【第22回】 「魂の重さ」と「贅沢」
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俺はチクノクサの話を聞きながら、「魂の重さ」に興味を持ち始めていた。
それを察したとは思えないが、彼が関連する話を始める。
「これも、はっきりと言うが、我々は人間達が言う処の『宗教』とは一切、関係がない。『現世は修行の場』とする考えもある様だが、死直界の管理人達からしてみれば、先程も言った通り、『人間が仮現界で何をしようが、我々には直接関係ない』のだ。
魂に関して、『善行』を行えば、重くなり、『悪行』を行えば、それが軽くなるのは事実である。
仮現界で『絶大』とも言える〈力〉を持ってしまった人間に対し、元々魂に備わっていた『重さ』を利用して、魂の分類を『機械的に行っている』のが死直界なのだ。
繰り返しになるが、『死直界』が関係するのは『人間の魂』だけ。更に、この死直界が発生したのも、本を正せば、人間の行動が要因となっている事は正確に理解して欲しい」
チクノクサの話を聞きながら、俺の脳が活発に動く。
(地球で人間が持つ〈力〉が大きくなり過ぎた結果として出来たのが死直界……。もし、宗教が死直界の存在を説明しようとするなら、『人間の行動が要因で死直界が出来た』ではなく、『元々あった死直界』という説明を行うだろう……)
漠然とだったが、死直界と宗教との関係を考え始めた時、倉見の口が動いた。
「ちょっと気になったのですが、私自身、『人間は贅沢を求める存在』だと認識しています。この『贅沢』が関係する人間の行動は、チクノクサさん達が言う『悪行』になるのですか? 一部には『贅沢は〈悪〉』という意見も、あるのですが……」
彼女の問いに、チクノクサが答え始める。
「端的に言ってしまえば、人間を含む他の生物に迷惑が掛からなければ、贅沢を求めても問題には、ならない。ただ、ここには『面倒臭い問題』が含まれているのも事実だ。その件に触れると収拾が付かなくなるから、一般的な事例に関してのみ言及しよう」
その言葉に俺と倉見は、今回も黙ったまま頷く。
チクノクサの話が続いた。
「実際、倉見自身に興味があるか、どうかは別として、ダイヤモンドの指輪が欲しかったとする。その価値は三百万円。更に、持ち主は倉見の友人である香川だとしよう。
もちろん、非合法な手段……、香川から、『盗んで入手した』場合は彼女の『財産を奪った』訳だから、これは『悪行』となる。もっとエスカレートさせ、『香川を殺して入手した』となると、彼女の『生命を奪った』という事実が加わり、『悪行』のレベルが高くなるのだ。
一方、倉見は指輪の価値とされる三百万円を自らの手で『稼ぎ』、香川から『買い取った』……、しかも、香川も、その金額に『納得』したとなれば、何の問題もない。例え、倉見が、『二百五十万円にならない?』と『値切った』場合でも、それを香川が納得すれば、これも問題は、なし。
だが、倉見は香川に対して、何だかの弱みを握っており、『脅迫』、もしくは、それに類する行為を行った上で『値切った』となれば、香川が持つ財産権の一部を『侵害』した事になり、これは、お金を払ったとしても、『悪行』となる。
これは当然の話だが、指輪を入手する際、香川へ支払った三百万円に関して『盗んで入手』していたとなれば、それは『悪行』だ。
その行為が『悪行になるか、否か』は、人間以外の生物を含む、生命や財産を『奪う』……、ここには『脅かす』も含まれるが、その点で決まると言えよう。いや、死直界や真現界では『それが常識』なのである。
ちなみに、人間以外の生物に対して『財産』という表現は『変』に聞こえるかも知れないが、人間が〈ある場所〉の環境を破壊し、そこに住んでいた生物が不利益を被れば、これは『生存権の侵害』に当たり、地球が、その生物に与えていた『財産』を奪った事に等しいのだ」