第38話:董卓の残党
――1人称side――
「兀突骨様! 急報です!」
「布岳か。どうした?」
「董卓の訃報を聞いて涼州討伐に当てていた兵が引き返してくるとのこと! 先陣は牛輔、主将は李傕と見られます!」
「くそっ、速いな……」
董卓を討った数日後のこと。結局あの後、俺と呂布一家(貂蝉含む)は巴蜀に向かい、王允や蔡邕、李粛は長安に残ることに決まった。王允は呂布が居なくなることを拒んでたけど、元々の約束だってことで貂蝉と厳夫人が詰め寄っていた。貂蝉を見て李粛は泣いてた。いやなんで???
取り敢えず王允は袁紹と手を組み、反董卓連合軍はここに来て完全に瓦解したらしい。袁紹・曹操陣営と袁術・孫堅陣営に真っ二つに割れそうだということ。争いが表面化した形だ。
そんな中での李傕侵攻である。更に洛陽方面を抑えている郭汜も動きそうだと言うのでかなりヤバい。
「王允殿、李傕と郭汜の両名はどうにかなりますか?」
「ううむ……郭汜だけならいけるが李傕もとなると危ないな。何なら今は民の人心を掴んでいる最中。そこまで戦争に割ける兵は無いのだ。」
王允さんが困った顔をして、申し訳なさそうに話を続ける。
「兀突骨殿と呂布殿で李傕を撃破してくれんか? 丁度巴蜀への経路としてもあそこは通るのだし、丁度いいとは思うのだが」
「私達で、ですか? しかし多勢に無勢となってしまうのではないでしょうか。呂布殿の近衛兵と藤甲兵だけで敵の大軍に勝てますかね?」
「最悪時間稼ぎさえしてもらえばいいのだ。頼まれてくれんか?」
「うーん……分かりました」
「恩に着る。そうそう、陛下からの言伝として上洛や政治混乱排除の功績を以てお主を烏戈卒衆王に任命するというのがあった。儂からはこれくらいしか出来ぬが気をつけて行ってくれると有り難い」
「ありがとうございます」
どうせ乗りかけた船だ、最後まで付き合ってやろう。そう考えて呂布や妻達と相談することにしたのだが……。
「何だ? 戦いか?いいぜ! 向かおう!」
「兀突骨殿! 元々戦いには巻き込まずに巴蜀へ向かうという予定だったのではありませんか!」
「兀突骨様。私も反対です。王允様には申し訳ありませんが戦いに巻き込まれて兀突骨様を危険に晒す必要はないと思いますよ?」
「そ、そうよ! なんで兀突骨が危険な目に遭わないといけないのよ! 安全に蜀に帰ればいいじゃない!」
「……兀突骨様、私からも一言言わせていただきますが敵は万を超える大軍です。とてもとは言いませんが千を満たすかどうか位の我々では太刀打ち出来ません。ここは諦めて蜀に向かうのがいいと思います」
ご覧の通り、呂布以外の全員から反対されてしまった。呂布だけは戦いに出たくて堪らないようだが……バトルジャンキーかな?()
「そうだな……。だがしかし、世の中には立てなければならない面子というのが有るだろう。増してや李傕や郭汜は董卓に心酔していた武官達だ。今ではなくてもいずれ王允殿や私の首を獲りに来るだろう」
「兀突骨っ!」
「兀突骨様っ!」
「「兀突骨殿っ!」」
説明しても、反対の声は収まらない。呂布だけは壁でうんうんと頷いているが、ねぇホントにそれ分かってる? 分かってるならこの場を収めてくれない?
「……いや、戦う」
「なぜっ! 貴方の身に何かあったらどうするつもりなのですか!」
「王允なんて放っといて帰っちゃいましょうよ、兀突骨!」
「……馬雲騄、蔡文姫。一回話を聞いてくれ。厳夫人、貂蝉殿。少し説明させて下さい」
「……どうぞ」
「皆さんは王允殿のことばかり気にしていますが洛陽には王允殿しか居ないわけではありません」
「数十万の民が居るって言いたいわけ?」
「蔡文姫。お前の父上、義父様の蔡邕殿も洛陽に残っているんだぞ」
「っ!!!」
「厳夫人、貂蝉殿。貴方がたの主人を危険な目に遭わせてしまうであろうことは重々承知しています。しかし、洛陽には民や義父である蔡邕様がいらっしゃる他、王允殿にも全く恩が無いわけではございません。呂布殿に何か有ったときには腹を切ってお詫びしますのでどうか向かわせてくれませんか?」
地面に膝をつき、頭を下げて頼み込む。確かに、安全に益州まで退避すると言っていたのに約束を違えたのは此方側だ。敵の方から来たのだから仕方ないとは言え、その事態を予測できなかった此方に非がある。
そう頼み込んでいると、見ていられなくなったのか呂布が言葉を挟んできた。さっきまで壁際で眺めてただけだったのだが、やっと宥めてくれる気になったのだろうか。是非とも呂布の方からもお願いして欲しい。
「なぁ厳陽、貂蝉よ。兀突骨殿がここまで言ってるんだ、ここで行かせなかったら男が廃ると思うが?」
「……私は男ではありませんよ?」
「うっ、え、えと……」
馬雲騄に言われて、呂布が一瞬で言葉に詰まる。やっぱり頼る相手を間違えたかもしれない。
ただ、唯一の救いは厳夫人が少し眉を動かした点だろうか。先程までの勢いを潜め、眉を顰めて何かを考えている。
「はぁ……。分かりました。どうやら主人が廃れてしまうので参加せざるを得ないようですね」
「おぉ、厳陽!」
「「「夫人!?」」」
「代わりに、です。あなたぁ? もし五体満足で帰ってこなかったら、あの世だろうが何処だろうが私が貴方の五体を全部削ぎ落としますからね?」
「う、わ、分かった」
厳夫人の剣幕に、呂布がたじたじと後退る。こんな様子なのに戦場では信じられないほど頼りになるのだから、不思議な話だ。
「ということで兀突骨殿。よろしくお願いします。兀突骨様もお気をつけ下さい」
「ありがとうございます、厳夫人」
厳夫人が話を呑んだのを見て、仕方ないと思ったのだろう。貂蝉も肩を竦めながら頭を下げた。
「兀突骨殿。厳夫人が言うからには反対することはありません。呂布様をお願いいたします」
「貂蝉殿もありがとうございます」
一応、馬雲騄と蔡文姫も見るが、不満は有りそうなものの声を上げる気は無いらしい。妻達の理解に感謝しつつ話を纏めようとした、その矢先であった。
「……ということだ。じゃあ兀突骨! 行くならさっさと行くぞ! こういうのは先手必勝だ!」
「り、呂布殿!?」
先手必勝だとしたら動き遅れた俺等は負けるのでは? そう思ったが、雰囲気をぶち壊すことになってしまうので口には出さなかった。
鍵括弧の中の兀突骨への名前の呼び分け、誰が誰なのか分かりますか?(分かりづらい場合は変更しようと思っています)
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