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ラジオ大賞  作者: ふりまじん
投げ銭大将
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29/111

幸せを売る女(仮) 15

私は、綾子の友情に泣いた。

でも、今思い返すと、実家に住んでいた私が家を出て綾子と暮らす必要は無いのだ。

でも、あの瞬間は、綾子の言葉が嬉しくて、離婚して家を出ても良いと本気で思った。



「もうっ、いい加減に笑うのやめなさいよっ。」


私の話を大爆笑で聞いていた奈津子を私は睨む。


奈津子は困った顔をして、それからおどけたように口を閉ざした。

それから、私の横に来て人懐っこく皿洗いの手伝いをはじめる。


「ごめん。そんなに怒らないで。

私、その頃、仕事が忙しかったから、なかなか皆と会えなかったから、

何か、昔の時間を取り戻したような気持ちになったのよ。」

奈津子の綺麗な横顔に、コーヒーのような甘い苦味が滲む。


私が結婚を決めた頃、奈津子は母親を亡くして人生の岐路(きろ)にいた。


奈津子は、母親の望んだ京都の大学から、地方の専門学校へと進路を変えて、お父さんの仕事を手伝いながら学業に励んだ。


それは、口で言うほど楽なものでは無いと思う。


私は、自分が旦那に守られて、『人妻』のセリフくらいで不服を言ったことを少し恥ずかしく感じた。


奈津子は、お父さんと建築関係の仕事をし、そのお父さんも一年前に亡くなった。

仕事や勉強、資格の取得…

奈津子が結婚しなかった理由を考えると胸がつまる。


「私こそ…ごめんなさい。」

私は、自分の幸せを噛み締めながら申し訳ない気持ちになった。


「どうしたの?謝ったりして……ふふっ。

その先の話を私に話したくなったのかな?」

奈津子は明るく笑った。


「話したくはないわよ?

もう、あの場にいたら笑えないわよ。

綾子のお父さんは怒っているし、

私は、怖くて半狂乱だったし。」



私は、あの後の事を思い出す(///∇///)


綾子のセリフに私は友情を感じながら、抱き合った。

もう、離婚されても良いとか、その時は本気で思った。

ムニエルで離婚なんて、親が帰ってきたら、どう思うかなんて考えもしなかった。


女同士の友情が胸に溢れていた。


私は、もう、なにも怖いものは無いと思った。

さっき、色々ぶちまけたので、これ以上恥ずかしいことは無いと思ったのだ。

そんな私たちの方へ旦那が近づいてくる。

私は、綾子を抱き締めながら旦那をキッと睨んだ。

が、旦那はそんな私ではなく、綾子のところで止まると、彼女の肩に手をかけて真面目な顔でこう言ったのだ。


「綾子ちゃん。ごめん。寿美礼は私にも大切な人だから、誰にも譲るわけにはいかない。」



ちゃらららん♪


その時、私の胸の辺りから、あの人気ドラマの主題歌のイントロが再生されて、トレンディドラマの主人公が恋の遊園地のスイッチを入れるのを感じた。


まわれ、まわれ、回転木馬(かいてんもくば)……


はぁぁぁっ(*''*)




と、ここまでは記憶がある。

そして、気がついたら私は、旦那の胸の中で強く抱き締められていた。



信じられないのだが、綾子が言うには、私は、抱き締めていた綾子を突き飛ばして旦那のところへと向かったと言うのだ。




「で、二人は疎遠になったのか。」

奈津子は答えあわせをするような、何か、含みのある言い方をした。


「そう、なのかなぁ……。

あの後、すぐに子宝に恵まれて、綾子は都会の大学へ帰ったから。


良く分からないわ。」

と、答えながら、綾子が怒っていたことを思い出した。

でも、私は、綾子を突飛ばしたりはしてないと思うし、

綾子は、綾子で、あの時、お兄ちゃんの婚約でモヤモヤしていたのだと、綾子のお母さんから聞いた。


1999年…人類滅亡に突き動かされるように、結婚する人が増えたのだった。


綾子のお兄ちゃんの彼女は、同居しても良いとか言っていて、二世帯住宅に改築しようか、なんて話になり、綾子の居場所が実家になくなる感じが嫌だったらしい。

その上、綾子はブラザーコンプレックスをこじらせていた。


「そうなんだ…。まあ、すぐに仲直りしていたものね。

そっか…よかった。」

奈津子はホッとしたようにそう言った。


私は、奈津子の嬉しそうな顔に、当時、どんな陰口が回っていたのかを疑ってみたが、そんなものは今さらである。


皿洗いが終わると、私たちは後片付けを済ませて、別れの支度をはじめた。


奈津子がいざ帰るとなると、なんだか、無償に人恋しくなって、引き留めたくもなったが、

あまり遅くなるのも、今の時期は良くないので我慢した。


私は、自分で焼いたパウンドケーキをお土産に持たせて、少し切ない気持ちで奈津子を送る。


玄関先で、奈津子はパウンドケーキを見つめながら、少し切なそうに口元を軽く歪めて、それからすぐに明るく笑った。


「色々ありがとう。

でも、寿美礼、やっぱり話上手だよね。

今日、本当に思ったよ。

次は、私が招待するから楽しみにしていてね。」


ニッと笑った奈津子の顔に、中学時代の憧れの少女を見つけて、私は一瞬、時が止まった感じがした。


「え?ええ。」

私は、混乱しながら挨拶をすると、奈津子は名残惜しそうに目を細めて、「じゃあね。」と言って、勢い良く玄関を飛び出してゆく。

「あっ、バイバイ…」


私も、その切ない瞳に胸を締め付けられて、それを知られたくないので、必死に平静を装った。


しばらくの静寂の中で、私は、一人、一軒家に残される孤独を胸に玄関の引き戸を見つめていた。


エンジン音がする。

車のタイヤのきしむ音がして……


私は、良く分からない焦燥感をもて余していた。


が、車が完全に行ったことを感じると立ち上がり、玄関に鍵をかけた。


変な気持ちを吹き消すように、私はお風呂を沸かし、

見もしないテレビをつけてみた。



風呂から上がる頃、家についた奈津子からメールが来ていた。


題 ありがとう。


この題に、少し寂しさが復活しそうになりながら本文をよむ。


本文

さっきはありがとう。

おいしかったよ。

スミレと話せてよかった。なんだか元気になったよ。


小説、頑張って。

スミレは、才能があるよ。あなたは、物語を作って、誰かに幸せを売れる女だよ。今日、本当に、そう感じたよ。

だから、無理に異世界にこだわらず、日常の小さな話を書いてみた方が売れるんじゃないかな?


さっきの話、面白かった。がんばれー(^^)/




「………。」


私は、メールを見つめながら、自分が大切なことを忘れていたのに気がついた。


そう、私の話ではない。

今日は、奈津子の書いた雄二郎の話をするはずだったのにぃ。



私は、速攻でメールを打ち出した。


そう、私たちはアン・シャーリーや、ジョセフィン・マーチが活躍した時代ではなく、

Web小説において、ありのままになんでも書いて良いわけじゃーない。


身バレしたら、世界に向けてバカをさらす事になるんだから。


人の噂は75日で消えるって諺があるけど、


ネットでかいた恥は、タトゥとなって残るんですからねっ。



もう、焦燥感もへったくれもなかった。

この先を思いやられながら、私は、奈津子の小説のダメ出しを始めていた。


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