「街の人々」
街が破壊されていく。
トロルは人のように手があり足があるが、ほぼ全身が毛で覆われていて人というより猿人に近かった。狂気に満ちた目が街の人々の恐怖を掻き立てていた。体の特徴としては牙のある歯をしていて、草食ではなく肉も食う雑食だろう。また、直立に向いた骨格なのか、手をつきながら歩く猿人とは違って何かを持ったまま二足歩行が出来た。
ドラゴンが北に飛び、南に帰っていった。
だがトロルはまだ街を破壊していて、オークと戦っている為か軍は来ない。街の警察はトロルの侵攻を止めることも出来ず、ただ逃げ回っている。
「ドラゴンから降りた連中がやってくれるのか」
「男と女、たった二人だぞ」
「期待できん」
避難している街の人々に、ため息と失望の声が重なりあった。
丘に登ってくる女性が叫んだ。
「ダニエル、ダニエル、そこにいるの?」
丘の上にいた人々は声を掛け合う。
「ダニエル、いるか、お母さんだよ」
周りに声をかけても、返事はない。
「ダニエルはいくつだね」
「十歳になります」
丘の上では恐怖の為か、親にくっついて一人で動き回っている子供はいなかった。
息を切らせている母親は絶望し、街を振り返る。
察した青年が母親の腕を取る。
「ダメです。今戻ったら」
「私が戻らなければダニエルが」
「子供の方が隙間に隠れて助かる可能性が高い。今から戻るのは無謀だ」
「ダニエル!」
絶望し、母親は両手で顔を覆った。手首を伝う涙。
「子供も大人も、もう何人も死んでる。逃げてくる最中、この目で見てる」
「ダニエルは」
「そこまではわからない」
「なんだ、あれ」
街の人々は街と丘の間の空間に黒いモノが浮かんでいるのが見えた。
「コウモリじゃないか」
「ずいぶん集まってきたな。可哀想に。トロルが怖くて逃げてきたんだ」
コウモリの群れは、人の姿を形作った。
「?」
コウモリの色や形も失い、それは完全に『人』になった。
この世の常識を破って、空間に浮かんでいた。
それは長髪で長い顎髭のある老人。
街の人々が声も出ない状況を見回して、笑うように口を歪めた。
「お前たちには、コウモリを可哀想と思う余裕があるようだな」
老人は親指を下に向けた。
「トロルよ。街の破壊はいい。人間を皆殺しにしろ」
大きな声で笑いながら、声も、その姿も、黒いコウモリに分解されていった。




