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非力な私が悪いのか?  作者: 七
日常
13/13

お風呂事情

「ハフゥ~」


湯気が立ち昇る中、鈴は息を吐きながらお湯へと沈んでいった。息がブクブクと泡になって消えていくのをしばしボーッと見る。


温泉最高~


「スズまだか~」

「もうチョット待って。アルも一緒に入ればいいのに」

「やだよ。そんな熱い水」


フ、わかってないなぁお子ちゃまめ。あ~お酒が飲みたい!






この辺りは基本温暖気候で湿気も少ないーーただし精霊達のヒャッハー等でたまに天変地異あり。なので狼族の皆は汗をかいたら軽く水浴びをする事で清潔さを保っていた。他にも愛情表現等で相手を舐めたり毛繕いもするという動物っぽい事もするらしい。


村の外に連れて行ってもらった時にその場面を見るが、服のまま入り太陽で乾かすという豪快さだ。素晴らしい肉体を水で滴らせ、顔をプルプルと振って髪の水を弾く様はまさに野生の狼。粗野でいて気高い生き物達が水辺でくつろぐ様はなかなかに壮観である。


「スズ」


水際から少し離れた木陰でつい皆の筋肉美に見惚れていたら、湖から上がってきたライにおいでと呼ばれたために立ち上がって側に行く。


「どうしたの?」


水を含んだ前髪を鬱陶しそうに後ろへ流した姿は眼福だったと言っておく。色気が半端ないッス。


「入らないのか?」

「うん、いい」


鈴は首を振って拒否を示す。


「汗をかいただろう?」

「あとで村の井戸で水浴びするからいい」


不思議そうに見下ろしてくるライに鈴は再びフルフルと首を振る。本音を言えば確かに汗をかいた。いや、抱っこされてるだけだろとか言わないで。たまーに歩かせてもらってるから。本当にたまにだけどね!今日は快晴だから湖に入れたらさぞや気持ちいいだろうとは思うよ私も。


だが断る。




理由①


初めて湖に連れてきてもらった時、どこまでも底の白い砂地が丸見えという信じられない位透明感ある水質に大いに鈴のテンションは上がった。浅瀬で同じくテンションの高い子供達とキャッキャとハシャぎ、大人達に微笑ましく見守られることしばし。


鈴は知らなかったが信じられない位の透明度は距離感を狂わせる。


子供達に追いかけられている最中に踏み出した1歩が空を切った。「え!?」と声を上げると同時に鈴の身体は水に沈んだ。見える地面に油断していきなり深くなっていたのに気付かなかったのだ。口に入ってくる水。出ていく空気。空を切る手足。完全にパニックである。し、死ぬ!


ここで問題が1つ。私泳げないんですけどー!!?


ちなみに狼族は泳げる。子供達も上手なものだ。教えられるまでもなく本能で出来るために彼らは判断が遅れた。ドプンと水面に消えた鈴を最初は「あーあ」と笑いながら見ていた。しかしなかなか上がってこない。ようやく「あれ?」っと思った時に鈴が水面から一瞬だけ頭を出し「助けっ…!」と叫んで再び沈んでいった。


一瞬の静寂の後に大人達がそこにダッシュしたのは言うまでもない。


危うく異世界で溺死するところだった。異世界的死因の他に、普通の死因も当然あるのだと改めて実感した。ただの水浴びだと言っても油断できん


助けてくれたのはライで、後から何故泳げない事を言わなかったんだと滅茶苦茶怒られた。浅瀬なら大丈夫かなと思ったんだけどなー…はい、スイマセン。反省しております。報告(ほう)連絡(れん)相談(そう)大事。あ、人工呼吸はカウントしませんから。


当然鈴10ヶ条で1人で湖に入るのは禁止になり、結局あれ以来湖には入ってない。大人達が抱っこして入るか?と聞いてきてくれるが断っている。まだ少し怖い。水浴びだけなら待機組の女性達と近くの小川か村の井戸でも行けば出来るし問題はない。ただ子供達と水遊びが出来ないのが残念だ。ああ、浮き輪が欲しい。




理由②


「どっちかって言うとこっちがメイン理由だよね」 


鈴は湖に来た際の定位置となった木陰から皆がいる湖を見ている。皆元気である。元気に巨大魚と戯れ中である。あ、蹴りあげられて巨大魚が宙を舞った。


ソレを初めて見たのは2回目に湖へ来た時。


ライに抱っこされたまま湖に入ろうとしてライが突然足を止めた。どうしたのかとライを見ていると、ライがおもむろに皆の方に顔を向けて声をあげる。


「おーい、シャーが来たぞー気をつけろよー」


シャーと言う何かが現れたらしい。さして焦った様子もなく言うものだから騙された。しばらくしてから聞こえてきた水音。遠くから物凄い速さで近付いてくるソレは何だかとっても見たことがあるシルエットだった為に視界に捉えた鈴は口元をヒクリとさせた。え?アレってアレだよね?まるで某BGMの重低音が聞こえてきそうだ。


淡水にサメ(仮)かぁ…


相変わらず尺度がおかしいこの世界で現れたサメ(仮)の体長はおよそ10Mはあるだろうか。鈴など軽く1口で飲み込めそうな大きな口を開けながらドンドン近付いてくるのに皆何故逃げない。


いや、逃げようよ!「よっしゃ夕飯!」とか嬉しそうに叫んでる場合じゃないって!


はっ!子供達は!?急いで視線を移すと女性達に囲まれて守られているのを発見して安堵の息を吐く。


「アレ何?」

「ん?シャーか?旨いぞ」


いや、ソコは聞いてない。


なんでもこの湖に生息しているポピュラーな生物らしいがあんなに大きいのに強さ的には中の下あたりと狼族の敵ではないらしい。水の中と言うこともあり子供達は不参加。味は淡白だが美味しいからおかずに人気だそうだ。


へー、割りとよく出没するんだ。へー。


この後どうだ凄いだろう!と男達が仕留めたシャーの口をパカーと開けて見せてくれて、鈴は2度と湖には入るまいと決めた。


パカーと開けた口の大きさは鈴より大きかった。うん、無理。


その晩の夕食に出てきたシャーのフライは大変美味でした。




後日、村の近くに温かい水が湧いている場所があると聞いて即ライに連れていってもらい、予想通り天然の温泉を見つけて鈴のテンションはMaxまで上がったのは言うまでもない。


広い湖でユッタリ出来ないのを残念に思っていたために本当に嬉しい発見だった。ちなみにライ達狼族はあまり熱い湯に浸かることを好まないようで、もっぱら一人湯を楽しみ中だ。勿論側には誰かいてもらうけどね。


最近ドンドン10ヶ条が増えるものだからなかなか1人になれない為――私のための決まりだから感謝はしている、けど少し皆の想いが重い!――たまに誰かに連れて行ってもらって貴重な時間を過ごしている。


お一人様タイムゲットだぜ!


鈴は服着用で温泉入ってます。邪道だとはわかっているが、服を着る観念がそこまで高くない彼らにじゃあ脱げば?と言われるのは目にみえているため泣く泣く断念。さすがに何の仕切りもない森のド真ん中で真っ裸は無ー理ー。


ちなみに有名なホオジロザメは世界で3番目に大きな鮫で全長8m体重3000㎏、最大級の種で13m位らしいです。

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