一節ノニ
神父様の登場、
どんな役回りに成るか激しく不明。
私は愛用の赤色の自転車をこぎながら教会へ向かって居た。
この教会は私がまだ生まれてすら無い時からお世話になって居たところだ。
ここの神父様にも度々懇意にしていただいて、将来の結婚式はここで挙げたいと思っている、
相手なんかいないけど。
ようやく私は教会にまで辿り着き、自転車を傍に止めてから開け放たれた木の扉をくぐった。
中は簡素に纏められた形容するに教会、
他になんと言えば良いのかわからない。
カトリックの教会でマリア像が置いてある事からも読み取れる、
私は時折このマリア像に顔も知らない本当の親…
母親を重ねる事があった、
そんな事…私にする資格は無いのに…
マリア像をボット眺めて居たところ、
後ろから気配がしたので振り返ってみると、
私にとって誰よりも家族である神父様が居た。
「邪魔をしてしまったかな…?」
神父様はその銀縁のメガネの奥にある瞳に優しい光をたたえながら、
柔和な微笑みを多くの皺の刻まれた顔に浮かべて私の背後に立って居た。
「神父様…」
おそらく私の考えている事がわかったのだろう、
神父様はそう言う方だ、
ヒトの苦しみを知り、
その悲しみを包み込んでくれるヒト…
だから、
私はこのヒトに対して在らぬ理想の父親像を持って居た、
あんなチチオヤじゃなくて、神父様のようなこんなヒトが私の父親になってくれたなら…
何度ともなくそう思った、
私がまだママのお腹の中に居た時から私は神父様の声を聞いて居た、
神父様こそが、この私にとって唯一の救いであり、
息苦しい世界の中で教会こそが私が呼吸できる場所だ。
だから…
私は神が居無いなどと言ったチチオヤを許さない、
私は私の中に流れる罪人の血を許さない。
「確かに、君のお父さんは良く無い発言をしたけどね…自分のお父さんを信じてあげられないのかい?」
神父様は口調も柔らかく言うが、
言葉に込められた力が決して冗談では無い事を物語って居た。
でも…
「いくら神父様のお言葉でも…こればかりは…あの男は私にとって汚点でしか無いのです」
そして、
そんなチチオヤに、『勇者』に憧れを抱くおとうと草月も、
私は…許さない。
「そうか…『エリコ』は頑固な子だからね…でも、それが君にとって良いところなんだけどもね…いつかお父さんを許してあげて欲しいな」
『エリコ』、
私のあだな、
神父様がつけてくれた、私の大事な大事なあだな。
元々は私の能力、チカラから取られて居てる、
私の能力は二つ在るし、それはどんなヒトにも話していないけれど、
神父様だけには話してある。
その時にもらった名前がエリコだった、
私にとって一番大事な宝物…
「ところで神父様、代理、というはどういう事でしょう?私に神父様の代わりが務まるでしょうか?」
私は今まで壇上に立って聖書を読んだ事など無い、
それなのに突然神父様から代理を頼まれたのだ。
あの時は阿久津から早く離れたかったのもあってろくに考えてはいなかったけれど、
今、よくよく考えたらとても重要な事を任されている事実不安になる。
「あぁ…代理と言っても掃除のね…教会の中と、玄関周りをお願いできるかな?」
なんだ、
そうだったのか、
安心すると同時に少し面白くない。
そうなのならば最初からそう言ってくれればよかったのに、
私は心中で愚痴をいう。
おそらく神父様はそんな事はお見通しなのだろう、
顔にはまた笑みを浮かべて私を見下ろしている。
「それと…もうすぐお祈りが在るからね…君もして行くだろう?一応聖書は持って来て居るかな?」
「はい、もちろんです!」
私は母親の形見の聖書を胸に抱きしめた、
それは、とても暖かかった。
☆
私は夕方の赤を見ながら帰路に着いて居た、
心の中には教会に居た時の余韻が残って居て今日は気持ち良く眠れそうだった。
阿久津の話さえなければの話だけれど…
私が帰ってからも行われるであろう阿久津の悪夢に対し溜息を尽きながらペダルを踏んで居た。
そんな時に、
私は自分自身の運命を呪った。
「あ、ねえちゃん!」
私の前から夕日の光を浴びながら見慣れた男がやって来た、
私のおとうと、草月…
現在は取り巻きの女や、
勇者信者どもに囲まれて居なくてそのだった一人の姿に安心を覚える。
「ちょっと乗せてってよ、オレチャリパンクしちゃってさ、今自転車屋においてあるんだ、明日学校行く時に貰うつもり」
私の自転車の前で聞いても居無い話をさも楽しそうに、和やかに話をしてくる。
でも、
こいつはバカのかな…
「ダメに、決まってるじゃ無いですか、貴方は一体、学校で何を聞いてるんですか?」
道路交通法関連の安全教室などほんのつい最近行われたばかりではないだろうか、
それなのに良くそんな事が言えた物なのだと呆れる、
「私に罪を被せて二人乗りですか?それとも私を降ろして一人で帰りますか?するならば後者にしてくださいね?貴方のせいで私が犯罪者なんかには成りたく無いのです」
そこまでいって漸く二人乗りが犯罪とされているのを思い出したのだろうか?
いい身分だこと…勇者の息子。
暫くお互い黙って居ていい加減私は帰ろうかどうか悩み始めた頃、漸く草月が口を開いた。
「じゃ、オレが運転するよ、ねえちゃんは後ろに乗ってくれ、荷台在るから大丈夫だろ?」
また私に笑顔を向けて聞いてくる、
犯罪をこれから行うことがそんなにも楽しい事だろうか?
それにそもそも何故草月は私が草月と一緒に居たく無いと思っている事に気づいてくれないのだろう。
「お断りします…それはどちらにせよ犯罪には代わりがありません、貴方は私のおとうとを罪人にしたいのですか?」
今度こそ私はピシャリと言い、
自転車の上から私よりも高い位置にある草月の目を見た。
そしてもう行こうとペダルに足をかけた時、
また草月は愚だらない事を提唱した。
「じゃ、歩いて帰ろうぜ?」
☆
私と草月は今では阿久津が待つだけであろう自宅へ足を向けて居た、
私たちの足から伸びた影法師が自転車の影を伝って一つに混ざり合っている。
しかし、
現実では私がおしている赤色の自転車によって私と草月には隔たりがあったが…
一度草月が押そうか?と聞いて来てくれたが私は断った、
触られたくない。
それでも草月は自転車の隔たりなど無い様に私に喋りかけてくる、
実際にこいつには自転車の隔たりなど関係無いのであろう。
「…でさ、そいつ自分の背中に虫がついているのを見てびっくりして飛び上がったんだ!」
ぼぅっとして居て聞いて居なかったけど どうやら草月は今クラスメイトの面白い話でもして居る様だった。
どうせくだらない話だから相槌半分で聞き流して居た、
けど、突然その草月の声が途絶えたので不思議に思って其方を向いた。
そこには、なんと言うか悩む様な顔をして居る草月の姿があった、
どうやら私との会話も無理矢理捻って思い出した物なのだろう、
ただでさえ無い頭をこれ以上絞ってしまってどうするつもりなのだろう?
それでも…
草月の優しさはわかった。
「別に、無理にして話す必要は在りませんよ、どうせ成り行きで出会っただけですし、気まずい風に成るのでしたら先に帰って行ってもらってもかましませんよ…?」
これ以上も草月の話しを聞いて居ると、草月と一緒に居ると気が変になり成りそうだ。
何故あの時に断らなかったのだろう?
今更ながら悔やまれる。
「そ、そんな事ねぇよ!た、確かにオレ、口下手だからねえちゃんを楽しませる事は出来ないけど…オレは嬉しかったんだ、久しぶりにねえちゃんと一緒に帰れてさ…」
うざい…
別に草月の話しが面白くても私は喜んだりしないし、
草月が嬉しがる事なんか…関係、無い。
…でも、久しぶりな事は確か、
同い年だけど草月の面倒は良く私が見て居た、
駄菓子屋に一緒に買い物にいった時の帰りに手を繋いで帰って行ったりもして居た。
私は義母が役にたた無いし、チチオヤなどいすらしなかったので早熟にならざる得なかったのだ。
「そう…ですね」
護られて生きてきた草月と、
加護者に見切りをつけた私。
それも大きな、
姉弟を隔てる違いの一つでもある。
そう思っていたら、
私の自転車のハンドルを握る左手の指に、
草月右の手の指が絡んで来た。
思わずこわばる私の体、
何を思って草月はこんな事をしているのだろう。
「…えと、久しぶりに、手ぇ…繋いでくれないかな?」
…本来は甘えたい年頃なのかもしれない、
それでも勇者の息子という事で周りからの視線が草月に抑制させた生活を送りざる得ない状況を生み出した。
そのための反動が今、
姉である私に帰って来たのだ。
その点では草月も勇者信者の被害者なのかもしれない…
私は草月の指を黙って受け入れた。
☆
家に着いた私たちは呆然として居た、
家に、火がついて居る、
火は既に屋根にまで到達しており、
消防車が数台がかりで火を消そうと心見ている。
そんな光景にある意味心を奪われて居た私の前に、
消防団の一人だと思われる男が現状を説明して来た。
「ご無事でしたか!『御子殿』火の手は既に家を飲み込む勢いです、それに阿久津様は一緒では無いのですか⁈」
現場が野次馬や喧騒によって雑音に塗れて居る為か男は大声で叫んで教えてくれた。
阿久津が居無い…?
まさか…
「クソッ!」
その事に思い至ったのは草月も同じだったらしく、
火の粉舞い散る家屋へと突進しようとする。
「なにを…考えて居るんですか?」
私はその手をいち早く取り、
草月に何をするつもりなのかを聞く、
もうわかって居る、おとうとが何をしたいのかは、想像がつく。
「ねえちゃんだってもう気づいてんだろ⁈阿久津さんが中に居るんじゃ無いのかよ!」
草月は叫びながら私の手を振りほどこうともがくが、
私はそれを許さない。
「そうですよ『御子殿』、それにもしかしたら中に誰か居るかもしれないと思い救助隊を出して居ます!」
そう男が言い切った瞬間にその声が響いた、
その声は私の心に虚しい穴を作る事に成る。
「居たぞ!阿久津様だ!助かった、息をして居るぞ!」
草月はその声を聞いて安心したのかゆっくりと緊張が解けてゆく、
たが私は、逆に嫌な予感がしていた…
これは何かの予兆…
全ての不穏の始まりなのだと…
私を探すが見つける事は出来ない。そして私の居るところにはくる事が出来ないだろう。
阿久津さんの下の名前なんて読むのかわからない、というよりも忘れてしまった\(^o^)/




