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ハイスピード・アナリシス ~異世界で解析しまくる男。  作者: 愛野万之介
第四部 名医漆黒と水の国の女王
62/162

第62話 それだけなの。



(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)




「……………。…………」




──声。何か言ってる。


──何も聞きたくない。


──誰かのために動こうとしたら、それは全部勘違いだった。


──人の為? とんだ偽善者だ。


──他人に振り回されるなんて、愚か者のする事だ。


──もう、誰も信じない。俺は、無力で、うっかり屋さんで、すぐに騙されるバカだから。


──自分に、吐き気がする。


──この訳の分からない世界も。

──俺を振り回す奴等も。

──俺はホントに最弱で無力だから。

──二度と……。




「………、…………………。…………」




──懐かしい声。何か言っている。



──目の前に、誰かがいるようだ。



「…………」



──?



長い綺麗な金の髪が、さらさらと揺れている。

鈍く光る白銀の鎧。



見覚えがある。


真剣な眼差しが、俺を見ていた。



え?

まさか、ハル……カ?

そんな馬鹿な。


夢?




「……それだけなの」




声がはっきりと聞こえた。



女性の姿が消える。



足音が遠ざかる。




それだけ?

何が?




ふいに脳に、身体に、血が駆け巡り、そして激痛が走る。


俺は、全身を痙攣させる。



意識は覚醒する。


そして、記憶が甦る。



そうだ。アリスにやられた傷。


寝間着は破れ、血で汚れているが、覗いて見える肌は傷の跡すらない。


な、治ってる。

手で恐る恐る、やられた脇をまさぐってもそこにはいつも通りの肌の感触がある。



掠れる目を見開いて、周囲を見渡す。


俺は、大きなベッドに腰かけているようだ。



見覚えのない部屋。


金の装飾があしらわれた広い天井。

白と青で縁取られた腰壁。

高級感漂う家具類。


豪華な部屋に、俺は一人きり。



ここは???



次第に意識も視界も明確になり、立ち上がろうした俺は目眩で体勢を崩す。


次いで激しい鼓動。

その音に共鳴するように、割れるような頭痛に襲われる。


身体が治ってはいても、致命傷を受けた反動からは逃げられない。

全身が悲鳴を上げている。

俺の身体は華奢なのだ。



動けない。

この痛みは、まだ安静にしていた方が……。


いや、だが、このままは、駄目だ。

俺の染み付いた癖が、うずき出す。



情報収集(データコレクション)解析(アナリシス)



早く、情報収集(データコレクション)しなければ。


解析(アナリシス)して、現状を把握して最善の対応をしなくては!



あの後、何があった。

何が起きた。

何故、俺はここで横になっていた。

誰が、俺の傷を直した。



次々と怒濤のごとくに不安が押し寄せてくる。


もう嫌だ。

何もかも。

早く、こんな所から……。



ふと、すぐ側でうごめく魔力を感知する。

一瞬驚くが、それは見知った懐かしい魔力。



猫!



俺は、痛みを忘れてベッドの上を這うように、猫のいる方へ動く。



だが、そこに猫はいない。

だが、猫の魔力がある。



猫?

いるのか!?



“さっきからずっといるにゃん? “



久しぶりに頭に響く猫の声に、不思議と心が震える。


猫!

何処だ!

猫、いないじゃないか!



“ここにいるにゃん! 突然どうしたにゃん?“



まさか、お前、死んだのか!?

シャドウのように、精霊とか幽霊とか妖精とかになってしまったのか!?



“……透明になっただけにゃん。シャドー? それより、ずっと無視だったにゃん? 何か混乱してるにゃん?“



無視?

混乱?



“久しぶりに会ったのに……何も言ってくれなかったにゃん……“



あ、ああ。

さっきまで、無意識モード俺だったからか?

さっきの俺は、俺であって、俺でない。



”ムイシキムード? なんにゃん?”



ああ、もどかしい!


俺は、猫がいる魔力に向かって、ベッドからダイブする。


そこには見えないが、確かに猫がいた。


マンチカンから二回りは大きくなった引き締まった身体と体毛。

久しぶりの猫特有の魔力。

可愛くないけど、見えないけど、全然いい!



“にゃ!? 突然なんにゃん!? だから、ムイシキモードってなんにゃん???“



説明してもお前には分からない!

それより猫! ありがとう! 俺には、お前がいた!



“な、なんにゃん? 気持ち悪いにゃん?“



俺には何もないって思っていたが、とにかくお前がいたって事だ!

なんか、凄い魔力増えたな!



俺は、見えない猫を何度も何度もギュムギュムする。

猫が、泣きそうな声でテレパシーを呟く。



”吾輩に会えて嬉しいにゃん?”



ああ!



“……もう、吾輩を捨てないにゃん?“



当然だ!!!



俺は、ただただ猫を抱き締める。



“……でも、気持ち悪いにゃん“



よしよし。

で、これはなんだ?



俺は窓を指差す。



窓ガラスも割れていて、カーテンも破けているんだが?

異常だぞ?



そこは酷い有り様だ。

何かが壁際で、激しく爆発でもしたような残骸。

窓ガラス、壁の破片、布切れと化したカーテン、等々が床に散らばっている。


外が大きく丸見えだが、綺麗な湖面が、日を反射していて、俺は軽く驚く。


もう、夜が明けているのか?



“覚えてないにゃん? 突然、赤い触手が、外からリョウスケに襲いかかってきたにゃん。ライライランブで、追い払ったにゃん?“



赤い触手?

らいらいらいぶ?

なんだそれ?



“アリスから、リョウスケが傷ついて倒れたって聞いて、来てみたら、窓から突然ニュルニュル現れたにゃん! びっくりしたにゃん“



よく分からないが、この感じ、久しぶりだ。

猫の、イライラする要領の悪い説明!

スゲー懐かしくてうれしいぞ!



“し、失礼にゃん! 急に喋りだしたと思ったら、いつものリョウスケにゃん! いい加減に離すにゃん?“



俺はそれをスルーして、猫の温もりをナデナデと感じながら考えを巡らす。



アリスから俺が倒れたのを聞いた……って事は、アリスは大丈夫そうだな。

兵士に囲まれていたが、俺が死にかけた時、王さまみたいな奴が良くやった、と言ってたのが聞こえたが。


そもそも、俺が牢屋でなく、こんな立派な部屋に寝かしてもらえたという事は、なんの誤解か知らないが、それも溶けたんだろう。



頭痛は消えないが、少しずつ頭が動き出す。



それから、赤い触手……。



俺に襲いかかってきた?

正体も気になるが、やはり城壁を壊した無意識モード俺の時も、その赤い触手たったのだろうか?


シャドウが言うように、危険が迫ったから、迎撃の為に暴れた?



しかし、そうなると、俺が狙われている事が前提となる。

そんなの、あり得るのか?

意味がないだろう。

もしこれが二回目の襲撃という事なら目的は何なのだ?

偶然とは思えないな。



とにかく、情報(データ)が不足している。


空になった謎(A)に『襲いかかる赤い触手』、を登録し、一旦置いておく。



ここまでの思考速度タイム0.3秒。

まだまだ全快ではないが、見えないパズルピースが、ようやく浮かび上がってきた。



爬虫類ばかりの首都アイラーン。

マザー・ビクトリア・フターチ。

アリスはお姫様。

俺を狙う赤い触手。



SOMを起動してみるか。

猫よりも情報量は……。


その瞬間、俺は込み上げてくる嫌悪感に身体を硬直させる。



シャ、シャ、シャ、シャ、シャドウ・P・D!!!

あの嘘つきぃぃぃ野郎めぇぇぇ!!!


ピーチ・シードのガセ情報で、俺を操りやがって!!!



“丁度ハルカもいたから、ライライランブでなんとかなったにゃん!“



そのらいらいらいぶーは、後で聞く!

今は、この危険なピーチ・シードを!



この国は、もうイヤだ。

爬虫類ばかり。

牢屋に入れられ、謎の職種に襲われ……。

アリスに……。


いや、俺の勘違いだったのだろうが、とにかく──。


──もう、ここに来た目的も失った。



俺は側にある剣の鞘から……。



あ???


ない???


ピーチ・シードが、ないぞ!!!



ん?

猫!

さっき、ライライを説明中に、ハルカの名前を出していなかったか?



“言ったにゃん?“



ハルカ、が、どうしたって?



”ハルカとライライしたにゃん”



……意味が分からない。


俺の回転していた頭が軋み出す。



いや、待てよ?



ハルカ?


さっき、俺は、ハルカと話してなかったか???

あれは、夢か???



“話してたにゃん? リョウスケ、覚えてないにゃん?“



それだけなの……って……言ってた、かも。



”ムイシキムードにゃん?”



あれは、夢じゃなかったのか!?


じゃぁハルカが、この国に来ているのか!???



その時、俺の予想外の声が、頭に響いた。




“リョウスケ殿? 私を呼んだか?“



………え?



おかしいな。

今、ハルカの声が、聞こえたぞ?



“うむ。猫殿の以心伝心だ“



“ハルカとも以心伝心で繋がってるにゃん! ハルカと吾輩は仲良くなったにゃん?“




思考が固まる。

呼吸を、数秒間、忘れた。



“リョウスケ殿? そろそろ昼食会だ。簡単だがパーティーを開きたいそうだ。リョウスケ殿の人命救助、この国で大変感謝されているようだぞ?“



あう あう



“リョウスケ、変な顔にゃん! ミドガルモンキーみたいにゃん!“



“ミドガルモンキーか! うふふ。その様子では、仲直りできたようだな! そうだ、リョウスケ殿、ムイシキモードオレってなんなのだ?

リョウスケ殿の声が、早すぎて……“



あううう!???



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