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ラジオ大賞  作者: ふりまじん
投げ銭大将
28/111

幸せを売る女(仮) 14

「じごく…いいえ、あれが修羅場ってやつかもしれないわ。」

私は洗った皿を奈津子に渡しながら呟いた。


「修羅場ねぇ。」

少し小馬鹿にしたような奈津子の言い方を気にしながら、私は当時を思い出した。

「あなたからすれば、たいした事では無いかも知れないけど、私には人生、後にも先にもアレが修羅場だったと思うのよ。


綾子が車を自宅の駐車場に止めて、

運転席側のドアを開いた瞬間…おじさんがっ。」

私はそこで言葉と手を止めた。


綾子がドアを開けた瞬間、ぐっと外側からドアを引っ張られ、綾子は車から引きずり出された。


驚いた綾子が、綾子のお父さんを見たとき、綾子のお父さんは、ぱあぁぁん。と、ドラマのような見事な平手打ちを綾子にお見舞いした。


心臓が止まるかと思った。


綾子のお父さんは、酒屋さんをしていて、優しいひとだと思っていたから、その夜叉のような怒った顔が怖かった。


一瞬ひるんで、それから震えながら外に出た。


私のわがままの結末に胸がつぶれそうになりながら、泣きそうな声帯を必死に動かして、私は綾子のお父さんに謝ろうとした、が、その前に誰かがそれを止めた。

「それ以上はいけません。」

と、綾子のお父さんの腕を背後からつかんだのは、私の旦那だった。

「あっ、あんた………。」

いいえ、私は、日ごろ旦那を『あんた』なんて呼んではいない。

腹がたっていたので、思わず口から出た言葉だ。


私達の夫婦喧嘩に綾子を巻き込んだことが私には許せなかった。


が、そんな事は瞬間の気の迷いだ。

綾子のお父さんは鬼の形相で綾子を叱っていた。

なにか、私を巻き込んだことが許せないらしかった。

ここで、綾子が泣いて謝るタイプなら、私も旦那に気がいったのだろうが、綾子がお父さんにやり返したために、事態は激しさを増したのだった。


私は、自分の旦那の悪口を思いながら、綾子のお父さんがこれ以上、綾子に手をあげないようにしてくれるのを頼もしくも思った。

やがて、綾子のお母さんとお兄さんが登場し、暴力から、話し合いでの解決へと雰囲気が流れて行き、

私は、綾子のために、綾子のお父さんに必死で事情を説明した。


泣きながら説明した、ムニエルの夫婦喧嘩の話は、残念ながら綾子のお父さんには届かず、

代わりに、私の旦那にこれでもか、と、ダメージを与えた。


私は泣いた。

そして、激しく反省した。

こんな事になるなんて。

綾子のお父さんは、我々の夫婦喧嘩の内容は刺さらなかったが、

激しく泣きじゃくる私には情を感じたのか、私のせいではないと、

綾子に説教しながらも、私をフォローしてくれた。

それは、確かに、綾子のお父さんからしたら、フォローなのだが、


「人妻に」とか、

「人妻だから」と、人妻連呼が、私には辛く感じた。


まるで、自分が寿美礼と言う名前すらなくして、

旦那の為のオプションにでもなったような、疎外感を感じたからだ。


どうして、焦って結婚なんてしちゃったのかな?


私は叱られる綾子を見つめながら、綾子と自分が、随分むかしから、違う世界にいた事を自覚した。


仲間とスキーに行くことも、

飲み会に行ったり、

お見合いパーティでドキドキすることも、結婚なんてしなければ経験できたはずだ。


それはともかく、今、綾子が、叱られたりしなかったに違いない。


私が人妻だから、綾子のお父さんは、私を連れ出した綾子をしかっているのだから。



そんな風に胸がつまる思いをしていると、お父さんの説教を黙ってきいていた綾子が、噛みつくように反論した。


「なによっ!さっきから、人妻、人妻って。

この子の名前は人妻なんかじゃないわ。

スミレちゃんよ!

私の幼稚園からのお友だちの寿美礼ちゃんなんだからっ。


新婚旅行とか、彼氏の話とか、小学生の時からずっと話し合ったり、夢を見たりしてきたのよ。


素敵な食器で、ダーリンと食事するのがスミレちゃんの夢だったのに!

新婚旅行も

3段式の大型オーブンも、何一つ、叶えてあげてないじゃん。

アンタなんて、スミレちゃんの旦那さん失格なんだからっ。

別れてよっ。

私がスミレちゃんと暮らすからっ。」


いつの間にか、お父さんから、背後の旦那に綾子の攻撃対象は変わっていた。


私は綾子の言葉に感激しながらも、ダーリンなどの、少女の黒歴史を暴露されることに赤面しながら、立ち尽くしていた。


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