉に縦に並んびリストを作り出す!
その様子は、まるで、文字が生きていて泳いでいるようだ。
メダカ、だ。
まるでメダカの群れだ。
心配して覗きこむ兵士を無視して、その中の一匹に手を伸ばす。
ゆらゆらと震えるような文字。
その言葉は『魔力 (謎F)』。
指が触れた瞬間、頭に閃くように広がる情報。
『魔力。謎F。解析率2%。この世界の全てに存在する未知のエネルギー。魔力を使う事で、不可思議な現象を起こすことが可能、不明』
!!!
文字が広がり、頭の中に知識として広がるような、今まで感じたことのない奇妙な感覚があった。
な、なんだ、コレは!?
これは、シャドウの仕業か?
どうやったか知らないが、頭の中で何かしはじめたというのだろうか?
しかし、俺の視界に、文字を表示……だと?
それとも、これが魔法というやつなのか?
こんなことが、可能なのか?
……まてよ。
眼の網膜で見た情報は、視床を経由し、視覚野に送られ、ここで初めてイメージに変換される。
つまり、シャドウはその経路の何処かで、俺の思考の協力のもと、なんらかの細工をしていると考えるべきか?
俺は続いて、他のメダカのように漂う一匹、『ペーパー』という文字に手を伸ばす。
ペーパーは、マジック・カンパニーの商品。
魔力を貯めておけると聞いていたが、実はかなり気になっていたのだ。
『ペーパー。解析率5%。マジック・カンパニーの独占生産物の総称。幾つかの種類があるが、不明。魔石の代替品と言われ、希少な魔石にかわり世界中で使用されるようになった。魔石との違いは簡易さ。周囲の魔力を迅速に吸収し、使用されるまで蓄積しつづける。高価なペーパーほどその蓄積可能な量が大きく、レベル1~Xで価値を分けられて販売されている。使用法は、ペーパーに呪文あるいは魔方陣を描き、ペーパー内に蓄積された魔力を使用して魔法を発動する。これにより、大衆に生活魔法が普及された。使用後のペーパーは、再利用不可能』
情報の確認に1秒もかからない。
すごい便利機能である。
未知数とした謎の割り振りと解析率まであるとは。
解析率ということは、俺の思考の解析の進行具合という事だろう。
情報の中に、明らかに俺の知らないシャドウの知識がはいっているから、これで奴が関わっている可能性は大だ。
知識を進呈とか、俺を補佐するとか言っていたが、まさか……これがそうなのだろうか。
それよりも。
ペーパーの情報だ。
俺が予想していた通りの物だ。
魔石の代替品か。
成る程、成る程。
他にも気になるワードとして『シャドウ・P・D』がある。
解析率も気になる。
だが、ずっとこの機能で遊んでいるわけにはいかない。
倒れた俺が、手を伸ばして怪しい動きをしているせいか、社員が助け起こそうとしてくれているのだ。
目の焦点をワード達から、腕を伸ばしてくれている職員に移すと、ワードたちは蜘蛛の子を散らすように視界から消えていった。
「おいおい、大丈夫かい? 」
腕を捕まれる。
一人で立てる、と言おうとしたが、激痛が腕に走る。
痛い! 痛い痛い!
強引とも言える形で、引きずり起こされながら、俺は必死で悲鳴を押し殺す。
アリスもそうだけど、何故みんな馬鹿力なのだ?
「あ、有難うございます」
腕は痛かったが、起こしてもらったからには、仕方なく礼を言う。
だが、今はこの兵士2人に関わっている暇はない。
「すみません、大丈夫です、ちょっと急いでいるんで」
問答無用で、2人の間をすり抜ける俺。
「本当かい、気を付けてな、リョウスケ殿」
案外あっさりと、むしろにこやかに2人の親切兵士は離れていく。
……ん?
何か引っ掛かりを覚える。
妙にフレンドリーさを感じたのだ。
まあ、いい。
急がなければ。
俺はカウンターに、向かう。
十メートル程の間口のカウンターに、食事を貰おうとする人の姿は皆無。
ラッキーだ。
近寄りながら、俺はまた視界の中で、ワードを探す。
その途端に、まるで逃げ隠れていたかのように、視界の端から現れるワード達。
そして、中央に整列していく様は、ホントにメダカみたいだ。
けっこう可愛いじゃないか!
俺はこいつらに、名前をつけたくなる。
メダカの群れは、英語でschool of medakaだ。
いや、本当に!
という事で、『メダカの学校』とでも名付けるかと思ったが、童謡のイメージが強すぎる。
せっかくの知識確認システムだ。
カッコいい方がいい。
よし!
school of medaka の頭文字を使い SOM と呼ぶ事とする。
俺はSOMを起動させたまま、不自然でないように指で操作しながら歩き続ける。
カウンターに、到着した時には、必要な情報はSOMにより確認し終わる。
早い!
メモリが、俺の思考なのだから当然か。
シャドウについての情報は、一旦お預け。
現時点の優先順位は、試験があるためにかなり下である。
俺はSOMを解除し、大きく息を吐く。
ふー。
それでは、作戦開始だ!
作戦名を名付けるならば、『チリツモ大作戦』。
実は既にアリスと離れた時には、大まかなインチキ手段の大枠は決めていた。
ただ、SOMには感謝している。
アリスでは不足していた情報収集が、具体的にはペーパーと鑑定石の情報補足が欲しかったのだ。
限られた時間だったが、まずまずの情報収集と解析は出来た。
『チリツモ大作戦』開始!




