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休憩地に着くとフィアットの講義を大人しく聞いていた隊長は甘いもののことをひと時忘れていたお陰で禁断症状は出ていなかった。

 

眠って回復したヴィヴィがさりげなく砂糖菓子を渡していることから問題はなさそうだった。

 

「隊長、宰相の名前は?」

 

「ジャボット・ゴギャン。爵位は公爵家」

 

「よくできました」

 

「僕だって覚えようと思えばいくらでも覚えられるよ」

 

「じゃ私からも」

 

「どんとこいだよ。ユーリーン」

 

「王様の名前は?」

 

「えっ?」

 

平民でも文字が読めなくても王様の名前は教えられる。

 

盲点だった。

 

「次の休憩までに王様の名前と経歴を覚えましょうね」

 

「あい」

 

フィアットには隊長用のおやつを渡しておき、無くなれば補充できるようにした。

 

天候にも恵まれて通常の行程より早く王都に到着できた。

 

頑張って覚えた隊長へのご褒美に甘味巡りをすることになった。

 

「王都は甘いものがたくさんあって楽しいね」

 

「日持ちしそうなものなら買ってもよろしいですよ」

 

「ヴィヴィ!いいの!?」

 

「はい」

 

甘いものを買ってもいいと許可がでた隊長は止まるところを知らず王都の甘味屋を制覇するのではないかという勢いで買っていく。

 

パーティの日まで存分に甘いものを堪能した隊長はご機嫌に正装に着替える。

 

ヴィヴィもユーリーンもフィアットも着替える。

 

女はドレスでも許されているが、ほとんどが軍服を着ていた。

 

「モルドリア女侯爵が来ているそうよ」

 

「お共にはアルベンスを連れて?」

 

「えぇ」

 

「冗談のつもりだったのだけど」

 

完全に“魅力(チャーム)”にかかっているモルドリア女侯爵は平民であり、まだ完全に刑期が終わっていないアルベンスを連れている。

 

さすがに会場には入れていないから外の庭までということになるが顔を知っているヴィヴィたちは会いたくなかった。

 

「ここで隊長と会ったらどうなると思う?」

 

「見た目は女を侍らせてる軍人よね」

 

「嫌な予感しかしない」

 

隊長は別に容姿が子どもなだけで受け答えはしっかりとできる。

 

四六時中ヴィヴィがついていないといけない訳ではない。

 

「あっ、ゴードン軍師」

 

「久しぶりだね、ユーリーン」

 

「ご無沙汰しております」

 

「気軽に呼べなくなったね、ドルタ第三尉」

 

ユーリーンが軍学校にいたころの指導教官だ。

 

今は柔和な顔だが訓練ともなると人が変わったように厳しくなる。

 

それで学校を辞めたり担当替えを願い出たりした者も多かった。

 

「まだ第三尉です」

 

「何を言う。爵位なしで、その若さで第三尉は誇っても良いことだよ」

 

「ありがとうございます」

 

「それに山狩りを未然に防いだ。ただモルドリア女侯爵は危険因子を釈放しようとしているようだがな」

 

強盗や殺人よりも山狩りは重罪だった。

 

焼け落ちた森を復活させるには途方もない時間が必要になる。

 

「“魅力(チャーム)”を使っているようです」

 

「それなら納得だな」

 

「刑期三十五年に鉱山労働で懲りたと思っていたのですけど甘かったです」

 

「次に何かすれば王都の水路労働になるな」

 

王都は一年に二回、一週間もの間、雨が降り続ける季節がある。

 

排水のために地下に水路を作っているが、稀の豪雨で浸水することもある。

 

水路を増やすために日夜掘り続け、ここに送られた罪人は恩赦というものも存在しないから刑期まで掘り続けるか死ぬかの二択だった。

 

「大きなことが起きなければよいが」

 

「そうですね」

 

パーティは終わりに近づき、乱入してくるのではと危惧していたアルベンスは庭で大人しくしていた。

 

庭でも十分に豪勢な食事が楽しめるから平民のアルベンスとしては満足していた。

 

カナリアは社交界にアルベンスを連れて行くということはしなかった。

 

何度かアルベンスが望んだが、カナリアはもともと社交界に参加するのを好まない性質だったから叶わなかった。

 

「お手柄だったな」

 

「総裁」

 

「ゴードン軍師も鼻が高いのではないですか?」

 

「確かに教え子が功績を上げるのは喜ばしいですな」

 

「明日の昼にアイツを連れてヴィヴィとフィアットと一緒に来てくれ」

 

「わかりました」

 

総裁は王都に家を持っているから、いつもそこでお茶会をする。

 

奥様がいるが誰も見たこともなければ名前も知らない。

 

総裁という立場から弱みを握られることがある。

 

そんな危険から守るために妻の名前も素性も隠していた。

 

「隊長に伝えておきます」

 

「頼んだぞ」

 

テーブルのデザートを全て制覇したあとは食べ尽そうとフォークを持っている隊長のもとへ向かう。

 

わざわざ伝えなくても王都に来たときの恒例だから問題ないのだが、何か気を逸らすことを言って甘いものを食べるのを止めさせないとヴィヴィが怒る。

 

「隊長」

 

「あっユーリーン」

 

「明日、総裁からお茶会の誘いがありましたよ」

 

「総裁の?」

 

「はい、甘いものも出ますよ」

 

気が逸れたところでフォークを取り上げて右手をヴィヴィが、左手をフィアットが繋ぎ確保した。

 

これ以上いるとデザートが無くなってしまうから早々に退散した。

 

少しだけ不満そうな顔をしていたが何を言っても連れ出されると諦めた。


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