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水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


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「逃げ込んだ先にいたもの」




 暑い。いや熱いというべきだろうか。

 俺は息苦しくて目を覚ました。

 体を起こすと、暑さの訳を知り、慌てて後退ろうとし、足が転んでしまった。

 倉庫のような空間で寝ていた。倉庫には荷物も何もなかったはずだ。

「ドラゴン!」

 思わず見たものを口に出していた。

 建物の奥は大きな扉になっているらしく、そこが開いて、ドラゴンがこっちに進んでくる。

 しかも、ブレスを吐きながら。

 俺は立ち上がって、広い空間へ走り始めた。

 俺がここで死ぬ、と知っていたからハルバルドは俺を追ってこなかったのだろうか。

 ドラゴンと俺では、体のサイズが違い過ぎる。あっという間にブレスの熱が感じられる距離に追い詰められた。

 これ以上奥はない。

 この建物を出たら、警察に捕まるかもしれない。

 俺は振り返った。正面にドラゴンの顔。

 西洋風の、大きな翼を持った、翼竜(ドラゴン)

 完全にドラゴンと視線があってしまった。

 俺は丸焦げになって、こいつの餌になるのか。ドラゴンは、ブレスを吐く予備動作として、首を少し後ろに引いた。

 一か八か…… 右に避ける。

 PKの時のキーパーよろしく、右に飛び出して、さらに前転した。

 一瞬、遅れ、ドラゴンのブレスが俺の左に吐かれる。

 比重の軽いガスが口の周囲の器官から吐き出され、燃え上がった炎が、床に叩きつけられる。

 助かった…… 左を選んでいたら死んでいた。

「おい、そこに誰かいるのか?」

 ドラゴンより遥か上から声がする。

 この建物の壁と壁を渡すように掛かっている橋に、誰かいる。

「ここは立ち入り禁止だぞ」

 立ち入り禁止のところに入ってしまったのか。捕まって警察に突き出されるだろうか。それはまずい。

「……」

 俺は無言で走り出した。

「おい、動いてドラゴンを刺激するな」

 その言葉のせいか、ドラゴンは俺の方に口を向けてきた。

「壁沿いに梯子があるから、早く登れ」

 俺は観念して、壁につけられている梯子を登った。

 梯子を登ると男がいた。

 男は布を頭に巻き付け、革製の服を着ている。作業者といった雰囲気だ。

 俺は頭を下げ、言った。

「すみません。申し訳ありません。警察に突き出すのだけはやめて下さい」

「?」

 何かされないか、それだけが不安で頭を下げながらも目で相手の動きを確認していた。

「何をそんなに怖がってるのか分からないが、そんなに悪質じゃないから、警察に突き出したりしないよ」

「ありがとうございます」

「そうだ。これから俺と一緒にドラゴンの手入れをするんだ。手伝ってくれたら、立ち入り禁止場所に入ったことをなかったことにしてやるよ」

「……」

 選択の余地はないだろう。

「ありがとうございます」

 革製の服を着ている男の名は、サムと言った。

 手伝うのはドラゴンの体表に付いた、厄介な植物の種子を、工具を使って取る作業だ。

 一通り説明を受けた後、橋からロープを下ろして、ドラゴンの体まで降りていく。

「ドラゴンは、俺のこと怒ってないですか?」

 俺は隣のロープを伝って降りていくサムに訊ねた。

「なんで怒ってるって思った?」

「こっちにブレスを吐いてきたから」

「ドラゴンのこと、全く知らないのか? ドラゴンってのは呼吸をするようにブレスを吐くもんなんだ」

 サムはドラゴンの体表に着くと、ロープを使いながらポンポンと跳ねるように移動していく。

 俺もようやく足がドラゴンの肌にどどいた。

「なぜ、ブレスを吐くんですか?」

「ドラゴンがどうやって空を飛んでると思う? このでかい体、強靭な筋力が空を飛ぶには、こんな翼で作り出す揚力では足りない」

「えっ? どういうことですか? てっきり翼の力で飛んでいるのだと」

 サムは手際良くドラゴンの肌についた植物の種子を剥がし、背中の籠に放り込むと言った。

「翼の力に加えて体の中に貯めたガスで浮力を得ているんだ」

「それと呼吸をするようにブレスを吐くのはどういう繋がりが?」

「ガスは体の中で増えているんだ。増え過ぎると、浮力が強すぎて降りれなくなるし、体が破裂してしまう。だから、時折貯めたガスを吐き出さなければならないのさ」

「なるほど」

「貯めているガスは、比重の軽いもので、かつ、非常に燃えやすい。ドラゴンの口から出た瞬間、発火しているからあんな風になるんだ」

 ドラゴンの肌を足で軽く蹴り、ロープを伸ばしながら降りる。体表を左右に移動しながら、種子が刺さっていないかを見る。なければ、さらに下に降りて、同じことを繰り返す。

「じゃあ、何かを攻撃しようとしてブレスを吐いているんじゃないんですね」

「いや、当然、そういう時もある。だが、さっき、お前さんがいた時は、怒っていたんじゃない。お前が避けてからブレスを逆側に吐いていたからな」

「えっ?」

 俺は知らぬまにドラゴンに気を遣わせていたのか。

 種子を見つけ、ブラブラとロープを利用しながら、種子に近づく。パイナップルぐらいの大きさの、トゲトゲした種子が、ドラゴンの肌に突き刺さっている。

 ドラゴンの体に付くくらいなので、人間の皮膚にも突き刺さる。慎重に工具を使い、トゲを落としてから引き抜く。

「ふぅ……」

 これは時間がかかるぞ。と俺は思った。

 ロープでブラブラするこの動き、トゲが鋭くて危険な種子。

 そしてこの大きなドラゴンの体を、隈なく見て回らなければならない。

 四つめの種子を外した時には汗だくになっていた。

 あまりに時間がかかっているのを見かねて、サムが俺の方にも回ってきて、いくつかの種子を取ってくれた。

 最後、下まで降りて作業終了になった。

「ご苦労さん」

 そう言ってサムが俺の肩を叩き、指さした。

 その方向を見ると、ドラゴンが首を曲げて俺たちの方を見ていた。

「ドラゴンもありがとう、と言っている」

 俺は思わずドラゴンに手を振った。

 ドラゴンの表情を理解することは出来なかったが、感謝のような、何かを感じた。

「初めてにしちゃ、うまいほうだ。最初からドラゴンに気にいられているのかもな。まあ、ご苦労さん。この先に扉が見えるだろう、あそこから帰りな」

 ようやくこの仕事から解放されるが、何も考えずにここから出たら、警察に捕まるかも知れない。

 サムは良い人だと思うが、俺から『警察から追われている』と正直に話すのも危険だ。

 何か遠回しに別の場所に行きたいと伝えられないだろうか。

「ん? どうした。ロープの後片付けとかは俺がやるから、放っておけばいい」

「……」

 サムは何か察してくれたように声をかけてくれた。

「仕事がない…… とか。あるいは、寝るところがない、とか。そう言った感じだな」

 俺はうなずいた。

「で、どっちだ」

「両方です」

「欲張りな奴だな。まあいい。ドラゴンの世話する仕事は人手が足りなくて困っていたところだ。追加で雇えるか掛け合ってみよう。寝るところは、俺のところに来い。一部屋空いてる」

「ありがとうございます」

 サムはニヤリと笑った。

「そうとなれば、このロープの後片付けはやってもらう事になるぞ」

 壁沿いにある梯子を、また登っていかなければならない。

 だが、ため息をついている場合ではない。転生後の俺の人生は、ここからなんだ。

「がんばります!」

 俺は、自分の気持ちを奮い立たせるように声を張り上げそう言うと、梯子を上り始めた。




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