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ハイスピード・アナリシス ~異世界で解析しまくる男。  作者: 愛野万之介
第三部 猫に小判
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第49話 オンリーワンワールド。その1



青黒い鉄格子が、幾列も縦に並び部屋の一面を塞いでいる。

背後も、左右も、厚い石壁。


──俺は……牢屋に閉じ込められている。



ざらざらの硬い床には壊れかけたベッドと、臭いたつトイレがひとつ。

最悪な状況だ。


ぼんやりと胡座をかいて、頬杖をつき、鉄格子を眺めていると、シャドウを思い出す。



シャドウは俺の頭の中で、同じようにこうして閉じ込められているわけだが、どんな気持ちだろうか?


俺はまだ数時間だが、シャドウは半月……いや、俺と出会ってからと考えれば1ヶ月。



……耐えられないと思うんだが!?


俺は既に、滅茶苦茶暇で、暇で、暇で、仕方ないんだが!?



最近会っていないので、もしかしたら俺の思考に除霊されているかもしれない。


あ、お爺ちゃんから伝言を預かっているのだった。


まあ、もし俺の思考がアイツに届いているなら、もう伝わっているという事でオッケーかもしれないが。




たが。

暇だ。

暇だ。

暇だ。

暇だ。



ん?



格子の向こうにはまた格子があって、緑色の鎧のニキビー。


つまり、廊下を挟んで、俺達はそれぞれ別の牢屋に捕まっている。



目の前の格子を見ていただけだが、ニキビーは何か知らんが俺の視線を勘違いしたらしく、慌てて立ち上がり、鉄格子に近寄ってくる。



「すまん、別に呼んでないし見てもないし用もない」



俺の言葉に、ガックリとまた元の位置に座り込むニキビー。



しかし、ニキビーは……慌て過ぎだ。


アイツは魔石教徒で、レベルシックスだよな?


双剣を奪われて牢屋に入れられたら、おろおろするは、鉄格子をガンガンするは、弱虫過ぎだ。

こういうところが、ポンコツっぽいと思ってしまうのだ。



俺は小さくため息。

だが、気持ちはわかる。

ここは臭いし暗いし、じめじめするし、早く出たいというのは本音。



おかしい。

そして、ついていない。

納得もできない。



せっかくアリスの生まれ故郷に急いで来たのにこの仕打ち。

到着して一分もせずに、だ。

あり得ない。

牢屋に入れられる理由がない。



いきなり街に入るなり兵士に取り囲まれ、アリスは何処かに連れていかれた。


アリスが連れ去り際に、振り返って笑顔で俺とニキビーに言った。


大丈夫だよ、と。


だからホールドアップして反抗もせずにいたら、ここにぶちこまれたんだが!?

本当に大丈夫なのか!?

全然信用出来ない!


アリスの大丈夫なんて言葉を信じてはいけなかったのではないだろうか。


それに、この街はアリスの故郷らしいんだが……想像と違う。


俺のイメージでは、村で民族衣装を着た人たちが弥生時代レベルで暮らしてるはずだったんだが……。



ここはフタン王国の首都『アイラーン』という街らしい。

王都と呼ばれるに相応しい都ではあるけれど、アリスの故郷というのは間違いではないのか。


かなり文化の進んだ美しい水の都ではないか。

カンパニーより、木が少ない分、お洒落な洗練された雰囲気だったな……。



俺達はその街の地下排水路のような牢獄にいるわけだが……。

おかしいんだよな……。




俺達の腕にはしっかりと魔力封じのあの魔導具が、はめられている。

流行りだろうか?

捕まった人は皆これをつけられるのか?

普通の人なら詰んでる状態だと思うんだが、俺は魔力がないのでこれは無意味なものでしかない。


俺がこんなにゆとりがあるのは、俺自身は未だに完全装備したままだからだ。


寝間着もそのまま。

魔剣(柄だけ)も、兵士に大笑いされてそのまま。

トイレットペーパー(魔力入り)も、まさかペーパーとは思わなかったらしくそのまま。

カラフルな魔弾も、魔石もはまってないから飾りだと思ったらしくそのまんま。


俺は無一文で、元の世界の鞄も靴も無くしちゃったので、実はこれが荷物の全て。

寝間着や下着の替えは、ニキビーに持たせていたから、失ったとは言えるが。


よって、没収されはしたが、装備品は何一つ奪われていないのだ。

ピーチシードも、ちゃんとある。

落とさないように、鞘の中に入れていたのがラッキーだった。



ここの兵士は、いやこの世界の常識かもしれないが、魔力封じの腕輪をはめてしまえばオッケーらしい。

まぁ、普通そうなんだろうし、寝間着以外、実は全て兵器として使えるなんて、気がつけないか。



だから俺は出ようと思えば、いつでも出れる。


魔弾を使うもよし。

ペーパーを使うもよし。

ピッキングするもよし。



ただ、アリスの故郷で、情報収集(データコレクション)もなしで、騒動を起こすのは、平和主義者の俺には抵抗がある。


ここは、アリスの言葉を信じて、何らかの誤解が解けるまで、一日位は待つしかない。




……しかし、居心地も悪いし、暇だ。

……時々見回りに来る兵士達も、見下すような目がムカつく。



……。


ニキビーは、話せないから、暇潰しも出来ない。


せっかくなので、SOMを起動させて、謎リストや、チェックしていないメダカ達をチェックしていく。

とは言え、大きな錦鯉以外は、時々目を通しているから、あまり面白い情報はない。

新しいメダカもいそうもないし……。


……。


……こういう時、猫がいると、便利だったな。

……牢屋の外で何が起きてるか、情報収集(データコレクション)させれたのに。


……。


猫とは、あれ以来、関係は断絶している。


俺はまだ成長して大きくなったのが許せないし、多分猫は猫で置いてかれたから捨てられたと思っているだろう。


その証拠に、猫の以心伝心は、完全に途切れた。


この静けさは、そのお陰だ。

四六時中、頭で響いていた猫の呟きが消えたままなのだ。



契約しているから、結局繋がりは切れていないし、どうやら徐々にこちらに近づいてきているのは分かるが、まだまだ猫との合流は検討すべき事が多い。


今回の猫の失態は、猫が、わがまま過ぎるからなのだ。


あの巨大な亀を食べてしまうなんて、考えられない。



あの亀は、猫の食事の為に捕獲したわけでは断じてない。

俺の癒し、だという自覚が足りない。


という事で、俺はまだ許せない。


また元に戻る可能性はあるが、きっと猫の食欲を考えると、ダイエットは厳しいだろう。


第一、何故、魔剣の癖に食事して大きくなる?

俺は、魔物を育てて喜ぶビーストテイマーではない。



……まてよ、このまま猫が育つと、最後にはライオンになるのか?


昔見た映画のライオン○ングも、最初は子ライオンで可愛かったし、あり得るのか?


よく考えれば、魔剣の柄が黄金ライオンなわけだから、育ててみるのも一興か?



……と、考えていても俺の高速思考では数分しか時間が流れない。


寝るか……。


……いや、こんな汚いところで寝れるか!



うううう………。

暇だ。

時間が無駄だ。

許せない……。



俺は、腕時計を見る。

これは、魔圧や方位や時間が見れる便利な時計。


そして、ライトボタンは、シャドウの契約書が発動するようになっている。


こんな契約を俺がするわけがないのに、シャドウの意図が不明……。



うーん。


サインしてみようか……。


……『別の人』の名前で! くっくっ!



そうすると、どうなるのだろう……。


シャドウと俺の思考を騙せれば、案外いいんじゃないんだろうか?


やってみるのも一興か……。



シャドウが拘束されてるのは、俺と俺の思考が危険人物と考えているから、だ。


だが、この契約が成立すれば、俺とは信頼関係以上の、ウインウイン契約が、発生するわけだ。

シャドウが自由になる可能性がある。



いや、会いたいわけではない。

断じてない。

だが、色々と積もる話があるというか、時々は役に立つ。


アイツも完全に監禁されていては暇だろう。

その後で、ごめん、契約書のサインに名前の間違いがあったので、無しってことで頼む!


……という作戦はどうだろう?



因みにこれを、元の世界でやると詐欺罪とか偽証罪になるので洒落にならない。



怒るだろうか……。


怒るだろうな……。




けれど、俺は暇過ぎた。

思い付いたら、我慢も出来ないタイプである。



暇すぎる俺は、先ずは腕時計のライトボタンをポチッと押す。


以前と同様に、スッと光のスクリーンが現れ、読めない文字が並ぶ。


長々しく並ぶ細かな文字。

その最後には署名欄。


俺はその最後の署名欄に、ニキビー・リュウオウ、と日本語で書いてみる事にする。


軽い気持ちで、どうなるのかなという、本当に遊び半分の気持ちだ。



だが、俺の予想より、──この魔法契約書は、高性能だった!



スクリーンに指で、ニキビーと書けると、安易に考えていた俺は驚愕する。



「な、なんだと!!!」



俺の指が、触れたと思ったら、勝手に光の文字が浮かび上がったのだ!



「ちょ、ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇ!?」



自動的に、読めないが多分、俺の署名らしき文字がくっきりと姿を現す。

途端にスクリーンが輝きだし、動揺していると、契約書は音もなく姿を消していく。



触れただけで契約完了!? なのか!?


こ、これってワンクリック詐欺ってやつか!?



「ちょっと! ちょいちょいちょい!!! ちょっと待てって!」



思わず叫ぶ俺!



光は腕時計に吸い込まれ、同時に周囲の世界が歪んでいく!



こ、これは!?


ちょっと待てって!

ズルいっぞ!


音が、光が、消えていく!

シャッターを降ろすように、俺と世界を分離していく!



やはりこれは、久しぶりの、オンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)!!!





(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)


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