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ハイスピード・アナリシス ~異世界で解析しまくる男。  作者: 愛野万之介
第四部 名医漆黒と水の国の女王
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第70話 レイクサイド LOVERS。



湖から浮上すると、俺達は一旦、城の正門前まで泳いで移動し、ようやく岸に上がる。


この城は湖に突き出た大岩の上に建てられていて、それは見事なものなんだが、正門前以外は絶壁。


場所が場所だけに湖から這い上がる俺達は目立つと思いきや、そうでもなかった。


沢山の人達が、湖からぴょんぴょん出てきたり、反対に飛び込んだりしている。


驚くことに、橋がないのだ。

湖に浮かぶように建つ城に、対岸の街から橋が掛けられていない。

確か街の中には至るところに橋はあったはずだが、肝心の城への橋は設置されていない。

女神ソフィアの力で城内に入った俺は、気が付かなかったのだ。



城内部の教会に行こうとする人達は、泳いでここまで来ている。

渡し船ひとつない。


それは、奇妙な光景。

水着もなく、普段着のまま水泳大会でもしているんですか、と言いたくなるような異様さ。


俺は、教会でびしょ濡れで必死で祈りを捧げていた人達を思い出す。



橋がなければ、城は攻めにくくなる。

だが、やりすぎだ。

防衛の為とは言え、城壁もあるし、お堀もあるし、鉄壁にすぎている。



俺はそんな事を思いながら、猫とハルカに、ヨッコラと丁寧に地面に置かれる。

石化したまま、ゴトリと音を立てて、やっと踏みしめる大地。



助かった……。



“助けられたのは、私だ。ありがとう。……リョウスケ殿……“



ハルカの以心伝心に、猫が怒ったように食いつく。



“吾輩もハルカを助けたにゃん? リョウスケは身動きできなかったにゃん? そもそも、なんで石化してるにゃん?“



うっ!



"リョウスケ殿? 女王の魔法か?"



ううっ!



"リョウスケは自分でなったにゃん?"



くっ。

だって、少しでも堅くなっておこうって……。

食べられると思ったわけで。

いやっ、失敗だったが……。



“頭が良いのだけがリョウスケの取り柄にゃん? でもホントは馬鹿にゃん?“



ぐっ!

馬鹿に馬鹿と言われるのが1番ムカつく!


そもそも、お前が食べてばっかりで直ぐに来てくれないのが悪い!



“食べ物を粗末にするのは良くないにゃん! それに、吾輩がいたからハルカを守れたにゃん!“



ぐっ!

情報収集(データコレクション)もせずに、無防備に石になって女王の前に落ちていくという己の愚行……。

これは覆しきれない……。



“おまけにその格好はなんにゃん? なんで兵士の鎧をつけてるにゃん? リョウスケじゃないみたいにゃん?“



あ?

……ああ。女王の部屋に入ろうと、兵士に変装したり色々苦労したんだよ。



“鎧のまま湖に飛び込んだにゃん? 意味がわからないにゃん!?“



ちっ。

動きにくいが、寝間着より防御力が……。



“ホントに呆れるにゃん……。ビックリにゃん……。ハルカもそう思うにゃん?“



“……大事な人……大事な人……大事な人……“



“にゃ? ハルカどうしたにゃん?“



“え!? いや、何でもない……。その、助けてくれてありがとう。……大事な人……大事な人……“



“にゃ!?“



ハルカの様子が変だ。

濡れた金の髪を垂らしたまま、モジモジと手を絡ませたり、ウロウロしたり、俺達を殆ど無視している。



あ、そうだ、猫!

女王の部屋に、山盛りの魔石があるから、湖に落としてあげてくれ。


きっと、あの女王、腹が減ってる筈だ。

まだ助けるのに時間がかかるしな。



“にゃん? その魔石、ちょっと吾輩も食べていいにゃん?“



勝手にしろ!

食いしん坊め!


高価なものだろうが、少しぐらいはいいだろう。

これ以上、猫に色々言われるのは面倒だし。


しかし俺も腹が減った。

石化してるのに、意識はあるし、腹は減っているし、そう言えばさっきはちょっとだけどチビった……。

脳や内臓や血液は、生体活動をするために動くようになっているのだろうか?



“直ぐ行くにゃん!“



猫の魔力が軽やかに城を登っていく。


ふぅ!

うるさいやつ!


……で、ハルカは何をしている?

……大丈夫か?

……毒は影響ないって言ってが、実はなんからの影響があるのではないか?



とハルカを見ると、急にツカツカと水滴を垂らし俺に向かって歩み寄ってくる。



“リョウスケ殿……“



うぉ!

ぶつかっ!

近っ……!



ふわりとハルカに俺は抱き締められる。



え?



“これで、二回目だ……“



え?



石だけど、柔らかい温もりを感じた……ような気がした。



“私も、リョウスケ殿が、大事だ……“



え?



ハルカは腕を放し、石化した俺を覗き込む。



……ハルカの顔が近い。

近すぎる。

以心伝心してるから、きょっ、距離は関係ないんだけど……。



「そう言えば、砂漠で助けられた時も、触手だったな……」



ハルカは、以心伝心ではなく、そう言葉で呟きクスリと笑う。

どうも、魔力で以心伝心を切断したみたいだ。

そんな事も出来るのか?



「あの時は、リョウスケ殿が、死んでしまったと、思ったのだぞ」



ああ、あの時か。

俺も、もう死んだと思ったよ!



ハッとしたように、ハルカの目が開く。


ん?

聞こえたのか?



「あの時、リョウスケ殿は、死ぬかもしれないのに、……わ、私を助けたのか?」



え?

いや、まぁ、その……。



ハルカの顔が、ふいに、近づく。



な?

ななな?



石化しているせいで、よく分からないが……、この距離???

ま、まさか? 今? 俺?



……。


ハルカの顔が、離れる。


ハルカの頬が赤く染まり、気のせいか目がうるうるしている。


今、何したんだ???



「ハルカァァァ!」



ふいに、物凄い魔力風が吹き荒れる。


そして、地響きと共に現れたのは、……星の王子さま!!!?


白衣に、鍛えぬいた黒い肉体。

凛々しい顔を歪めて、その目は一心にハルカに向いている。



「キョッキ!?」



こ、こいつ、ハルカと知り合いか!


に、逃げたい!

だが、動けない!


ん?

キョッキ?

呼び捨て?



「ハルカ? 兵士の石像のそばで何してるんだ? 探したんだぞ?」



え? とハルカが一瞬俺を見る。


瞬時に俺は悟る。

キョッキは、俺に気がついていない!

であれば……。


ハルカ、俺の事は内緒に!


コイツがハルカとどういう関係か気になるが、とりあえず俺はいないことにしといてくれ!



ハルカが、俺に向かって首をかしげた瞬間だった。

キョッキが、ハルカを後ろから抱き締めたのは。



──時が止まったかと、思った。



俺の目の前、鼻先で、二人の男女が抱き締め合う。



「な、キョッキ! や、止めろ」



「ハルカ! あの触手に捕まって、俺がどれだけ心配してたと思うんだ! 国中探し回ったぞ!」



キョッキは、俺に気がつかない。

ただの兵士の姿をした石像だと、思っている。



キョッキは濡れたハルカの長い髪を撫でる。


それは、嫌になるほど……絵になる姿だった。



金髪の、容姿端麗の、スタイル抜群の二人が、絡み合うようにイチャイチャしているのだ。


二人の長い首筋、ハルカのしっとりした金髪をかきあげるキョッキの大きな美しい手……。



近くでこのイケメンの顔をまじまじと見ると、その端整で甘い目鼻立ちより、王者の貫禄とも言える凄みを感じた。


きっと、この男は幾つもの修羅場を乗り越えて、レベルナインとして君臨するこの世界の強者の一角。

俺とは……違う……。



「キョッキ、止めろ! ここで、そんな事をっ!」



ハルカは、俺の視線に恥ずかしそうにしていたが、キョッキに引きずられるように城の中へと姿を消していく。



……。


後に残された、俺。



……あの二人は……そういう関係……か。


倒れそうな目眩が俺を襲う。

ぐらぐら……する……が……石像だから、幻覚か?



“キョッキは、ハルカに夢中にゃん“



いつの間にか、猫が戻ってきていた。



そう、か。



“ハルカにベッタリにゃん。キョッキはハルカの奴隷にゃん!“



そう、か。

恋の奴隷ってやつか……。



“こい? まぁ、そうにゃん! キョッキは強いにゃん! もうハルカはキョッキに守ってもらえるにゃん?“



……。




“どうしたにゃん? 湖に魔石をちゃんと落としてきたにゃん?“



……別に。



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