第42話 ヴァニッシング・ピーチ ~1日前
( ― 一日前 ― )
訓練所の食堂で、俺はアリス昼食をとっている。
テーブルに並ぶのは、大量の料理。
様々な大きさや形の木皿に盛られているのは、肉中心の料理。
何の肉なのかは不明。
魔物であることは分かっている。
それでいい。
俺が味に無頓着とか、料理に興味がないわけではない。
むしろ逆。
大好きだ。
あらゆる調理法、素材の生かし方、手間のかけ方は知識から実戦を経て、技術として昇華させた。
手をかければかけるほど味が良くなるのだから、この俺がこだわらない訳がない。
だからこそ、食事中は考えないように、見ないようにしている。
料理は奥が深い。
魔物の名前も種類も知らないのに、それを知ろうとしたら、俺の思考が暴走してしまう。
食事中は、ぼんやりしやすいという俺の経験則だ。
ぼんやり食べていたら、オンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)が発動して、次の日になっていた事が昔は良くあった……。
美味しくいただける魔物もいるのだと、感心して終わりにしておくのが、今はいい。
食事は、美味しく食べるに限る。
「まだかな、ニキビー。お料理覚めちゃうよね」
アリスがため息混じりにぼやく。
昨日の作戦に特に関わった者は、訓練所で待機せよの指示が出ている。
それって、俺、アリス、ニキビー、の三人だ。
だから、食堂には俺達だけ。
他の訓練生は、今日もバリアポイントで訓練中。
この料理の量は、俺もかなり食べるが、ニキビーの分が大半だ。
暇な俺達は、四日間飲まず食わずだったニキビーの為に、豪華な昼食会を、というわけだ。
その主賓たるニキビーは、まだ来ない。
ちょっと俺の用事を言いつけたからなのだが、それにしても遅い。
アリスの言うとおり、料理が冷めてしまう。
俺はのんびりと、アリスの話を聞きながら、昨日の事を思い返す。
昨日の作戦は失敗に終わった。
原料調達部の大失態で、だ。
魔石教徒を逃がさない為の、眠りの森による結界。
その解除をすべく、中心部まで進行する……までは良かった。
だが、せっかくの苦労も無駄に終わった。
魔石教徒の攻撃を受けて、マンイーター含む原料調達部隊は醜態をさらし、まんまと逃げられたのだ。
その後、眠って戻れなくなっていた兵士達は無事に救出されたものの、マンイーターの責任は重い。
俺達は、今日は休息せよとの事だが、原料調達部と第一騎士団は、今も逃げられた魔石教徒を追い、南へと探索を続けている。
つまり……俺の作戦は大成功だ!
まさか、こんな大事になるなんて、と反省すべき点も多いのだが。
しかし、俺の心はまだ晴れない。
また別の厄介事を抱えてしまった気分と言えばいいのだろうか。
あのソフィアと名乗る女神……。
それに、アリス……。
まだ、何も終わっていない。
むしろこれから……だ。
「リョウスケ、聞いてる? その裸の人なんだけど、私が何言っても服を着ないのよ。白い髪で、すごく胸が大きいの!」
口につけていた水を吹き出しそうになる俺。
「裸の人だと? 胸が大きいだと?」
それって……。
まさか?
「ずっと横になって寝てるのよ! 風邪引いちゃうでしょ? 」
ソフィアだ!
間違いない!
アリスは、会ったのか!?
いや、それ、不可能だろう!?
「夢なのに、夢じゃないみたいだったな……」
がくっ!
な、なんだ、夢の話か。
ビックリさせないでくれ!
あの女神、アリスの身体で眠るとか言ってたけど、やはり夢に出てくるくらいはしちゃうわけか。
ちなみに、アリスには、ソフィアの件は一切伝えていない。
ややこしい上に、説明しきれない上に、うそくさい話だからだ。
おまけに俺に魔力ないというのが、大前提の女神様だ。
だから、話すのはやめにした。
「アリス……。もし、また夢で会っても、そっとしておいた方がいい。寝かしたままにしとけよ」
「え? なんで?」
「アリスも気持ちよく寝てる時に起こされたくないだろ? 寝起きの悪い奴って多いからな」
アリスはそう言われて、ふむふむと頷く。
よしよし。
起きて時間を止められても迷惑だし、よけいな話はしてほしくない。
しかし、夢に出てくるとはな。
いかにも女神らしい演出だが、実際は何者なのだ?
これから先が思いやられる。
ふと俺は、ソフィアの姿を思い出す。
白く長い髪、陶磁器のような白い肌、大きな胸がぷるるんしていて……。
また、次会うときも、きっとすっぽぽぽ、ゴホンゴホン!
「リョウスケ! なんか、変なこと考えてるでしょ! ニヤニヤして気持ち悪い!」
俺はハッとして顔を両手で覆う。
へ、変な事なんて、考えてない!
しかし、ソフィアの時を止めるという能力……。
実は、……ガッカリ能力である。
某漫画では、最強ラスボス的な能力であるが、現実は甘くない。
説明は難しいが、結局は役に立たないすっぽんぽん女。
時間が止まった世界っていうとチートなんだが、魔力を固めてるわけだから、それって、微妙なんだよな……。
という事で、目の保養……じゃなくて、話し相手になってあげて満足したら、お帰りになってもらわないといけない。
当面、アリスには内緒で様子見していくしかないな。
「リョウスケ、クロちゃんは? 今日は何処にいるの? 抱っこしてあげたいんだ。きっと寂しいと思うんだよ」
クロとは、猫の事だ。
「寂しい? あのネ、あ、クロが?」
思わず失笑。
猫は、今日も自給自足で、現在は食事中だ。
“美味しいにゃん! にゃ、にゃ、むぐくちゃむぐくちゃ”
救出後、猫は少しだけそばにいたが、魔力がなくなりそうにゃん、あっちでいい臭いがするにゃんと、森の奥へと消えていったのだ。
感動の再会より、食欲。
ある意味、尊敬するよ、猫!
しかし、食べてる音までテレパシーは、下品なんだが。
魔力が減っているのは理解できるので我慢してやっているが。
俺は話題を変える。
「それより、アリス、明日で終了式だな」
俺の言葉に、アリスの大きな青い目が凍りつく。
「俺達は、どこに配属されるかな……」
明日はとうとう終了式。
一カ月……俺は半月だったが、色々あった訓練期間。
終了式が終われば、皆へ辞令が下る。
各自の訓練期間中の成績を元に、適正な職場が決められ、終了式が終われば、皆バラバラになるのだ。
訓練チーフと呼ばれるレベルファイブ以上の能力者は、大体、課長クラスの役職が最初から与えれるらしい……。
だが、……アリスは、そんなの関係ない、よな?
「一緒の部署だといいな? アリスといると、楽しいしさ? アリスも、そう思うだろ?」
……俺は意地悪だ。
こんな、質問は……卑怯だ。
でもな、アリス。
俺は、ムカついているのだ!
「アリス? 答えてくれよ。俺達は、終了式が終わったら、どこにいくと思う?」
アリスの青い目が潤む。
俺はそれを黙って見つめる。
アリスの小さな唇が震えて、やがて微かな声を絞り出す。
「リョウスケは……レベルナインだから、何処でも、きっと……大丈夫だよ、とっても偉い人に……なっちゃうんじゃない?」
俺は苦笑して続ける。
「そうかな? で、アリスはどの部署が希望なんだ?」
アリスは唇を噛む。
青い目は、とっくに俺から視線を外して俯いている。
アリス……。
実は、訓練所の所長から話は聞いている。
アリスは、説得され、訓練期間中は残ることにした。
だが、訓練終了後、改めて中央都市ナインズワームで、総務管理部という部署で退職について話を進めるらしい。
アリスはカンパニーを去り、母親のもとに帰ろうとしているのだ。
だから、アリスは何も言わない。
素直でいい子だから……俺の質問に、答えられない。
ん?
俺は熱い魔力を感じて、そちらへ顔を向ける。
ガシャガシャと、緑色の鎧を喧しく響かせてニキビーが近づいてくる。
アリスも気がつき、慌てて目元の涙を拭う。
アリス……。助かったと思ったら、大間違いだ!
「ニキビー、遅いよ!」
ニキビーは、椅子に座ると、紙とペンを俺に渡してくる。
俺が頼んで持ってきてもらった物だ。
だが、俺は首を降る。
「(俺は字が書けないから)ニキビー、俺の言うとおりに書いてくれ」
ニキビーが俺を見つめて頷く。
ニキビーには、事前に今後の話はしてある。
そして、ニキビーは、俺と共に行動することを選んだ。
だから、後は、アリスだけ……だ。
「まぁニキビー、せっかくの料理だ。先ずはさあ、食べよう」
「そ、そうよ! リョウスケも、食べよう!」
ぎこちない笑顔を作るアリス。
俺達は、ニキビーが話せないから、という訳ではないが、無言で食事をとる。
……美味しい。
手の込んだ料理は、訓練所の食堂にはない。
それでも、鶏肉を煮込んでソースをかけたような料理も、荒く切った豚肉を甘酸っぱい味で炒めたような料理も、骨に厚い肉がついたスペアリブみたいな料理も、美味しい。
もぐもぐ。もぐもぐ。
ちらりと目をやれば、アリスの顔から緊張がほぐれてきていた。
ふん。
俺の胸がざわつく。
俺は串刺しの巨大焼き鳥みたいなのを食べながら、アリスに問う。
「なあ、アリス。俺は言ったよな。アリスの為に、何でもするって」
アリスの手が止まる。
「は、はは。で、でもリョウスケ、ふざけ半分だったんだよね? この前聞いたとき、忘れてたよね?」
ぐっ!
その通り!
アリスにそんな大人の対応されてしまうと、ぐうの音も出ない。
言葉を続けられずに、とりあえず食べることに専念する。
アリスも何も言わずにまた食事を続ける。
口を動かしながら、けれど味に集中なんて出来るわけはない。
もう、いい。
こんな茶番。
いたぶるような真似を続けても何もならない。
とっとと切り出して、終わりにしよう。
俺は肉のなくなった串を皿へと戻し、アリスに向き直る。
「アリスは、俺に黙って、カンパニーを辞めようとしている」
突然、俺は切り出す。
アリスが、動きを止める。
そして、アリスは、叫ぶ。
顔をひきつらせて、バンザイポーズで驚きまで露にし。
「きゃぁ!!! な、なんでよ!? 知ってたの!???」
芸人みたいなリアクションするな……。
「なんでは、コッチの台詞だよな?」
アリスの目が大きくなり、その青い目が泳ぐ。
俺は本当に、意地悪だ。
大きく深呼吸し、腹から沸き上がる感情を抑える。
「母親のところに、帰りたい。そうだろ? アリス?」
アリスは、大きく頬をひきつらせる。
俺は、もう一度、繰り返す。
「アリスは、カンパニーを辞めて、母親のところに帰ろうとしている。そうだよね?」
俺の声は優しい。
でも、サイテーだ。
分かっているさ。
アリスの唇が半開きのまま、震える。
青い瞳から、一筋の涙。
「内緒にしておきたかったんだろうけど、残念だったな」
俺は追及を止められない。
なぜなら、許せないからだ。
そう!
許せないからだ!
俺を騙して、去るなんて!
俺に、何処にもいくなと言っておいて、何も言わないで、消えようだなんて!
「訓練期間が終わって、俺と別々の部署になって、そして気が付けばアリスはカンパニーを辞めていましたって感じか? 私なんかいなくても大丈夫だ、とか思ってる?」
アリスが、顔をあげて何か言おうとするが、俺は更に続ける。
「アリスは俺をバカにしているのか? 何も気がつかないと思っていたのか? 私なんかいなくても平気って?」
俺の辛辣な攻め言葉に耐えられないように、叫ぶアリス。
「だって! だって! 私!」
アリスの可愛い顔は、悲痛に歪み、涙に溢れ、食事で口は汚れて見れたものじゃない。
俺のせいだ。
俺は、何やってるんだ?
こんな可愛い子に。
人は皆、自分勝手なのは知ってたじゃないか。
アリスは、ただ俺の目の前から去ろうとしているだけ。
俺に何の不利益が?
俺が怒る理由って何だ?
それでも、俺は、アリスを更に追い詰める。
「最低だな。嘘つきだな。その様子じゃ完全な確信犯だな。自分の事だけ考えて、自分の都合で考えて、全部綺麗な言葉で誤魔化して……」
言葉が止まらない。
「無駄だ。アリスは無駄な事を、しようとしている。アリスがカンパニーを辞めても、お母さんは治らない。おまけにカンパニーにも、もう帰れない。アリスがやろうとしている事は、無意味で無駄で、無価値で、無謀で、無策で、無理で、無神経で、無責任で、デメリットしかない選択なんだよ」
「リョウスケの! ばかぁぁぁ!!!」
俺の顔に、冷たい液体が浴びせられる。
アリスが、カップの水を、かけたのだ。
ニキビーが驚いて立ち上がろうとするのを、俺は、目だけで制す。
今は、邪魔だ! ニキビー!
アリスが肩で息をして、俺を睨んでいた。
こんな顔で見られるのは、初めてだ。
……いや、あったか。
あ、あった、あった!
込み上げてくる思い出し笑い。
これ、あの時と同じだよ、アリス。
ただし、全く逆だけど!
俺は、アリスの大事なジュースを、彼女に口からぶっかけた事がある。
あの時も、すごく怒ってたな……。
俺が、濡れた髪をそのままにして、クスクス笑っているのを見て、アリスは首を傾げる。
やがて俺は、顔を寝間着の裾で吹きながら、言う。
「なあ、アリス。俺は、ちゃんと言って欲しかったんだよ」
何を? という目。
「分かっていないな。アリスの為に、俺は出来ることなら、何でもするって約束したんだぞ」
アリスは青い目を、パチクリさせる。
綺麗な顔立ちの人形みたいだ。
こんな綺麗なのに、誰よりも純粋で。
……あれ?
俺は何を怒っていたんだ?
「だから、ちゃんと言って欲しかった。私を、助けてってな」
俺は、自分でもアホだと思う。
何故、アリスの為に、ここまでするのか?
分からない。
解析不可能。
他人の為に、人は、頑張れない。
だから、これは、俺の為にするんだろう。
結局、嫌なのだ。
……アリスの選択した未来を、俺は受け入れられないのだ。
アリスにも、母親にも、カンパニーにも、俺にとっても、良い事なんて、ない。
そして、内緒で行こうとしている事が、一番許せない。
それは俺を騙すってことだ。
俺に後手をとらせるなんて、アリスには1000年早いんだよ!
俺は、アリスを見て、ゆっくりと言う。
「お母さんの命を助ければいいんだろう?」
俺の言葉に、アリスは、何を言われたのか分からないという顔。
俺は、懐から、大きな飴玉のような物を出し、テーブルに置く。
途端に溢れる桃の香り。
「これは、ピーチ・シードと呼ばれる、伝説の実だ」
猫の情報では、あの後、森の中でピーチ・シードを探し回る原料調達部の様子は恐ろしいものがあったという。
ピーチ・シードがぁー!!!
なぁーいーぞー!!!
魔石教徒の仕業かぁー!!!
そうマンイーターは吠え続けたらしい。
ごめんなさい。
俺が盗んでしまいました。
これ、ピーチ・シードって言うのか。
……仕方なかったのだ。
なにしろあの時、あの状況で、時が止まったんだぞ!?
あの神様とやらに、ちょっと時間をもらって、ロープをほどいて、桃の実を取って戻ってきて、またロープに自分を縛れば、完全犯罪が出来てしまうなんて!
誰も気が付けない。
目撃者ゼロ。
完璧な無の時間を利用した完全犯罪。
さっきまでなかった物が、次の瞬間、懐にあるという摩訶不思議な現象!
常にデメリットやリスク管理して行動する俺にとって、こんなノーリスクハイリターンは、やるしかなかったのだ!
「1000年に一度しかならない桃神樹の実だ。これを食べると、どんな病気も欠損部位も回復するらしい」
それを聞いて、アリスの顔から、みるみる血の気が失せる。
震える唇がぱくぱくと動くが、声は出ない。
まさに、言葉も出てこないってやつか。
俺だって、正直、まだ自分に驚いているからな。
「ニキビー、俺の言うとおりに手紙をかけ」
ニキビーが、テーブルの皿をずらして紙を取り出す。
「お爺ちゃんへ」
ニキビーが、慌てて文字を書き始める。
でっかいグローブみたいな指でも、意外に線は綺麗だ。
筆談で慣れているのかもしれないが。
俺は字が綺麗な奴は好きだ。
今の俺に字は読めないが、バランスの取れた文字がすらすらと並んでいくのだけは分かる。
俺は満足げに頷き、言葉を続ける。
「突然ですが、我々は、魔石教徒が逃げてしまった事が、残念で悔しくてなりません。その責任は、俺達訓練チーフにもあるはずです」
「な、なんでお手紙かいてるの?」
ようやく、アリスが反応する。
ピーチ・シードと、ニキビーを交互に見ながら、瞬きを繰り返すアリス。
「手紙と言うか、書き置き?」
俺の返事に、アリスの形の良い眉が跳ね上がる。
「書き置き? ど、どういう事?」
俺は微笑んで、ニキビーに言葉を続ける。
「よって我々は、真に勝手ながら、魔石教徒を独自に追わせていただきます」
アリスが仰け反って驚く。
ニキビーは、もう分かっている。
俺から、全部聞いているからだ。
当然、俺に都合のいいようにちょびっとストーリーは修正してだが。
「必ず魔石教徒を捕まえて、戻ってきます。万が一、カンパニー国境を超えてしまった場合も、我々の判断で、追跡を続けるかもしれません」
アリスが小さく声を上げる。
「リョウスケ! ど、どういう事!?」
どういう事って、そういう事だよ。
「勝手な行動をとる事を、お許しください。戻り次第、いかなる処罰も受ける所存です……。最後は、俺達の名前だ。リョウスケ・パインフィールド。ニキビー……じゃなくてニビー・リュウオウ。そして、アリス・フターチ!」
書きき終わった手紙を、俺は受けとる。
「ニキビー、ありがとな!」
ニキビーは、ただ無表情に頷く。
俺はピーチ・シードを、手紙と共に懐に戻す。
手にした瞬間に、腕の付け根にまでビリビリと巨大なエネルギーが走る。
確かに、これは伝説と言われるだけある強いエネルギーを秘めた実だ。
密集した密度の高い高魔力と、桃神樹独特の奇妙な何かが混在した塊。
本当に、これで、アリスの母親を救えるのかは、分からない。
それに、本当は病気じゃないんだろ?
侵略を受けて、逃げてきたんだろ?
怪我を治すだけじゃダメなのかもしれない。
村ごと、俺は侵略から救わないといけないのかもしれない。
だが、アリス。
俺は、俺に出来る事を、するまでだ。
「リョウスケ……。ど、どういう事なの?」
……アリスは、まだ何がなんだか、分かってないらしい。
全く、ふう! だな!
「決行は、明朝だ。暗闇に紛れて訓練所から脱走するからよろしく」
「ちょっと! リョウスケ!?」
そして俺は、皿の巨大焼き鳥に手を伸ばす。
「さあ、腹ごしらえだ! ニキビー、長い旅になるかもしれない。全部食べろよ!」
「ちょと? リョウスケってば!?」
俺は、もぐもぐさせながら、目を細めてアリスを見る。
言いたい事は全部言った!
ああ、すっきり!
「アリス、食べながら、ゆっくり話そうか?」
──決行は明日。
──俺達は、三人揃って訓練終了式をボイコットし、魔石教徒を追う……と見せかけて脱走する。
──それなのに、俺の心は妙に晴れていた。
──これで良い。俺は覚悟を決めたのだ。
──必ず、アリスの母親を助けるのだ。




