第63話 将棋名人。
落ちつけ俺。
頭の中で響く、奇妙な異常事態に、対応しなくてはいけない。
以心伝心はヤバい。
心の声が互いに駄々漏れになるという、本来はあり得ない現象。
猫はとにかく、ハルカはヤバい!
俺の嘘ばかりの腐った心を覗かれるなんて、絶対に考えられない!
少ない情報で、解析!
……どうも、ハルカには俺の心の声は完全に聞き取れない?
思考速度についてこれない?
俺の思考の超・高速思考には叶わないが、俺自身も常人の10倍の高速思考。
これに、賭けるしかない!
“リョウスケ殿? 声が速すぎて、キュルキュルキュルキュルと聞こえるんだが……“
よぅしっ!!!
俺はそれを聞いてガッツポーズ!
ならば……やりようはある!(10倍速)。
“リョウスケは異常にゃん? 考えるのが早すぎにゃん? ハルカも今に慣れるにゃん?“
くっ!
猫!
アドバイスしてんじゃねぇよ!
そもそも、お前がハルカと俺を、同時に以心伝心ってのが信じられないんだが!?
かと言ってそれを無理に止めさせるのも、変に思われる!
タイミングを待つしかない!(10倍速)
“……不味かったにゃん?“
このバカ猫!!!!!!(10倍速)
い、いや!
そんなことないよ!
ハ、ハルカ、久しぶりだな?(低速)
“にゃにゃん???“
“今朝会ったのに、急になんだ? あの時は、全く無口だったが……。もう大丈夫なのか?“
……もしかして、無意識モード俺は読解能力はあるが、話せないのか?
それはそれで助かる、な(10倍速)。
頭痛は落ち着いたが、貧血感が半端ない。
昼食会……パーティーか。
とにかく、何か食べたいな。(低速)
“そうか、心配だ……。リョウスケ殿、支度をして三階のホールまで来られるか?“
ん……。
俺は痛む身体を引きずって、枕元に置かれた俺の荷物に近寄る。
有り難いことに、新しい寝間着まで準備してくれている。
ボロボロの寝間着から、青い新品に着替える。
うん、ただの寝間着だ。
それでも新しい布は、肌に気持ちがいい。
そして、魔剣(柄だけ)や、トイレットペーパー(魔力入り)、魔弾を身に付けて、昼食会参加の準備をしていく。
なんとか、行けそうだ。(低速)
“もう始まる時間だから、私も直ぐに行く。赤い触手のせいで、まだ城内は大騒ぎでな“
赤い触手?
大騒ぎ?
どういう事だ?(低速)
“城が攻撃されたのだ。更に言えばフタン国の歴史上壊れたことのない城壁は何者かに破壊され、この国はかつてない危機に見舞われている。城の近衛兵達に聞いたが、赤い触手を持つ魔物に心当たりはないらしい。ただ城も街も隅々まで捜索されるから、必ず捕まえてくれるだろう“
なるほどね。(低速)
もし城壁を壊したのが俺だと自首したら、許してくれるだろうか?(10倍速)
“にゃにゃ!?“
“うむ。傷を負ったリョウスケ殿に護衛をつけたいが、今のところ不明な事が多い。だが猫殿がいれば安心だろう。当面は我々も何が起きるか注意しておかなければとは思っている……“
確かにそうだ。
俺だけを狙っているかなんて、分からない。(低速)
が、多分、オレを狙ってるんだろうという確信がある。
しかし流石ハルカだ。
猫の釈然としない説明に比べたら!
だが、猫には側にいてもらわないとな!(10倍速)。
“わ、訳が分からないにゃんが、リョウスケは狙われてたにゃん! リョウスケを守るにゃん!“
それを聞いてハルカが、嬉しそうなテレパシーを送ってくる。
“リョウスケ殿と猫殿は、やはり仲が良いのだな“
“そ、そんなことないにゃん!“
猫……。
照れてんじゃねえよ。(10倍速)
……さて、この頭に流れ込む心の声の混沌。
……ハルカと猫の心の声を聞き分け、そして俺の心のコントロールにも、慣れてきた。
つまり……準備は整った。(10倍速)
これは将棋と同じだ。
盤面は俺が劣勢な局面といえるだろう。(10倍速)
ピーチ・シード紛失!
無意識モード俺の時の記憶がない!
猫がなぜか透明でハルカと仲良し!
そもそも、何故ハルカがいる!?
以心伝心は下手をしたら即アウト!(10倍速)
……だが、一手一手集中だ。
漏れなく情報を集めて、ミスなく自らの心の声を操る。
そして、盤面を有利な状態にひっくり返さなくてはならない!(10倍速)
……落ちつけ。
……俺の思考速度は有利だ。
……待ち時間がハルカの十倍である。
……つまり、十分に勝機はある! フッフッフ!(10倍速)
“リョ、リョウスケ殿? キュルキュルキュルキュルしすぎじゃないか?“
“また良くない事を考えてるにゃん! リョウスケは悪いことを考えるのが大好きにゃん“
ちっ!
猫がいたか……。
これは将棋名人がよくやる、素人数人を同時に相手にやる多面打ち?(低速)
“リョウスケ殿? ショーギメイジン??? なんの話だ???“
うぉっ!?
間違えた!(10倍速)
なんでもないって、ハルカ。
なんかまだ、寝ぼけてるみたいだ。(低速)
“にゃ、にゃ!?“
“確かにさっきは口も開かずに、リョウスケ殿らしくなかったな。後で詳しくピーチ・シードの話も聞きたいのだ“
ピーチ・シード!?(低速)
と、突然なんの事だ!?
“私はピーチ・シードと訓練チーフ三人をカンパニーへ連れ戻すという任務でここに来たのだぞ? そう説明したら、私に渡してくれたではないか“
え?
渡した?
何を?(低速)
“ピーチ・シードだ“
な、なんだと!???(10倍速)
“ただ、あの触手の後始末で部屋を出てしまったから、リョウスケ殿から、後で詳細を聞かしてもらいたいんだが“
俺は驚愕する。
ハ、ハルカが持ってるのか!?(低速)
“ん? ああ。今も私が大事に持っているから安心してくれ。でも、ビックリしたぞ?“
あ、安心できるかよ!?
無意識モード俺!
何考えてるんだ!?
いや、考えてないのか!?
無意識すぎるだろ!?(10倍速)
シャドウの話によると、悪魔の実とかいってたけが……???
そう言えば取り扱いについても聞いてない……。(10倍速)
何故、あんなものを俺に盗ませたんだ???
絶対に危険だろ!?
直ぐにハルカから取り返さなくては!(10倍速)
“ピーチ・シードを盗んだ魔石教徒は、どうなったのだ? リョウスケ殿が捕まえたのか?“
げ!!!(10倍速)
そうだった!
俺、盗んだ魔石教徒を追っかけているところだった!
それなのにピーチ・シード持っているのは、おかしいんじゎないか?
あ、いや、もう取り返したことになっている???(10倍速)
……ああ。
追い付いて取り返しは出来たんだが、すまない。逃げ足が早いやつで……。(低速)
“そうか。だが、取り返しただけでも、良かった! さすがリョウスケ殿だ! ……本当にリョウスケ殿が、無事で良かった??? ああっ、考えたことが???“
……取りあえずはハルカが、ここにいる理由は分かった。任務で追いかけて来たわけね(10倍速)
……でもどうやって来たんだ? どうしてここが分かった?(10倍速)
“吾輩が連れてきたにゃん!“
……。(低速)
……。(低速)
なるほどね。オーケーオーケー。猫なら、俺の場所が分かるもんな(10倍速)
……。
……。
猫と何としても二人きりで話し合う必要がある、な。(10倍速)
“にゃ!? こ、怖いにゃん!“
……おい。念のためだが、まさか、言っちゃいけない事は言っていないだろうな?(10倍速)
“にゃ? 何の事にゃん?“
……例えば、実は俺が弱いとか。(10倍速)
……お前が、実は魔剣で俺と契約してるとか。(10倍速)
“にゃ? 駄目だったにゃん? 色々話したにゃん?“
はぁぁぁ!???????????
俺の心臓が跳ね上がる。
視界が、ぐるりと回る。
そして俺はまた、ベッドに倒れていた。
天井が……揺れている。
はははは……。(低速)
言ったか……。(低速)
言ってしまったか……。(低速)
いや、猫は嘘はつけない、から、な。(低速)
じゃぁ、ばれちゃったのか、俺の事が、全部(10倍速)。
目に涙が浮かんでいた。
もうどうでもいい。
俺は心を緩めてしまう。
速度なんてどうでもいい。
解析しなくても、わかるよ。全部、終わりだ。
ああ。
俺は気がつく。
さっき、俺が目覚めた時に、それだけなのって、ハルカが、言っていたのは……。
俺への……。
“そ、それは、その、私の一方的な気持ちでっ!“
……え?
急にハルカの心の声に、俺は驚く。
……ハルカ?
“な、な、何!? これ、やっぱ聞こえちゃってるの???“
どうしたんだ、ハルカ。
“ちゃ、ちゃんと伝えたかったの! そ、それだけなの!“
え? ……それだけ、なの?
“ずっと会えなくて、さび……いやぁぁ! だって、私は、きゃぁ! 何でもない何でもないっ!“
……会いたくてって、誰に?
“えええ!? わ、わ、私は別にその、リョウスケ殿に会いたいなんて、思ってるけど!???“
急にハルカの声が、乱れて変になっていく。
えっと。………俺に会いたいのか?
“いや、そんな私は別に会いたかったとか、やっと会えて嬉しかったとか? え? えええ!? 会いたいのぉぉぉ!!! 聞かないでぇぇぇっ!“
ハ、ハルカ???
ど、どうした???
“何でもない何でもない何でもないのよ! 猫殿! これもうやめてぇ!!!“




