緊急用ライラ
「レ、レインさーん。きんきゅー用ライラさんですよー」
窓辺でライラの帰りを待つ黒雨の魔女のところへ、フェリスが近づいていく。
フェリスの背中には、少女たちが急いでこしらえた白い羽がふぁさふぁさと動いている。衣装もライラの服に似たものを、女子寮の生徒たちの中から借りてきた。
小っちゃいライラ(仮)の完成である。
「さすがにあれで魔女が落ち着くことはないと思いますけれど……」
と言いつつ、羽の生えたフェリスを見たかったのもあって反対しなかったジャネット。
――まさに天使ですわ! 天使様の降臨ですわー!!
と、心の中では快哉を叫んでいる。
ライラとはあまり似ていないフェリスの姿を見たレインは、目を丸くする。
「ライラ! 帰ってきたのじゃな! はぁ……良かった……」
「落ち着きましたわ!?」
「藁にもすがる思いなのね……」
ジャネットとアリシアはレインが気の毒になった。ひな鳥ですらもう少し親鳥を上手に見分けられるような感じがした。
黒雨の魔女はフェリスの羽に顔をうずめ、深呼吸する。
「あ、あのっ、レインさん?」
「すーはー」
「レインさん!?」
「すーはー」
「しっかりしてくださいレインさんっ!!」
「…………はっ!?」
黒雨の魔女は正気に戻って起き上がる。
気まずそうに咳払いすると。
「す、すまぬ。わらわとしたことが、ライラがいないせいで少し混乱していたようだ」
「すこし…………」
たくさんだったような気がするフェリスだが、レインが少しと言うなら少しなのだろうと素直に納得する。
「その……助かった。そなたらがいてくれなんだら、わらわはもっと混乱していたじゃろう。勢い余ってバステナ王国を滅ぼしていたかもしれぬ」
「それは本当に助かりましたわ……」
ジャネットはぞっとした。
「ありがとう。そなたらは良い奴らじゃな」
珍しく、黒雨の魔女が感謝を表す。
「もう、だいじょぶなんですか?」
「うむ。カードゲームだろうと、戦闘試合だろうと、なんでも来い。わらわが全力で相手しようぞ」
「たのもしーですー!」
「黒雨の魔女と全力で戦闘試合はしたくないわね……」
伝説の存在と何度も戦って生き延びる自信はアリシアにもない。
平和的にカードゲームをすることにして、女子寮の午後は過ぎていった。
そして、夕方。
天使ライラがフェリスたちの部屋へと帰ってきた。というか、だいぶ前から近くにいたし、早く黒雨の魔女を慰めてあげたい衝動でうずうずしていたのだが、魔女のためと思って必死に隠れていたのだ。
「レイン、ただいま。少しはみんなと仲良くできたかしら?」
「ライラ!!!!」
黒雨の魔女はプレイ中のカードゲームを放り出し、テーブルを飛び越えてライラに飛びつく。
「ちょ、ちょっと、レイン!?」
「あああああライラ! ライラライラライラ! やっと帰ってきた! やっと帰ってきたのじゃ! もう離さぬぞ!」
魔女は力の限りライラにしがみつく。
アリシアが肩をすくめた。
「やっぱりレインさんには、ライラさんがいないとダメみたいね」
「仲良しですー!!」
「まあ、あれはあれでいいんじゃないですかしら?」
少女たちは幸せそうな魔女と天使を眺めて笑った。
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