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十歳の最強魔導師  作者: 天乃聖樹


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黒雨

 爆風に吹き飛ばされ、術師の悲鳴を遠くに聞きながら、黒雨の魔女は戦場を舞う。


 もう、己の自由になる瘴気は残っていない。フェリスの異常な魔力に引きずり出され、今の大技に使い果たしてしまった。


「くくく……やはり真実の女王と連携魔術(コープ)など……やるものではないな……」


 赤い空を堕ちながら、黒雨の魔女は自らを嘲笑う。


 飛ぶことすらできず、死の大地が迫ってくる。


 そんな魔女の体を、天使が抱き止めた。


「ライラ…………」


「お疲れ様、レイン。よく頑張ったわね」


 天使ライラは大きな翼を力強く掻いて、黒雨の魔女を地上へ運んでいく。


 魔女は目を瞬いた。


「これは……夢ではないのだよな? そなたは……本物なのだよな……?」


「ええ、本物よ。わたしは帰ってきたの」


 ライラは優しく告げる。


「っ……っ……ふ、ふふ……」


 黒雨の魔女の双眸から、熱いものが溢れる。その肩が、激しい痛みに耐えるかのように震える。


「わらわは、ずっと、ずっと、そなたを忘れられなかった。わらわは諦めが悪くて、悪すぎて……多くのことを間違えた」


「諦めの悪さなら、わたしも負けていないわ。こうしてあなたにまた逢うため、二千のあいだ狭間をさまよっていたんだから」


「狭間……精錬界を、か……?」


「ええ」


「転生すれば、すべての苦しみを忘れて、新たな生を味わえたというのに……」


「忘れたくなかったから。レインのことを。放っておけなかったから。誰よりもおバカさんなあなたのことを」


「逢いたかった……逢いたかった……もう、逢えないと思っていた……」


 黒雨の魔女はライラの胸に額を押しつけ、奥歯を噛み締める。


「わたしは、必ず逢えると分かっていたわ。一万年かかっても、一億年かかっても。輪廻の螺旋にあなたが迷い込んでも、絶対に見つけ出すと、決めていたわ」


 天使ライラは黒雨の魔女を抱き寄せ、ささやく。


「扉の向こうは、そんなに悪いところでもなさそうだけれど……わたしはレインと一緒にいたい」


 黒雨の魔女はライラにしがみつき、幼子のように涙を流す。


 その涙が戦場に舞い散る様は、まるで雨のよう。


 数千年ぶりの邂逅を果たした白と黒の少女は、互いから片時も離れようとしない。


「よかったです……レインさん」


 それを地上から見守るフェリスは、ぎゅっと手の平を握り締めていた。自分のことのように嬉しくて、嬉しいのに胸が締めつけられていた。


「ぐすっ……ぐすっ……なにがなんだかまったく分かりませんけど、よかったですわー!」


「もう……ほら、ハンカチ」


 なぜか号泣しているジャネットの涙を、アリシアが拭く。


 辺りに術師の姿はなく、邪悪な気配も失せていた。


 彫像と化していた生徒たちの体に血が巡り、再び動き始める。


 学校の周囲に生えていた奇妙な柱も消え、囚われの住民たちも解放される。


 歓喜のざわめきがさざ波のように広がる中、天使と魔女の影だけが、そっと月夜に浮かんでいた。

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