三節ノニ
草月くん目線です、
敵のアジトに突入回ですね!
次回は優香の目線に戻ります!
「おい!それって本当か⁈」
オレは五十嵐さんの病室で大声を出して居た、
近くに居た看護婦さんの睨みを気がつかないくらいに。
「あぁ、本当だ…彼女は今、西の鍾乳洞にいる、そして、我々の仲間に迎え入れられた」
そ、そんなバカな…
なんでねぇちゃんが…
「嘘をついている訳では無いのですね?」
阿久津さんもあくまで疑う姿勢を崩さない、
そうだ、オレもねぇちゃんを信じないと!
「…わからん『ダヴィデ』が勝手に言っていただけかもしれん、本人が言った事はしらんからな」
じゃ、じゃあ…!
希望が見えて来た、
だけど、もしかしたらねぇちゃんは奴等に無理矢理…
「いや、わからんぞ…実は虎視眈々と復讐の機会を狙っているのかもな…巌窟王の様にな…」
!
「う、宇津木さん⁉なんで此処に!」
突然の声、
後ろを振り向くと其処には五十代初頭の和服の男が立って居た。
昔、父さんと共に魔王を倒した英雄の一人だ、
英雄の中では一番最後にメンバーになり、最も年寄りなヒトで…
オレはこのヒトが少し苦手だった。
「う、宇津木…てめぇ、今更なにしに来やがった!」
そして、宇津木さんは他の英雄のヒト達と折り合いが悪いらしく、
会うたびにいつも阿久津さんや五十嵐さんに睨まれたり怒鳴られたりして居た。
「騒ぐな、五十嵐、それに俺がどこに現れ様が俺の勝手だ…お前に何か言われる覚えは無い」
宇津木さんも五十嵐さんをにらめつけながら静かに言う、
細身の宇津木さんと、その二倍はありそうな五十嵐さんが睨み合ってる。
が、それもすぐに終わった。
「まぁ、良い問題は伊万里の娘の事だな…奴め、本当に自分の意思でこいつらの仲間に成ったんじゃねぇのか?」
「お前!優香の事を疑うのか⁈」
そうだよ、
なんでねぇちゃんがあいつらとなんか一緒に行く事になるんだよ…
「なんだ、草月、おまえ、聞いて居なかったのか、おまえの姉はな実は…」
「やめろ!今此処で言って良い事じゃ無い、お前も分かってるだろう…」
今度は阿久津さんが鋭い調子で言った、
あの阿久津さんが…
それになんだよ、ねぇちゃんが実は…って。
「草月、気にする事は無い、全部こいつの妄言だ、忘れるんだ」
五十嵐さんがオレの事をみながら言って来るが、
そんな事を忘れられるはずがない、
今でも耳の向こうで宇津木さんが言った事が木霊している。
「まぁ良い、優香の事だが…お前達、情けないと思わ無いか?」
唐突に宇津木さんが厳しい調子で言ってきた、
その言葉はオレの心に深く突き刺さった。
「そもそも、阿久津、五十嵐、お前達…結局俺の言った言葉が分かって居なかった様じゃ無いか…」
今度の言葉は阿久津さんと五十嵐さんに向けられて居た、
どういう事だ?
言った言葉?
「俺は言ったよな?優香が生まれてきた時に…『この娘は伊万里の娘以前にこの子自身だと』」
宇津木さんの声にははっきりとした怒気が含まれて居た、
にらめつける眼光も先ほどの比では無かった。
「俺たちは優香を一個人として見ていた!」
「もちろんです!あなたこそ、普段突然現れてはおかしな事を…」
宇津木さんは一瞬激しく怒ったと思ったらすぐにその顔はかなしそうに歪んだ。
「優香があぁ成った理由はわかった…とっとと探しに行くぞ!」
ああ!分かってるさ!
行こう!ねぇちゃんの居る鍾乳洞へ!
☆
この街には昔、観光地として有名だった鍾乳洞が在る、
今でこそ使われては居無いが、
昔はオレもねぇちゃんと一緒によく遊びにきて居た。
「ついたな…」
宇津木さんが呟く、
その声には緊張が含まれて居た、
ゴクリと、
オレも生唾を飲み込んだ、
それでも喉は痛い程に乾いて居た、
それ程迄に…
「じゃあ、行くぞ…!」
五十嵐さんは怪我が酷かったので居無い、
あの女のヒトと一緒に残してしまって居たけど大丈夫かな…
☆
オレたちはゆっくりと鍾乳洞の中を進んで居た、
意外な事に誰にも会う事は無く、
洞窟は不気味な程に静まり帰って居た。
聞こえるのは互いの息遣いと水の音、そして蛍光灯のやけに耳に着く振動だった。
…
結局、誰に会う事も無く最奥の部屋に到着した、
おそらく此処のボスはこの部屋に居るのだろう。
今迄に無かった生き物の気配が確かにして居た、
阿久津さんが静かに扉を開く、
ゆっくりと中の様子が明かされて行く。
そこにいたのは、オレと同年代の男一人だった、
…お、おい、ちょっと待て!
「ねぇちゃんはどこに居る!」
そう、オレたちは此処に入ったは良いが、一度もねぇちゃんの事を見て居なかった。
玉座に座る男はユックリと答える。
「この部屋にの奥に居る…」
「無事何だろうな…」
大事なのはそこだ、
もしも怪我でもしていたら…!
だが、
阿久津さんは別の懸念を抱いていたのか…
「優香さんが貴方達の仲間に成ったのは本当ですか?貴方達の仲間の方が言っていたのですが…?それに、誰も居ないのはどういう事ですか?」
口調こそ丁寧だがそこにはむき出しの敵意と憎悪が込められて居た。
「勿論嘘だよ、それに誰も居ないのは、他のヒトには逃げてもらったからさ…」
嘘…
良かったと胸をなでおろした。
「では、改めて自己紹介を…僕はイズル…魔王の、息子だ!」
魔王の…息子?
オレは目の前のそいつを見た、
そいつは整った顔をし、
黒い瞳に、染めた訳ではない、地毛の茶髪を持って居た。
確かに、話に聞いた魔王の特徴に一致していた、
遺伝?
オレはそんなくだら無い事を考えていたが、
阿久津さんは先程以上に殺意を膨らませて怒鳴った。
「奴の息子だと‼」
驚いて振り返って見ると、
阿久津さんは揶揄ではなく燃えて居た、
阿久津さんの能力『パイロキネシス』だろう。
だが、その炎はいつも以上に熱かった、
まるで、阿久津さんの心を示す様に…
…『もし私達が先祖の時代に生きていたなら預言者の地を流す事に加わって居なかっただろう』
わぉ!
草月くんもラストは聖書の言葉で終わりましたね、
このイエスの言葉には続きがあるんですが…
割愛させてもらいました。