「シリアル・キラー」
「また始まったな」
警察の制服を着た者が数人、部屋で葉巻を吸っていた。
煙が部屋中に充満して、壁はヤニでベタついている。
「何がだよ」
太った警官が言った。
「知らねぇのか。留置場見てみろ。軽犯罪者がパンパンに詰まってる」
口元に傷痕のある警官がそう言う。
「だから何でさ」
「ハルバルド長官の八つ当たりだよ」
「ああ、それはまた……」
太った警官は肩を落とす。
「罰金が少ないんだそうだ。街中は犯罪者だらけなのに、だと」
「長官は街の何を見てるんだ」
「大通りに向かっている方に洗濯物を干しているとか。大通りを四、五人の若者が横に並んで、市民の通行を妨害しているとか。オークやゴブリンに銃を流して鉱石を得ているとか」
太った男は『カッ!』と大きな声を出した。
「最後のやつは別として、他のやつは警察が取り締まる事なのか?」
「罰金が定められている罪を取り締まるのは俺たちの仕事ではあるが。お前の家だって大通り側に洗濯物を干す時だってあるだろう? 横に並んで歩く事だって」
「確かにそんなもん取り締まったら、留置所はすぐ一杯になっちまう」
「だろ? だから一杯になってるんだよ。それより、キカッケはあの件かな」
「だから、なんだよ。さっきもそうだけど、初めから具体的に言えよ」
太った警官もハルバルト同様にイライラしているようだ。
「ハルバルト長官がイライラしている原因さ。ほら、例の転生者に逃げられたこと」
「しかも長官の目の前でな」
「その場にいた警官は、未だに全員牢屋に閉じ込められてるらしいぞ」
「マジかよ」
「シッ…… 長官が通るぞ」
会話に加わっていなかった警官が口の前に指を立てる。
男の視線の先に、ハルバルト長官が通りすぎていく。
喫煙場所からの視線には気づいていない。
ハルバルドは多足虫に乗り込み、運転者を呼びつける。
「どっかいくのかな」
「静かにしろ」
「行き先は」
ハルバルドは
「タンク山」
と告げた。すると、運転者はすぐに多足虫を走らせる。
あっという間にハルバルドを乗せた多足虫は建物から出て行ってしまう。
喫煙所から見ていた警官は互いの顔を見つめた。
「聞いたか、タンク山だって?? あの気味悪い山か」
「あちこちに頭を切り取られた動物の死骸がぶら下がってるって。その異様な雰囲気のせいで、オークもゴブリンも近寄らないらしい」
「 ああ。噂じゃ、あそこには連続殺人鬼がいるって」
太った警官が繰り返す。
「連続殺人鬼」
太った警官は目を閉じて頭を下げる。
「ってなんだ?」
「れんぞくさつじんき」
「長官自ら捕り物か」
「さあな…… もしかしたら長官本人がシリアルキラーなのかもな」
1
ハルバルド長官を乗せた多足虫がタンク山の麓に着いた。
多足虫を降りると、運転者に告げた。
「ここで待っていろ」
ハルバルドは獣道を分け入って、山を登っていく。
高い山でも、険しい山でもないタンク山を上がっていくと、ある場所でハルバルドが左右を確認し始めた。
首を振るのではなく、細かく目線を動かして、何かの気配を察知しようとしている。
確かに何者かが隠れている。普通の人間には分からないかもしれないが、隠しきれないほどの強い殺気で満たされている。経験を積んだ者ならそれを感じ取れる。ハルバルドにはそれが分かっていた。
ほんの少しの土の変化を見つけ、ハルバルドはその方向に呼びかける。
「出てこい」
「出てこい?」
「セイト。お前も、そろそろ街に降りたい頃だろう」
ハルバルドが見つめている方で、落ち葉を蹴る音がする。
すぐに斜面を滑るように降りてくる男がいた。
髪はゴワゴワで、アチコチに伸びていて、しかも長さがバラバラだった。何も見ずに勘で切ったような感じだ。
顔つきは幼く見える。服は地味だったが、服から見えている肌には、ナイフで切ったような傷が沢山あった。
「俺を街によんでくれるのか」
「ああ、そうだ、セイト。頼みがある」
「一人二人じゃねぇよな」
「相変わらず狂ってるな。今回は大勢だ」
セイトと呼ばれたその男は、突然ナイフを取り出すと、自らの手の平を切った。
血が滴っているのにも関わらず、男は笑い始めた。
「そうかい。沢山殺していいんだな。色々想像していたんだ。実践させてもらうよ」
「転生者。街にいる転生者を殺せ」
セイトはさらに大きな声で笑った。
「女王か。女王を殺せって言うことか。いや待て。転生者って、あんたも含まれるぞ。そして俺も」
「女王は後回しだ。それと当然、君と私は除外する」
「そうかい。それにしたって結構な数を殺れるじゃないか。何奴が転生者かを見極める方法は?」
「この人相書きだ。殺す順番は好きにしろ」
今度は手の甲をナイフで傷付け始めた。
ハルバルドの持っている紙の束をちらりと見てから、まるで絵を描くようにナイフで手に傷つけていく。
「そんなに殺したら、俺は本当に連続殺人鬼になるじゃねぇか。警察長官の依頼とは思えんな」
「元々シリアルキラーだろうが。で、引き受けるのか、受けないのか」
「受けるぜ」
ハルバルドは人相書きを渡そうとするが、セイトが血まみれの手を出してくるのでその手を払った。
「イッ……」
勢いよく払ったせいで、自身に自らの血が掛かる。
その血を拭って、大きく舌を出し、見せつけるように舐めた。
「血が止まってから見るんだな。今触れば、人相書きが血塗られてダメになる。金も一緒に置いておく。のこりの金は、いつものように片付ける毎に支払う」
「……」
「じゃあな」
セイトは山を降りていくハルバルドを、黙って睨みつけていた。




