第51話 オンリーワンワールド。その3
魔法契約……。
どんな仕組みなのか分からないが、破ろうとすると、こうなるわけ……か。
苦しさが失せると共に、心臓を握る手が消えたのが分かる。
だが、悪寒は消えないし、あり得ない状態のせいで四肢はガクガク。
「契約相手が、大きな契約違反と判断すれば最悪は死ぬ事もある。強力な契約なら即死する事もあるのだ。魔法契約の強制力を、知ってもらいたくてね」
俺は、なんとか立ち上がるとシャドウを睨み付ける。
どんな理由で、素性を探るなとか契約書に盛り込むんだ!?
「マスターらしくない。少し考えれば分かるだろう? 」
シャドウは大したことではないと俺の質問を跳ね返す。
……分からない。
だが、理解出来なくもない。
謎Xにして、三匹の錦鯉の一匹であるシャドウ・P・Dは、そう易々と教えられるような簡単な謎ではないという事か。
しかし、お爺ちゃんの話に聞くシャドウと、俺が知るシャドウと、差異が多すぎる。
正直、性別はどうでもいい。
解析したくても、情報が不足している。
……1000年前、何があった?
……お前を復讐へと駆り立てるのはなんだ?
シャドウは、冷たい目で、俺を見つめ返すだけ。
これ以上は契約違反ってわけか!
俺は、もう一度心臓が正常であることを確かめてから、深呼吸して椅子に戻る。
で、他にはどんな契約内容がある?
それが分からないと、俺はまた同じ苦しみを味わうんだが!?
シャドウの仮面が笑う。
「安心したまえ、マスター。腕時計でいつでも確認できる内容だ」
シャドウは急に身悶えして嬉しそうに言う。
「だが、私との会話が、スリル満点になったわけだ! くくくっ!」
こいつ、本当にやな奴だな!
だが、猫もいないし、契約内容も読めない……。
不味いな……。
……なぁ、シャドウ。
その契約なんだが、俺が、その誰かを殺すなんて事を出来ると期待しないでくれな?
俺は、誰であれ殺せないと思う!
すまないが、絶対にだ!
「マスター。それについても、私は言った。マスターは、私に関係なく、自ら剣を取るだろう、と」
いやいや!
無理無理!
絶対に無理だ!
俺は誰も殺せるわけがない!
「あと、付け加えるなら、殺すというよりも、惨殺? 虐殺? そんな感じで頼みたいんだが?」
だから!
無理だから!!!
「マスターが、襲われたとしても?」
え?
「Missハルカが、襲われたとしても?」
……。
「Missアリスが襲われたとしても?」
……シャドウ。
例えが、超最悪で、マジでお前にキレそうなんだが……。
「私も最愛を失なった……」
……。
俺は一瞬、言葉を失う。
やはり、復讐……か。
……言いたい事は分かった。
だが、俺はお前と無関係だ。
契約したから、逃げられないんだろうが、お前の復讐に付き合うとしても、多分、その最後の期待に応えられない。
「無関係、か。今は主従関係、はあるのだ。その発言は、寂しくなるな……。ならば、最初に私も言っておこう。私もマスターが、そんな事が出来る方とは思ってはいない。今は、ただ私と目標を共有してもらえればうれしい」
……。
……それで、いいのか?
……でもそれでは、契約の意味が?
「そもそも、マスターは倒すべき相手を知らないだろう。奴は今も、カンパニーにいるのだ。そして、人を殺め続けている」
怖っ!?
マジで!?
「私を殺した者は、いずれ分かる。運命だ、マスター。私もマスターも、運命の流れに既にずっと流されっぱなしなのだよ」
運命……。
謎Z運命を思い出す。
シャドウすらも、その言葉を使うか。
「それより、マスター、私から忠告が欲しくないかね?」
お、俺からもまだまだ聞きたい事は山積みなんだが!
「時間は有限だ。今後SOMも拡張可能になるだろうから、今はマスターにとって大事な事を話したい!」
……毎度だが、コイツ、いつも俺を後手にする。全く俺が主っぽくない。
猫といい、俺の思考といい……。
「女神ソフィアの事だ」
は?
「マスターが、ポンコツ女神と思っていてる、あの女神……だ」
ああ?
それ、今話すことか?
もっと聞きたい事があるんだが?
「……何故、ポンコツとマスターが思うのか教えてもらっても?」
俺は裸の自称女神様を思い返す。
理由ね。
幾つかあるが。
魔力を止めるだけなのだ。
時を止めるって便利な気がするが、全然駄目だ。
例えば銃で撃たれたら、時を止めて指で弾を掴むとかしたいだろ?
だが、出来ない。
そんなタイミング良く止められるか?
マンガだけだ。
そんなタイミングで呼べるのなら、最初から自分一人で避ける。
「成る程……。それでも、時を止めるとは素晴らしいのでは?」
もしかして、シャドウも、あの女神が現れた時、止まってたのか?
あれは本当にだめなのだ。
時が止まってると、魔力がカチコチに固まる。
魔力が強いところほど。
俺が自由に動けるといっても、そこら中が固まっていて、動きにくいどころではないのだ。
魔力持ちの人間なんて、ダイヤモンドだ。
硬くて、何しても弾かれてしまうだろう。
俺もペーパーを使えない。
ダイヤモンドに素手でパンチしても、壊れるのは俺の方だ。
攻撃も回避にも使えない。
だから、あれはコスパ最悪のネタ魔法って感じかな。
「……ネタ魔法? 意味が分からないが、馬鹿にしているのは分かった。……そもそもマスターは神をなんだと?」
神?
ソフィアが、ホントに女神様なんて信じてるはずないだろ?
名前だって杖の名前使って……。
あの女は、実際、何者なんだ?
「マスターは、神という存在を、理解しているのか!?」
シャドウは、立ち上がって、目を光らす。
「世界で崇められている神はたったの6神! 火神、水神、土神、光神、雷神、闇神!
ところが、マスターは、誰も知り得なかった新しい神を見つけ、そしてそばにしているのだぞ!?」
俺は鼻で笑う。
俺は神は信じない。
神様?
そんなのいるのか?
いない!
「バッカァ! 畏れ多い! マスターでも、それはだめだぁ!!!」
物凄い勢いで詰め寄ると、俺の肩を掴んでくるシャドウ!
俺は、マジでビビる。
「この世界に、神も悪魔も存在する! マスターの世界にもいるだろう!?」
お、おいおい!
どうしたんだよ!?
い、いるといっても、概念とか、でしょ?
「概念? マスター、この世界では、誰もが神に祈りを捧げ、そして生活をしているのだぞ! 魔法も神あってのもの! 分かっているのか?」
俺は首をふるふるさせる。
魔法が神あってのもの?
「くっくっ! 笑うしかないな! そうか、そうだった! マスターは、そう! まだこの世界に生まれたばかりの赤子同然故に!」
シャドウは俺から離れ、両手を大きく広げる。
「マスター! 魔力は、神への供物だ。魔法発動の為の呪文や魔方陣は、神への祝詞だ。それが魔術!」
……え?
魔力で魔法を発動させているのだろう?
「それは正しくもあり、厳密には違う! 呪文や魔方陣で、神へ魔力を献上し、超現象を起こす力を得る。火術ならば火神イフリートに魔力を捧げているのだ。呪文を唱えるとは、神へのメッセージだ! 魔法陣は、神への、そう願い文だ!」
初耳なんだが?
じゃあ、神様は存在するのか?
「だ! か! ら! いると言っている! お会いできる人間なんて万にひとつもあり得ないが、だが神はいる!」
……分かった。
分かったから、もう少し離れて踊ってくれ。
「マスター。これがどれだけの事か、分かっているのか? マスターは、私の想像以上に、とんでもない事をやらかしたのだよ!
魔力ゼロというイレギュラー故に発見出来た新たな神! そして神との直接の対話! 決して、女神を怒らせる事のなきよう!」
……怒らせると?
「世界が滅ぶぞ……」
ぷっ!
ナイナイ!
俺は、スッポンポン女神を思い出して大笑いする。
あの女神は時を止められるだけだ!
「おっぱい観賞用とか最悪すぎる! 畏れ多いと言っているのだ!」
おおおお、おい!?
そ、そんな事、思ってないぞ!!!
その時、周囲がふいに暗くなる。
オンリーワン(一人きりのボッチ世界)が、終わろうとしている!?
見上げれば、思考の輝きが静まり始めている。
シャドウ!
ヤバイ!
聞きたい事が聞けていないんだが!
「……マスター、くれぐれも女神ソフィアを怒らせないように」
もう、それは分かったからいい!
それより、……そうだっ!
レベルナインの魔力は!?
「ん? マスターに答えたつもりだが? 私でもマスターでも、マスターの思考でもない者が……」
ナゾナゾはいいから、答えを直ぐに言えぇ!
光の激流は完全に収まり、周囲は闇に戻ろうとしている。
シャドウの仮面がうっすら見えるのみ。
早く!
それは誰だ!?
「マスター? まだ分からないのか? くっくっ! 盲点ではあるのかな! ヒントだ」
ぐっ!
ナゾナゾのヒントを、俺に?
屈辱……だが、早く!
「……魔力の行方は、マスターの思考の判断によるのだ。何故かは知らない。思考のみが知る、だ。私の勝手な推測だが、マスターが、この思考世界にいる間、危険があると困るだろう? 故にマスターの思考は、彼に魔力を預けたのではないかと」
そこまで言われて、俺はようやく理解する。
そして、唖然とする。
じゃあ……。
「ザッツライトだ、マスター。この世界から目が覚めた時、彼が何もしていないことを祈ろう。危険がなければ、彼も妙な事はしないとは思うが……」
そんな……。
レベルナインの魔力だぞ?
俺の思考の判断だと?
「くっくっ! 私も最初は不思議であったが、今ではその判断は正解と思わされたよ! マスターは魔力がなくても、今のところ窮地を楽しんですらいる! であれば、彼が持つのが一番だろうよ!」
ふざけるなっ!
「という事で、ここに来る時は、慎重にする事だ。外で何が起きるか分かない。……と言っても、ここは、マスターや私が自由に往き来出来るような簡単な場所ではないのだが」
俺は、まだその答えに納得出来ていない。
というか、信じられない!
俺の思考の大馬鹿野郎!!!
暗転。
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