第18話 袋の鼠の解析。
「まさか、扉を破られたのか!?」
俺達は、直ぐに宝物庫を出る。
洞窟は、蟻の巣のようになっている。
いりくんだ迷路のような凸凹の通路に部屋。
案外、本当に蟻の魔物の巣を改造したのかもしれない。
雨水や溶岩が流れ込んで出来た穴にしては、良くできた構造なのだ。
砂漠の魔物は大きいらしいから、十分にあり得る。
砂漠へ出る穴は、当然一番上だ。
今俺たちがいる宝物庫は、最深奥に近い場所である。
階段もないそんな通路だから、俺達は登るように、上へと慎重に進む。
剣を抜いたハルカが先頭……。
その後ろを、こそこそと続く情けない俺。
しかし何故だ。
何故、ハルカは扉が破かれたかどうかを、確認しにいくのだろう。
そもそも、砂漠の魔物は、あの頑丈な扉を破ろうとしてたのだ。
それを確認出来た時ってつまり。
それはつまり、確認と同時に、俺達が殺られる時なのでは?
だが、ハルカは前進を続ける。
止めるべきか悩んだが、動かずにいるのもじり貧。
別案はまだないのも事実。
やはり、このままハルカについていくしかないだろうか。
何か、役に立てる事はないだろうか。
俺もハルカも死ぬわけにはいかないのだ。
という事で、俺は魔剣を抜いてみる。
俺が強くなるには、この剣に頼るしかない。
背中に背負った魔剣の柄を握り、そのまま引きずり出して構えてみる。
お、重い……。
腕が重みに耐えられず、剣先が下に傾く。
それを両手で何とか持ちながら、刀身の文字に気づく。
うっすらと金色に光る文字は、やはり読めない。
ハルカの話では、これを見ると魂が乗っ取られるとか言っていたが、何て書いてあるんだろう。
だが、読めない方がいい。
ハルカにはああ言ったが、危険な剣なのは間違いないのだ。
恐らくはフィフス戦争で討たれた持ち主が、この魔剣の最期の持ち主。
それから何百年も、箱に鍵をかけて入れっぱなしなのは、その最たる証拠である。
そんな剣を俺のような魔力もない異世界人が持っている事に不思議を覚えてしまう。
しかし、これだけの魔力が内包されているのだ。
俺に……使う事が出来れば。
いや。
使いこなさなくては、いけない……。
なにもしないで、死ぬのはごめんだ。
通路の壁には松明の揺れる炎。
曲がりくねった坂道で、所々に扉がある。
監禁部屋だったり、魔石教徒達の私室だったり、今のところは異常なし。
ガキン!!!
また洞窟内に響く重厚な金属音。
今度は振動も感じるほどの衝撃。
ハルカの足が一瞬止まるが、それでもまた直ぐに動き出す。
勇敢過ぎるその背中に、俺は声をかける。
「なあ、ハルカ? このまま行ってどうするんだ?」
ハルカは振り返ると、歯軋り。
「と、とにかく扉を守らなくては! 扉を破られたら、袋のネズミだ!」
扉を守るときたか……。
言っている事は分かる……。
それも正しい。
だが、どーやって守るんだ?
騎士団だからなのか、ハルカだからなのか、その勇気は凄いと思うが……俺には無謀としか思えない。
袋のネズミ……、か。
このままじゃ、殺られる。
だが、これではっきりと謎は浮かび上がった。
俺はSOMを起動。
少しでもシャドウの知識が欲しい。
あまり、期待出来ないが。
何もない空間に、期待通りにメダカ達が一斉に集まる。
素早く目を動かして見るが、俺が求めるワードは見当たらない。
ジェムズとか、アルハールとか、砂漠に住む魔物リストとか、魔導具関連とか。
本当に、シャドウ、仕事しろよ!
寝てるのか?
俺の思考にお祓いされたいのか?
今度会ったら、ジャストインタイムという言葉を叩き込んでやる!
それでも、俺は、1匹の気になるメダカにタッチ。
『人と魔物の違い。謎E。解析率20%。人とは、基本的に人族とその血を受け継ぐ種族を指す。それ以外の生物を魔物と呼ぶ。しかし、その差別が徐々に世界問題となり、国際連合及び世界ギルド(謎K)が、”人の基準”を共同発表。知性レベル、及び一定水準以上の常識や法の遵守意識を持つ生物も、人、あるいは人間と認められる事となった。』
なるほど。
人と、魔物の違いについては、分かった……。
そう言う事ね。
やはり、リスや熊も人間だったわけか……。
……だが、このSOMというシステムは、俺が知りたい事を、少し遅れて教えてくれるシステムなのか?
ふざけろ!
肝心の、今知りたい情報が皆無なのは何故だ!
メダカ達が媚びるように俺の指に群がる。
いいんだよ、悪いのは全部あの変態仮面だからな。
「何をしてるんだ? リョウスケ殿?」
おっと。
俺は視点をハルカに戻す。
メダカ達が、視界の外側へ去っていく。
「いや、ちょっと気になる事があってな」
「気になる事?」
ハルカは完全に足を止めて俺を見る。
俺は、手が痛くなったので一旦剣を背中の鞘に戻す。
くっ!
む、難しい。
中々入らない、よっと。
「……リョウスケ殿は、まさか剣を扱ったことがない?」
はっと見上げると、ハルカの悲しそうな顔。
え?
だが、それは一瞬。
直ぐにハルカは元のキリッとした表情に戻る。
「それで? 気になる事とは?」
「ああ。魔石教徒達は、何故、こんな所で安全に暮らせていたと思う?」
「なに?」
「今もそうだ。外の魔物は、俺達の存在に気がついた途端、洞窟に入ろうと攻撃している。魔石教徒は襲われなかったのか? 袋のネズミだろ?」
そう。何百年も、ここで安全に暮らすなんて、不可能なのだ。
「襲われない魔石教徒達。……それどころか、連中は、砂漠とカンパニーを往復している。おかしいだろう?」
ハルカは、形の良い眉を寄せ、確かにと頷く。
「質問だハルカ。魔導具や魔法で、魔物に気がつかれずに安全に移動できる物があるのか?」
ハルカは即座に答える。
「闇術に気配や姿を消す魔法があると聞くが、常に生活するとなると、そう長い効果はないはずだ。魔導具は分からないが、あればかなりの高価な物だ。魔石教徒二十五人全員分は難しい。まてよ、私達をここに運んだ時は、どうして襲われなかったのだ?」
ガキンガキン!
また、扉が叩かれる音が、洞窟に響く。
時間がない。
急がねば。
「リョウスケ殿! 貴殿の指摘は、正しい! もし魔石教徒達のここで襲われない秘密が解れば、私達は助かるかもしれない!」
ハルカはやはり、聡明だ。
俺の考えを見抜き、しっかりと知りたい情報をここまで返してくれるとは。
あとは、俺がこの謎を解くだけだ。
一番嫌なのが、魔法は何でもありだという答えだったが、それはハルカにより無いとクリアにされた。
問題。
ここで安全に暮らし、砂漠を安全に移動する魔法がないと断定する。
その上で、何故、魔石教徒達は、安全に移動し、生活していたのか?
可能性と選択肢を、俺の高速思考で列挙。
300通りの可能性と選択肢が俺の脳内に並ぶ。
俺の思考に漏れはない。
必ずこの中に答えがある。
そして、それを全て消去法にかける。
条件に当てはまらない、あるいは時間や物理的に不可能な可能性と選択肢が、高速で消えていく。
残ったのが、答え、になるんだが……。
これしか、ないか。
俺は一つの答えにたどり着き、更にそこから、対応案を捻り出す。
そして即座に叫ぶ。
「ハルカ、急いで魔石教徒がつけている魔石ネックレスを取ってこよう!」
「は?」
ハルカが、俺をポカンと見ている。
「ど、どういう事だ? ネックレスに、そんな魔法効果があるとでも!? あり得ないぞ!?」
「違う。魔法じゃない。あれが、魔石教徒の証だからだ!」
「それは、魔物が襲ってこない理由にはならないだろう!?」
俺は首を振る。
「なる。魔物は、人ほどではないが、少しは知能があるんだ。人種基準レベルは満たさなくても、魔石教徒は襲わずに、それ以外の人間を襲う、くらいの判断は出きるんだろう」
ハルカが、大きくな目をパチパチさせる。
「何故、魔石教徒は襲われないのか、の答えだよ」
「答え? わ、分からない。リョウスケ殿は何を言っている?」
「答えは、ここが、魔石教ジェムズの支配国だから、だ。ここは、地図の空白地アルハールと呼ばれていたんだろうが、恐らくは300年前に、魔石教ジェムズが武力で魔物を支配した。非公式なのだろうが、ここは、ジェムズの支配国なんじゃないかな」
「ジェムズが支配!? そ、そんな馬鹿な……そんな事が出来るのか?」
「多分、フィフス戦争の時じゃないか? ここを通って……」
「そんな! 方向が違いすぎる!」
きっと、東から回り込んで、カンパニーの裏をとり、この地図の空白地とやらを利用したんだろうな。
そして、きっと、この魔剣も、その時、ここで暴れ回ったんだろう……。
やはり、この剣は、危険かもしれない……。
ハルカが、ようやく俺の指し示す回答に理解が追い付いたらしい。
「まさか、有り得るの……か!? そうか、ならば、あのネックレスをつけていれば、我々も襲われなくなる!???」
!!!
その瞬間、俺はハルカを渾身の力で突き飛ばす。
俺の突然の行動に、ハルカは対応できず通路脇へ倒れる。
何故、そんな事をしたのか、本来、あり得ない事。
頭で考えて動く俺が、身体が勝手に動いてしまうだと?
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ハルカの叫び声。
───もう、洞窟の扉は破られていたらしい。
ハルカの向こうから猛スピードでやって来た、大蛇のような触手。
魔力風で察知して、ギリギリの反応。
俺の胴体に巻き付いたと思ったら、物凄い早さで上へと引き摺られていく。
俺の周囲で、激しく岩が擦れる音がする。
目まぐるしく変わる岩肌の凹凸、飛び散る火花。
手足が、焼けるように痛い。
ふいに世界が白く染まる。
気がつけば、空。
三つの太陽が、眩しい。
俺は、触手によって、砂漠に引きずり出され、空高く持ち上げられている。
ばしゅーーーーー!!!!
魔物の吠え声か?
見下ろすと、遥か下に砂漠。
巨大な魔物とうねる何本もの触手。
俺の眼下に、とんでもない化け物がいる!
とったどーーーー!!! みたいな雄叫びかよ!?
ぎちぎちと俺の身体に巻き付く触手。
ああ、俺はとうとう死ぬのか?
流石に、これは足掻くだけ無理だ!
つづく!




